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240 強行突破




(つまり、擬態していたってこと?)




 それって、生き物がやるような意思ある行為じゃないの? と、私は現れた肉塊に対して思った。人工的な魔物で、人の犠牲の上にできたまがい物。魔物というにはおぞましくて、形を保っていない赤黒い体に複数の目玉と、無数の手……吐き気を模様すのは、その姿だけではなく死体が腐ったような臭いがすることだ。




(いつみても、えげつないわね……)




 この肉塊を作り出そうとする人間の精神も、この肉塊を操ろうとする人間の精神も異常なことだけは分かった。というか、こんなの普通の人間が魔物だって野に放てるようなものじゃないから。

 にしても、この肉塊に知性という物があったのかとそこが今回考えなければならないところだろう。どうして、こんなものに知性が……




(中にまだ生きている人間の精神があるから?とか?)




 でも、エトワール・ヴィアラッテアが何かしら介入してこのような姿になってのではないかということは感じて、本当にどこまでも悪女だと叫びたくなってしまう。この肉塊には痛いとかいうそういう感情があるのだろうか。あったとしたら、申し訳ないとは思うけれど、ここで手を抜いて殺されるわけにはいかない。また、これらの死骸を持ち帰って研究……というのも難しいだろう。




「お前も気づいてんだろ?違うってことが」

「分かってる。てか、アルベドに言われて、なんか違うって思ったんだけど。あれ、本当に何?どうやって作ってるわけ?人間が作りだしていい領域のものじゃないでしょ」

「それは今に始まったわけじゃないだろう。ラヴィのやつ何やってんだろうな……」

「情報が出回ってないってこと?」

「それか、あの偽物が気付いて、ラヴィを警戒しているかだな。だから、あいつがあっちに紛れ込んでいても、情報が回ってこない、もしくは、嘘をつかれているかの二択だ。まあ、どっちにしても、あいつはそういうの気づきやすいから、すぐに俺にいってくるはずだが……」

「何?」




 アルベドを見れば、少しくらい顔をしており、顎に手を当てて考えていた。何かあるのかと思ったが、そういえば、ラヴァインがそういうの確かに言うけれど、それでも彼らの溝が全て埋まったわけではないのだから、やはり兄弟の間でまた……




(まあ、ラヴァインも嘘と偽りだらけの男だし、兄であっても話さない可能性はあるわけなんだよね……)




 多分、アルベドが気になったのはそこだろう。けれど、今回はそんなんじゃないと私は思っている。ヘウンデウン教内部でも何かが起こっているのではないか。そんな嫌な予感がしてならない。




(殺されるってことはないだろうけれど、でも、そうなってくると心配かも……)




 いくらラヴァインとはいえ――




「――っても、俺らも、あまり気抜いてられねえぜ。あれかなりやばいぞ?」

「うわあっ」




 アルベドが言ってくれなければ、きっと直撃していただろう。

 触手のようなものを伸ばし攻撃してくるところに、やはり、これまで戦ってきた肉塊とは違う気がしてならない。えぐり取られた地面は言うまでもないが、クレーターのような跡が出来ており、あんなものに当たったら致命傷になりかねないと。




(ひええ、ほんと乙女ゲームって何!?って話なんですけど!?)




 これはもはや、乙女ゲームであって、乙女ゲームではない。そんな気さえするというか実際そうなのだ。このままでは、確実に命に係わるわけで、簡単に倒そうとよく言ったものだと思う。




「ステラ、気ぃ抜くなよ」

「分かってる。でも、中に入れないんじゃどうしようもないでしょう?」

「そーだな。気を引いて、一緒に入るしかねえな」




 倒す方法が一つしかないのもこの魔物の厄介なところである。なぜ、内部にしか核がないのか。まあ、分かりやすいところに致命傷があるなんていうのがおかしいので、分からなくはないけれど。

 攻撃を当てつつ、攻撃をみつつという感じで距離を詰めていくけれど、やはり近づけば近づくほどくささが増すというか、気持ち悪くて吐き気がこみあげてくる。

 なんでこんなふうになっているのかはやはりわからない。

 どうにか隙を見計らって、肉塊の口を開けさせて中に入れればいいんだけれど、もしかしたら、それすら警戒されて、肉塊は動こうとしていないのかもしれない。




(だから、何でそんなふうになってるのよ!?)




 ハードモードの上、エクストラモード! そんなの突入してほしくないのに、突入してしまって、どうにもできなくなる。




「アルベド、そっちはどう!?」

「こっちも、難しいんだが?何だこいつ。辺境伯領の近くにいたのもこんな感じだったのかよ!」

「違う。こんなんじゃなかった……」

「何か思い当たるふしでもあんのか?」




と、アルベドの声が耳を貫く。


 思い当たるというよりかは、先ほど考えていた、エクストラモードのこと。すでに、ハードモードのエトワール・ヴィアラッテアストーリー、ノーマルモードのトワイライトストーリー。いずれにしても、レベルというか、人の感情、悪意、無意識な悪意が交差して、なかなか分からないというか、難しいというか。

 エトワール・ヴィアラッテアが介入していることにより、肉塊が強くなっているのは確かであって……




(思考が堂々巡りしてる。このままじゃ、絶対にいけない)




 あの肉塊は、物理も利かなければ、魔法も利かないというめっちゃざっくりした言い方をするとチートなわけであって。そんな、チートの肉塊を倒すには、内部に潜入、その後核をつぶす必要がある。

 速さも、威力も数倍あがっている。

 それを、ラヴァインは確認できていない。彼が、ヘウンデウン教内部で動きにくくなっている証拠ともいえるのではないだろうか。

 攻撃をよけつつ、攻撃をあてにかかるが、吸収されるように、肉塊の身体に吸い込まれていく。これではらちが明かない。




「うわあっ、あ、アルベド、何!?」

「強行突破すんだよ。した噛むなよ?」

「や、やめて。マジで、それ危ないって!?」

「ああ?じゃあ、こっちが疲労してダウンでもいいって言うのか!?」

「よ、よくないけど、よくないけど!?」




 二手に分かれて攻撃していたアルベドは、私の身体を掴み、片側へ来ると、強行突破すると、天高く舞い上がる。何をしようとしているのか、察してしまい、そんなこと嫌なんだけど!? と口にしてみるが、彼は聞いてくれる様子もなかった。

 本当に強行突破って、どんな脳筋!? と、叫びたくなるが、口を開いたら、舌を噛みそうだったのでやめた。

 さすがの肉塊も、目が三百六十度ついているといえど、空高く舞い上がった敵に対しては弱いようで、下でバシン、バシンと腹立たしそうに触手のようなものを叩きつけていた。感情があるんだ、と何ともちんけなことを考えながら、アルベドが魔力を集め始めたことに気づいて、私は覚悟を決めなければならないなと思った。まあ、それが一番いい方法だろうし、今その方法しかないのなら、それに乗っかるしかないのだと思い知らされる。




「いいか、ステラ?」

「よくないけど、それしかないんでしょ!?じゃあ、やってよ」

「へいへい。お姫様の言う通りにッ!」




と、アルベドは声を発したとともに手に集めていた魔力を肉塊に向かって投げつけた。風の刃が肉塊とその周辺のものを切り裂くように現れえぐり取っていく。さすがの肉塊も高質量の魔力には耐えられなかったのか、無様に口を開けた。私たちはその瞬間を逃すことなく急降下し、闇が渦巻く肉塊の内部へ潜入することに成功したのだった。



 

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