235 次から次へと問題が
(――本当にそうなのかな)
悶々と晴れない疑問。ごろんとひっくり返れば、高い天井が目に飛び込んでくる。誰もいない部屋で、私は大きなため息をついて、枕に顔を埋めた。
あの後、アルベドと他愛もない話と、これからの作戦会議を行った。その途中で、リースがなぜ私を守ったか論争にはけりがつかず、うやむやになって、アルベドの考えをしっかりと聞くことが出来なかった。アルベド自身、リースのことがきらいなのかもしれなくて、あまり、話したがらなかった。まあ、好きな人……私を好きでいてくれて、でも私はリースを好きでってなったら、よこしまな気持ちが働かないこともないだろうから。恋愛って難しい、何ていう一言で納めるつもりはないけれど、それでも、なんだかなあとは思ってしまうわけで。
素直に、そうだと受け入れられればいいのだけれど。それでも、リースが庇ったのはエトワール・ヴィアラッテアであり、私ではなかった。私から見て、エトワール・ヴィアラッテアに罪をかぶせないために、ただの痴話げんかとして収めようとしている、というふうに見えてしまったのだ。でも、アルベドにはそう見えなかったと。
「わかんないよね……リースの気持ちなんて」
だから、分かりたくてあの願いを書いたのに、立証する暇もなく終わってしまった。そうして、次の事件へと私たちの気持ちは向いていって、今度リースに会えるのはいつになるやら。
(アルベドも家に帰っちゃったし、心細いかも……)
一人で何でもできればいいけれど、レイ兄弟のように割り切れたらいいのだけど、たぶん私はそういうふうにできていないから辛くなってしまうのだ。
ごろん、ごろんと何度も寝返りを打って、することもない日々を送る。この前の世界のことをすべて覚えているわけでもなく、覚えているものをかき集めて、その記憶を頼りに作戦を立てている。この調子で言っても大丈夫なのか。それともダメなのか。いろいろと不安が残り募って苦しいばかりだった。
「ステラ様!」
「うあああっ、びっくりした。え、待って、ノックした?」
「え?ええーと、しました」
「してないよね!?アウローラしてないよね!?」
バンと扉を開けて入ってきた元気のいいメイドに驚きつつも、まったくあやる気もないような彼女にぷくうと頬を膨らませれば、ごめんなさい、とようやく謝った。
アウローラは、いつまで寝てるんですか、となぜか開き直って話をはじめ、私にベッドからどくように言った。相変わらず、私たちの関係は主人と従者なのか分からなくなる。
「そういえば、星流祭どうでした?」
「うーん楽しかったかな?」
「何故に疑問形なのですか!?楽しかったんじゃないんですか!?」
「いやあ、楽しかったけど、いろいろあって。でも、いろんな人に会ったよ」
「ステラ様、そんなに交友関係広くないでしょうに……」
と、失礼なことをいって、そっとアウローラは後ろに引いた。何で、そんなふうに見えるのかなあ、なんて何度だって思う。私が、そんなに人と関わるのが嫌で、避けられているとでも思っているのだろか。交友関係が少ないのは、フィーバス辺境伯からあまり出ないのであって……
(まあ、実際そんなオーラというか、陰キャオーラは出ているんだろうね……はあ)
事実だから否定しようもない。
アウローラの言っていることが間違いではないので、そうだけども、と言いながら、お土産話が聞きたいらしい彼女に、ダズリング伯爵家の双子や、ブライト、それからリースに会ったことを伝えた。すると案の定、豪華なメンバーにアウローラは興味津々といった様子で食いついてきた。
「本と羨ましい限りです!私も、帝都に行きたいなあ……」
「今度一緒に行けばいいんじゃないかな。ほら、買い出しというか……お、お父様に何かプレゼントを!」
「そんなの、帝都の職人を呼びつければいい話では?わざわざ足を運んでなど……」
「うーアウローラ文句言いすぎ!せっかく、口実として言ったのに!?」
「まあ、フランツ様にプレゼント渡したいというのは粋な計らいだとは思いますけどね!絶対喜びますよ!フランツ様!」
「アンタの情緒が分かんないんだけど……」
アウローラも私と似ているところがあるから、彼女の情緒が不安定なのもよくわかるというか。
日頃の感謝を込めてフィーバス卿にプレゼントを贈るというのはありだとは思っている。
まあ、いつ帝都に行けるかは分からないけれど、その時はアウローラとノチェもつれていこうとは思っている。ただ喧嘩をするようだったら、どっちかっていう感じにはなってしまうけれど。
「ああ、それと、ステラ様」
「何?改まって、怖いんですけど……」
「少し真剣な話なので、聞いてもらえると嬉しいです」
そうアウローラはいうと、背筋を伸ばした後に、すっと息を吸った。すると、今までの彼女とは明らかに違う様子となり、彼女の目も私にきりりと向けられた。これはただ事ではないと、私も背筋を伸ばしたうえで、アウローラの話に前のめりになりつつ耳を立てる。
「い、良いけど。何?」
「また、辺境伯領周辺で、あの肉塊……ステラ様がいっていた人工的な魔物が見つかりました」
「え?」
内容はかなりヘビーなもので、想像以上のものが肩に乗っかる。なぜ今あの肉塊の話が? と、少しずつ頭が混乱していく。アウローラも深刻そうな顔をしているし、一体だけ、ではないようにも思えて、私は固唾を飲み込む。
帝都に行けない理由として、リースたちが災厄の調査として、肉塊と遭遇するのを事前に防ぐというのをアルベドと話していた。けれど、辺境伯領周辺でその肉塊が出た、ということは私自らそれを倒しに行かなければならなければいけないということになる。あの倒し方を知っているのはごくわずかだし、知っていたとしても倒せるかは別なのだ。心の強さが鍵になるから。だからといって、周辺ということは、フィーバス卿が出向けるものでもなく、やはり私かアルベドか……どうにかしなければならないのだ。周辺には、強力な魔物もいるし簡単にはいかないだろう。
(もしかして、エトワール・ヴィアラッテアがわざとこちらにその魔物を派遣した?)
派遣というか、招いたというか。
災厄の調査で、肉塊を倒すことが出来たら、聖女としての株も上がる。それを邪魔されるわけにはいかないとそう思えて仕方がないのだ。先回りされたか。
「その話はお父様にした?」
「はい。ですが、倒せるのはステラ様だけだと、あと、アルベド・レイ公爵子息様だけだと……」
「数は?」
「二体ほどと聞いております。けれど、一体ずつしか倒せないんですよね。ステラ様の負担になるのでは?」
「それでも、お父様の防御魔法を破壊できるほどの力を持っているんだから野放しにはできないと思う。それともアウローラが倒してくれたりは?」
「い、いいいいや、です。というか、私だけでは無理です!ステラ様の力を借りなければ!」
と、やはり、彼女もあの姿がトラウマになっているらしかった。そりゃ、あんな人の肉を詰め合わせたような存在を誰が好きになるというのだという話だ。
(はあ、でも事態は深刻だから、私が動かなきゃ……)
これも、ある意味親孝行なのかもしれない。肉塊を倒すのにどれだけ時間がかかるか分からないけれど、野放しにはできない。
「話してくれてありがとう。アウローラ」
「いえ……それで、どうなさるつもりですか?」
「そりゃもちろん、倒しに行くに決まってんじゃん。私にできることを、私はやるだけだから」
高らかにそう宣言し、私は立ち上がった。




