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236 罪の擦り付け




「ふぅ……これで、全部かなあ……」

「お、お見事です。ステラ様」

「すっごく、息切れしてるけど大丈夫?」

「ちょっと、休みたいです……正直言うと」




 ぜーはー、と息を切らしているアウローラを見ると、手伝ってくれて本当に助かったな、とほっと息をつくことが出来た。実際に肉塊は三体ほどいて、かなり苦戦を強いられた。アウローラもびくびくしつつも応戦してくれたおかげで何とか日が沈む前までに三体倒すことが出来た。いなかったらもっとかかっていたかもしれない。そんなことを思いながらも、へにゃへにゃとその場で倒れこんでいるアウローラに気休めながらに治癒魔法を施す。疲れがこんなものでとれるとは思っていないけれど、それでも本当に気休め程度に。




「ありがとうございます。ステラ様」

「ううん、こっちこそ。手伝ってくれてありがとう。アウローラがいなかったらもっと時間かかってかも。さすが、爆発魔法」

「ね、良いでしょう。ステラ様……いててて」

「だ、大丈夫?」

「もう少し、治癒魔法かけてもらってもいいですか?」

「え、ああ、うん」




 治りが遅いのは、肉塊の中に長いことはいっていたからだろうか。それとも別の要因が? 何があったとしても、彼女が頑張ってくれたのだから、私も彼女にしてあげられることはしてあげたいと治癒魔法をさらにかける。そしたら、青い顔をしていた彼女はだんだんと顔色がよくなっていって、ふぅ、と静かに息を吐いた。




「ありがとうございます。たびたび」

「大丈夫?本当に平気?」

「平気ではないですね。なんか体中ベタベタするっぽくて早く邸の方に帰りたいです」

「だね……でも、もう少し見て回ってきていい?」

「ええ!?日が沈んじゃないますよ」

「大丈夫、ひとりで行けるから」

「ダメですって!さすがに、私がフランツ様に怒られます……明日でもいいんじゃないでしょうか」

「確かにそうだけど……」

「何かあるんですか?」




 今日中に済ませたいというのは、ちょっとした用事があるからだ。幼児というか、リースたちが調査に向かうという情報をノチェから入手し、先回りしようと思っているから。それを、エトワール・ヴィアラッテアが気付いていたらもっと早めるかもしれない。でも、こっちには転移魔法を使えるアルベドがいるから、先回りはできないわけではない。ただ気づかれなければという話なのだ。

 だからこそ、今日済ませられることは済ませておきたいのだけれど……




(でも、これ以上アウローラを振り回すのも…… )




 日が沈んできているのは確かに見れば分かるし、日が沈み始めたらもう秒で真っ暗になってしまう。だからこそ早く邸に帰った方が危険ではない。だって、この辺りは本当に物騒だったから。




(私も正直足が痛いけれど、外壁はみたいし……)




 肉塊に壊されたところがないか、修復作業は、フィーバス辺境伯令嬢である私の使命でもあるような気がした。フィーバス卿は内側から防御魔法を施すけれど、それには穴があるわけで、外からも魔法を張れたらいいのではないかとこの間話していたばかりだ。

 それがいまではなくてもいいのかもしれないけれど。

 じたばたと足を動かすアウローラを見ていると、やっぱりかわいそうになってきて、このまま帰ろうかなという気持ちもわいてくる。




「分かった。今日はここまでにしよう!」

「本当ですか!って、帰っても仕事多いんでした……あのメイド帰ってこないんですか?」

「ノチェの事?」

「はい!これ、職務放棄だと思います!」

「あはは……ええっと、ノチェにはほかのことを頼んでいるから今はいなくて。彼女、ほら、あのスパイみたいな仕事もできるから」

「私もできます」

「アウローラはねえ……違うところが特化していると思うから、そこで張り合わなくてもいいんじゃないかな」

「ひどいです。ステラ様!」

「褒めたんだけど!?」




 そんなやり取りも慣れてしまい、でもこの他愛ない会話が愉しくて仕方がなかった。日々の癒しというか、ストレスを少しだけ軽減してくれるというか。




(アウローラがいてくれてよかったなあ……ノチェにも感謝しないと)




 私の味方が多いとは言えない。アルベド、フィーバス卿、ブライトもこちら側に引き入れつつはあるけれど、完全じゃない。ただ共犯者になったところで、こちらに勝機が見えてきた。かといって、フィーバス卿がこの領地外に出られないのは痛手ではある。最も、ここから出たいと願っているのはフィーバス卿なので、私があれこれ言える立場ではないけれど。




「どうしましたか?ステラ様?」

「え、ああ、なんでもない……いや、私はもうちょっと確認してから帰るかも」

「ええ、私も……」

「大丈夫。先に帰ってお風呂準備してくれる?」

「わかりました……本当にくれぐれも、危険な真似はしないでくださいね!」

「う、うん」

「私の首がなくなっちゃうので」

「え……ああ、あはは、そうだね」




 自分の心配かい! と突っ込みを入れつつ、私は去っていくアウローラを見つめ、先ほど感じた視線の主を呼びつけた。




「いるんでしょ。出てきて――ベル」

「はいはーい。さすがに気づくようになってきたっすね。俺が育てたかいがあったね、ステラちゃん!」

「やめて!育てたなんて気持ち悪いし、育てられてないし」

「すくすく育っててよろしいっす!」

「うえ……」




 ひゅんと音を鳴らして出てきたのは、ラアル・ギフトの皮を被った悪魔ベルゼブブことベル。なぜ彼がここにいるのかは皆目見当がつかないが、アウローラが私からはならえるのを待っていたらしく、彼はにししと笑って、ほんとうに悪魔だなあ……と思う。それが、悪魔というか、悪魔っぽい笑みというか。




「はあ、それで何?」

「ひどいっす。久しぶりに会ったっていうのに」

「久しぶり?ずっと私のこと観察してたんでしょ。アンタがそこにいなかったとしても、魔法かなんかで!」




 見られている気分がした。でも、それは知っている視線だったから見逃したであって、違う人間のものだったら私はアルベドに相談していただろう。さすがに、アルベドには悪魔とつながっているということは言っていなくて、禁忌とつながるのは、この世界の住民じゃない私だけでいいと勝手に判断したうえで、ベルの存在を隠している。後々面倒なことになってしまうのを避けるためでもある。

 彼は、藤色の髪を揺らしながら、楽しそうに笑っており、本当に何のためにここに来たのか分からなかった。観察しているついで、というよりかは、何かあったから来た、というように私は見えてしまったのだけど。




「察しのいいステラちゃんには何かあげたくなるっすね。何がいいっすか?」

「意味わかんない質問だし、アンタが何かくれるってろくなもんじゃないでしょ」

「ええーまたまたこれも酷いっす。いいものっすよ。役に立つかもしれないものっす」

「本当に……?いや、怪しい!だってアンタ悪魔だし」

「確かに!」

「何で納得してんのよ!」




 バカみたいなコントをしたいわけでもない。でも、まったくこちらが見当もつかないので、早く要件を言ってほしかった。じらしているのは楽しみたいからであって、何もないからではないことを私は知っている。だからこそ、何か不吉な予感がしてたまらないのだ。

 私がごくりと固唾をのみこめば彼はにやりと笑い、私の方へ一歩踏み出した。




「まあ、どうでもいい情報っすけど。あの体を乗っ取った偽物ちゃん。ステラちゃんの妹を洗脳して悪者に仕立て上げる気っすよ」

「え……トワイライトを?」

「嘘つかないっす。そう、自分の罪を擦り付けようとしているんすよ……ね?」

 



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