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253 怒ってるじゃん!




(なんとなくって……)




 自信のある、爽やかな表情でそんなこといわれたら、何も言う気は失せてしまう。

 そんな、第六感みたいな。根拠はないけれど、心に従うといったリースの言葉は、私の胸を熱くした。それが心理だと思ったからだ。それと、私たちを信じてくれることが何よりも嬉しかった。いくら、洗脳されているとはいえ、彼の心は、まっすぐなままでよかったと。彼の思考さえも捻じ曲げられていたらどうしようと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。性格や気質までは、エトワール・ヴィアラッテアは変えられないのだ。

 もしそこまで変えられるとなってしまえば、もう何も私たちはできなかっただろう。




(エトワール・ヴィアラッテア……どこまでも性悪すぎて、何も言えない……)




 彼女の心の闇に触れた。愛されないという悲しさと、何もしていないのに偽物というレッテルを張られ、悪役で居続けた彼女はかわいそうな被害者だろう。私たち、乙女ゲームをプレイするユーザーが、スッキリしたいがための舞台装置と言ってしまえばそれまでだ。だからこそ、必要とされた感情しか彼女自身も持ち合わせていないのかもしれない。だから、思い通りにならなかったら、暴れ散らかしてしまうみたいな。でも、それが許されるわけもない。何があったとしても。愛された稲生ならば、洗脳ではなくて、それ相応の努力をしなければならない。

 愛されている、そんな慢心と怠慢は今すぐ脱ぎ去るべきなのだ。

 私もそういう時期があったからこそよくわかる。




「ありがとう。信じてくれて」

「……っ、ああ。だが、お前を信じられない奴は多いだろうな。それは、すまない」

「すまないって、リースが謝ることじゃないよ。だって、人の気持ちは簡単に変えられない。それはよく知ってるし、経験してきたことだから」

「ステラ?」




 リースは覚えていない。それでも、前の世界でも、リースは私の味方でいてくれた。少数の人は私の味方でいてくれて信じてくれた。私は実際、悪女らしい行動をしていなかったからかもしれない。でも、そうでなくとも、エトワール・ヴィアラッテアという聖女は、悪役として作られたのだから、悪役として周りから見られてしまうのだ。本人に何もなくても。




「お前の話は、もっと聞きたいな。だが、今は、目先のことに集中しよう」

「うん。ヘウンデウン教……今回のこととかかわりがあるから」

「これが終わったら、聞かせてくれるか?今回のことを」

「時間があればね。でも、お父様が心配するから、そろそろ帰らなくちゃいけないかも」




 長らく、フィーバス卿と話していない気がする。本当はいろんなことを話して、家族としてのつながりを感じたいところなんだけれど、やらないといけないことは多く、そして私たちが注視べき点はそこであるから、家族との時間よりも優先順位が高くなる。

 寂しいと言えば寂しいし、それを許容してくれているフィーバス卿に何か言いたいのだけれど、彼は無理やり聞こうともしなければ放任的なところもあるからずっとこのままなのかもしれない。最も、彼自身、何か手伝いたいと思っても、領地から出られないのが一番足を引っ張っている。

 それをきっとフィーバス卿は辛く受け止めていて、だから口を出さないのだろう。何もできないことこそが、無力であるから。尊重してのことだとはわかっている。




(そんなこと考えてばかりじゃいられないんだけどね)




 ヘウンデウン教は、私たちの動きを見ながら、数で押してきた。

 怪しく光るナイフに塗られているのは毒だろうか。その毒は、ラアル・ギフト……ベルが協力したものなのだろうか。もしそうだったらいやだなと思ったが、あり得ない話でもない。それに、むしろベルならあり得る。もちろん、私たちの味方よりではあるけれど、ヘウンデウン教の幹部で楽しいことが好きな彼ならば――




「……ッ」

「数多いな、おい!」

「確かに……前は、こんなんじゃなかった……よね?」




 前は、アルベド一人で一掃してしまえるくらいの数だった気がする。そこで、アルベドの強さを目の当たりにしたというか、村長に化けていたヘウンデウン教の人間を殺したことをきっかけに、戦闘が始まったのだが、今回は随分と数が多い気がするのだ。




(何で?やっぱり、私たちが来ることを見越して数を増やしたとか?)




 傍観していた騎士たちも、ようやく事態を飲み込み、妥協したうえで、かせんする。グランツも、リースも、アルベドも。攻略キャラの共闘はいつみても感動ものだった。しかし、その中で、一人動かない人物がいた。




(エトワール・ヴィアラッテアは何しているの?)




 今回の首謀者だからか。仲間であるヘウンデウン教のことを傷つけられないのか。演技をして傷つければ、彼らの洗脳が解けると思っているのだろうか。ただ、傍観して、私たちの様子を眺めているだけのようにも見えた。それが何を示すのかは、全く分からない。

 私は、命を奪わないようにと、剣の柄の部分でみねうちをし、時に光の鎖で拘束するなどして、動きを封じるけれど、全てを防ぎきれるわけではなかった。

 その防ぎきれなかった分の攻撃を、アルベドははじいてくれるけれど、彼の負担ばかり増やしてしまっている気がしてならなかった。




「大丈夫。私は、自分でできるから」

「へいへい。余計なお世話だったってわけか」

「何?アルベド怒ってるの?」

「別に。お前ちょろいなと思っただけだよ」

「いや、悪口だし、怒ってんじゃん!?」




 リースと距離が近かったから? それとも、リースに対しての怒り?

 私が、彼の恋心を利用していることに、アルベドも嫌気がさしたのだろうか。わかってはいるけれど、アルベドだしと確かに甘えている節はある。申し訳なさでいっぱいになる時もあるけれど、彼が許容してくれていると思っているから。




「これ終わったら、一つだけ、何か望み聞いてあげる」

「は?何だよ、いきなり……だから、怒ってねえって」

「機嫌取りに見えたらすみませーん。でも、私も、そんなふうに当たられるの嫌だから」

「……チッ、何で持っていったか?」

「何かって言ったの。ちょっと、あまり大きくしすぎないで。叶えられないものもあるじゃん」

「……確かにな」




 自しょう気味に笑い、アルベドはナイフで相手の胸を一突きする。噴き出す鮮血は彼の顔と服にかかり染めていく。何も思っていないわけではないだろうが、その流れるような仕草は、洗礼されていて、ためらいがないようにも思ってしまう。


 さすがに私はそこまではなれない。


 あらかた片付いてきたが、どこからともなくと現れては襲い掛かってくるヘウンデウン教の暗殺者にらちが明かない。だが、あちらも、押されていると感じたのか撤退しようと固まって逃げていく。固まったら楽だ、と追いかけようとすれば、彼らが何やら詠唱を唱えているのに気が付いた。注意が散漫になっていると、私は距離を詰めるが、アルベドが「行くな!」と後ろから叫ぶ。だが、泊まるにもとまれず、私は光の鎖で拘束しようと試みるが、私の足元を包み込むように魔法陣が展開された。それは、彼らが逃げるために用意したものであったが、うっかりとその領域内に足を踏み入れてしまったのだ。まずい、と引き返そうとするころには、身体が光に包まれ始め、今から逃げたとしても、この魔法から不可能だろうと悟った。それでも、距離をとらなければと後ろに下がろうとするが、それも無意味に終わった。

 追いかけてきたアルベドが私に手を伸ばすがその手もすり抜けてしまう。そして、最後に見たのは、アルベドの必死な顔と、何かに絶望するリースの顔だった。

 


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