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239 喪に




「ステラが真っ黒って、珍しいな。喪服みたいだな」

「いや、アンタが隠れるには黒い服がいいって言ったから……まあ、これはノチェに準備してもらったものではあるけれど……」

「似合ってるぜ。黒いステラも」

「なんか言い方が嫌だなあ……それ」




 黒、というのはかっこいいイメージではあるが、アルベドが黒、そして、闇魔法が……とか考えると、黒ってあまりいい色ではないのではないかと思ってしまう。かといって、偏見を押し付けるのもあれだな、と思ってしまったので、そこで考えるのはやめた。けれど、今日は全身真っ黒である、ということは変わらないので、今日は黒づくめになってスパイのように頑張ってみようかな、みたいな変な感情が湧いて出てくる。




(とまあ、それはいいんだけど。先回りはちゃんとできたってことでいいんだよね)




 何があったのか。それは、ベルがやってくれたことなのかは分からなかったが、雨でリースとエトワール・ヴィアラッテアたちの調査が三日ほど遅れたこともあり、私たちは先にあの村に到着することが出来た。うっそうとした雰囲気の村。ヘウンデウン教の息がかかっている村であり、ほとんどの村人は殺されてしまっていて、ヘウンデウン教の人間に占領されている。ここで、肉塊の施策実験をしているのだが、もうすでに肉塊は発見されているため、ここが研究所ではないのだろうと思う。

 あれを作るのに、どれだけの犠牲を払ったのか考えたくもないのだが、それがあれだけ大量に出現したということは、もうただ事ではなく、目をそらし続けていられないことになっていると。




「まあ、先回りはできたんだし、後は倒して帰るだけかな……それが嫌なんだけど」

「そういや、ノチェに聞いたが、お前ここ最近立て込んでたらしいな」

「何そのいいかた……いや、立て込んでいたというか、ちょっとトラブルというか。トラブル?じゃなくて、うーん」

「肉塊が、足止めか。こんなこと、なかったんだけどな……前の世界で」

「エトワール・ヴィアラッテアの介入があるからでしょ。本当に人の命を何だと思ってるんだろう……」




 自分は人を愛していないのに、人に愛されたいという傲慢さ。

 それが、彼女が心から愛されない理由だなのだろう。見返りは求めてはいけないとは思うけれど、それでも、愛するなら、愛してあげないといけない気がするのだ。相互の気持ちがあって愛という感情が成り立つのだから。




「眉間にしわよってんぞ」

「いてっ。もう、分かってる、分かってるんだけど……」

「あいつは、悪人以外の何ものでもねえよ。俺はちゃんとわかってる」

「うー、まあ、そうだね。悪人だから、殺すの?」




と、ふと思ってしまったことを口にした。彼が、悪人だけを殺す暗殺者だったことを思い出したからだろう。


 別に、嫌味で言ったわけじゃない。それに、アルベドの怒りが殺意に変わっていくような気がして、ならなかったからそんなことをいってしまったのかもしれない。

 アルベドの方を見れば、満月の瞳をキョトンとさせて、次には顔をしかめて私の眉間を突っついた。




「うるせえよ。黒歴史だ」

「えー!?黒歴史とか思ってるの!?じゃあ、もうやらないとか!?」

「……」

「い、いや、人殺しを推奨しているわけじゃないんだけど、なんか意外というか……意外じゃないけれど、抑えているのが意外というか。うまく言葉にできないかもだけど」

「別に。聖女殺しなんて大罪おかせるほどの勇気がねえってこと。そいつを殺したところで、元の世界に戻る確証もねえし。よけいなリスクを取っ払って考えねえとなって話だよ。まあ、許せねえのはその通りだが」

「そ、そう……」

「ただ、殺す以外の方法で解決できればいいっては思っていたぜ。その方法を探せずにこうなっちまっていただけの話だ」




 アルベドはそういってくしゃくしゃと頭をかいていた。

 確かにそれ以外の方法を見つけられれば、と思うのは正しい感情だと思うし、そうして、相手を任せられることが出来るのであればそれがいいだろう。でも、アルベドにはそれを考える余裕がなかったと。余裕というか、頼れる人がいなくて、一人で走るしかなかった結果、その方法が一番いいというのだ。




(それを否定するわけじゃないんだけどね)




 今、自分が黒い服を着ているからかそういう後ろめたい感情も、後ろめたくはあるけれど、自分が信じて突き進んでいるんだから後戻りする方がおかしいとも思ってしまうわけで。

 何が正しいかなんて時々によって変わるのだから、そんな正義は考えるべきじゃない。




「ちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ。さすがに、あいつらが転移魔法をつくとは思わねえけど、念のためな」

「肉塊、倒すの大変じゃない?」

「でも、お前は一日で二体も倒したんだろ?」

「あれは……もう、本当に大変だった!」




 思い出すのもできるのであれば思い出したくない。

 自分がどれほどメンタルが強くなっていても、それまでの存在であるため、あの肉塊の中に入って正気でいられる時間など少ないわけだ。負の感情にトップりと浸からされて、思い出したくないものも思い出してしまうみたいな。

 いやなこと全部。




「まあ、いいや。やろう!それしか、今できることはないんだから!」

「そうだな。そのやる気が続いているうちにな」

「何それ、私のやる気がなくなるって言いたいの!?」

「いーや、やる気が爆発して、お前が暴れる前に事を片付けるってことだよ」

「その言い方の方が嫌なんですけど!?」




 からかっているな、と思いながらも、そういうことで、アルベドの心が落ち着くのであれば、私は何も言わないでおこうと思った。

 肉塊なんてすぐに見つかるだろうと思って散策を始めたが意外なことに、村の中を探してもおらず、森の中に入ってようやく形跡が一つ、二つ見つかった程度だった。何かこれもおかしいというか、いやな胸騒ぎがするのだ。




「肉塊って意思あったっけ?」

「ねえと思うぞ。そもそもあれは、複合体だろ。だから、意思なんて……」

「どうしたの?」

「……いーや何でもねえよ」

「いや、怪しすぎるでしょ?何か心当たりでも?」




と、私が聞けば、アルベドはそうだな、と前置きしたうえで、指を刺した。その先にあったのは、うっそうと生い茂る今いるところよりもずっと不吉な森である。その奥に何かがあるというのか、そっちに肉塊がいったというのだろうか。分からなかったが、とりあえず、何かあることだけは悪心した、が何があるのかは全く予想がつかなかった。


 いやな感じだけ漂わせて、その正体が分からないというのは、また気持ち悪い話であり、早くその正体を突き止めたい気持ちがわいてきた。




「おっと、それ以上行くなよ。ステラ」

「何で!?あっちに何かあるってことでしょ!?」

「ちげえよ。あれはダミーだろ。魔力とか、そういう不吉さをまとわせているだけのダミーだ」

「な、なにそれ、聞いたことないんですけど!?」

「だろうな、俺も初めてだ。あれが意思を持っているかどうかよりも、悪意はあるということだけ……」




 何を言っているか分からなかったのだが、アルベドは懐からナイフを取り出すと、ひゅんとその森の奥に向かってナイフを投げつけた。すると、ぐちゃ、べちゃ、と音と主に、次にやってきたのはたくさんの人の悲鳴のような声。いや、悲鳴――




「嘘……!?」

「まあ、そこにいるっていうのはあってたな。やるぞ、ステラ」




 何もなかった不吉な空間からいきなり現れた肉塊は、やはり、四、五メートルほどの大きさで、気色の悪い図体と、腐敗臭をまき散らしながら私たちに向かってのそのそと向かってきた。



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