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245 地上に舞い戻る




「あった、はあああ!」

「やる気だなあ、おい」

「アルベドも!」

「へいへい。お姫様の言う通りに!」




 私たちに明らかな殺意を持って伸びてきた茨に、アルベドの風の刃がさく裂し、茨はその場で散り散りになるが、すぐに再生して、また襲い掛かってくる。けれど、その再生速度は速いと言えるものではなく、私はその間を縫って、目の前にある核に向かって光の剣を突き立てる。

 核を見つけてからは一瞬だった。

 彼との連携も慣れたもので、いつもなら、攻撃力と素早さのあるアルベドが先陣を切ってくれるのだが、闇魔法に対抗するには光魔法の方がいいと、私が先頭にいくと自ら言って、攻撃を仕掛けた。絶対に私を守ってくれるという安心感。背中を預け、私は核をつぶすことに成功した。心臓をつぶす感覚は何度やっても慣れず、気持ちが悪い。けれど、そうしなければここから出られないのだか致し方ない。それが、誰かの心臓であったとしても。




「うっ……」

「ほい、お疲れ。ステラ。大丈夫か?」

「うん。連日の戦いのせいで、ちょっとめまいがしただけ」

「重症じゃねえか」

「いや、重症にしないでよ。病は気からでしょうが……」




 なんだそれ、と言われてしまい、ここではその用語伝わんないのかなあ、なんて思いながらも、彼に抱きかかえられて、恥ずかしさ半分、ありがたさ半分といった感じでお礼を言った。自分の足で動ければいいのだけれど、核をつぶしたことで、かなり体力を持っていかれてしまったようだ。魔力を吸い取られたような感じはなかったので、本当に気の問題だと思うけど……

 アルベドは、私の顔をのぞき込んで、心配そうに眉を下げていた。そんなに顔色悪いだろうかと確認したかったが、確認しようがない。暗い中で顔がよく見えないからそんな顔をしているんだ、というように自分に言い聞かせて、動けない身体をアルベドに抱きかかえてもらって、崩れ行く肉塊の内部を見ていた。




「キャン!」

「ルーチャット、離れないでね。多分、奈落にポイって捨てられるんじゃないだろうけれど、はぐれたら大変だし」




 そういえば、ルーチャットがいたんだったと、すっかり忘れていて、彼も彼で、悲しそうに私の足にアルベドの足を伝って駆け上がってきて引っ付いた。アルベドは心底嫌そうな顔をしていたけれど、ルーチャットをここにおいては帰れないだろう。




「犬、嫌いなんだね」

「だから、嫌いじゃねえって……なあ」

「何?」

「この毛玉、妙な魔力感じるんだが、ただの犬なのか?魔物とか」

「魔物って、酷い。だったとしても、光魔法だよ」

「なんでわかるんだよ」

「え?」

「えって……お前が言ったんだろ?」




と、アルベドは、なんでわかるのかと疑わしいという目を向けてきた。


 確かに、魔力を感じるけれど、魔物だと考えると、光魔法というのはおかしい話になる。そもそも、魔物は闇魔法しかいないのかという話にもなってくるし。




(そういえば、何で私、ルーチャットが魔力あるとか、光魔法って思ったんだっけ)




「キャン!」

「どうしたの?えー、舐めてくれるの?舐められるの慣れてないんだけどな」

「そりゃそうだろ……って、吠えんな!」

「ルーチャットは、アルベドのこと嫌いみたいだね」

「俺も嫌いだからいいよ。そんな毛玉に好かれても嬉しくねえし」

「そんなこといってぇ。可愛いのにね?」




 私はルーチャットにそう問いかけると、彼は嬉しそうに鳴いていた。心底、アルベドはめんどくさそうな目を向けてきたけれど、嫌いなものを無理に押し付けるつもりはないし、アルベドが嫌いなら、嫌いなままでいいと思った。ルーチャットに手を出さなければ……




「やっと、地上だあ!」

「暴れるなって。落ちるぞ?」




 地上というか、元の世界に戻ってきた。空気は美味しいし、あの腐乱臭もしなくて、新鮮な空気を這いいっぱいに吸い込むことが出来た。

 空の色は悪かったけれど、無事に倒すことが出来たので結果オーライだろう。

 連戦でどうなるかと思ったけれど、アルベドがいてくれたのは大きかった。やはり、戦闘慣れしている人が一人でもいる方が戦闘は楽になると。慣れてきてしまっているが、乙女ゲームの世界だし、そういう戦闘、戦争描写というのは、背景だと思っていたわけで……でも、その背景を目の当たりにして、私はそれらに立ち向かわなければならなくなったと。

 苦しくても辛くても、それが現実だと。

 遥輝も……リースもそれを受け入れて、受け入れたうえで、皇太子としての責務を果たしていたのだから。私も、聖女としての役割を果たすべきだと。

 少し力みすぎているような気もするけれど、混沌……ファウダーは置いておいて、災厄の恐ろしさというのは一度経験すれば、見逃すことはできないと。もちろん、私が偽物だったから、あんなふうに石を投げられたのかもしれない。でも、じゃなかったとしても、大勢の人間が、異物を排除したいという気持ちはもとからあるもので、集団的意識というか、皆がやっているから、やる、指をさす、というのはよくあることなのだ。それは、ゲームの世界でも一緒だと。痛感した。




「まだ、めまいとかするか?」

「だいぶんよくはなってると思う。ありがとう。心配してくれて」

「心配するだろう。お前は頑張りすぎだ」

「でも、だって!ちょっと何もしていない期間があったから、やらなきゃって思っただけで、実際何もできていなかった機関の方が長かったから」

「あーそうだったな。聖女の歓迎会に忍び込んでから、結構時間たってたもんな……」




と、アルベドは、まるで昔を懐かしむように言うので、そこまで昔? と思ってしまった。


 アルベド自身が、転移魔法を使えるので、馬車の移動よりも早く、移動できて時間短縮はそこで出来ているんだろうけれど、でも、私を見つけるまでに時間がかかって、その間、私は何をしていたかといえば……




(普通に生活満喫しちゃってたんだよね……その時間は、確かに……)




 いや、無駄だったなんて言いたくない。無駄なんていう時間は何もない。あの時間の中で、生まれたつながりだってあるわけだし、グランツがどう生きてきたかとか、アルベドとグランツのつながりとかも新たに分かる部分もあって。物語の外側、削られて見えなかった部分に目を向けることが出来たのは、確かに時間はかかっていたけれど、いい経験だとは思うから。

 アルベドもそれに気づいたのか、無駄だとは言わなかった。

 ただ、時間は食ったとは互いに認識がずれていないようで、帰結する。




「リースたちが来る前に倒せたってことでいいんだよね……」

「だと思うが……」

「思うって、何?」




 肉塊を私たちが最初に倒したんだから、倒されていない時点で、私たちが先にここに来たということではないのだろうか。それとも、もう一体? そんなことを考えると、またフラフラと彼に抱きかかえてもらっているのに、動けなくなる。

 だから、強い肉塊をこっちに? 足止めするために? そこまで考えていたのだろうか。私たちの思考の裏をかいたのだろうか。そうじゃなければいいなと願うことしかできず、私は、とりあえずアルベドに下ろしてもらった。まだフラフラしているけれど、そうだったとしたら確かめに行かなければならないのだ。

 だが、その時ザクッと踏みしめられた地面の音を聞いて、彼――その姿を見つけてしまい、私は目を見開いた。




「……ステラ?」




と、聞きたい声で、でもその名前じゃなくて、でも、でも、彼が――


 黄金の彼と、数人の騎士、その中にはグランツもいて、それから、銀色の乙女がそこにいたのだ。



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