234 百点満点中三十点
「――ステラからして、何点満点中何点だ?」
「百点満点中三十点」
「低いなあ。あいつと引きはがせればよかったんだろうが、そう簡単にいかなかったなあ……作戦の練り直しか」
「いや、もう、バレたからあとは正面衝突を繰り返すだけだと思う」
「やっぱりそうか」
紅蓮の頭を掻きむしって、あーとアルベドは後ろに伸びていた。共犯者だけれど、記憶を取り戻すということに関しては、私が一歩前に出て行動しなければならない。そのため、アルベドは行く末を見守っていることしかできないのだが、実行犯である私の話を聞いて、不発みたいな感じだったという結果に少しうなだれていた。あれだけ、計画を練ってというか、いろいろと考えてきたが、エトワール・ヴィアラッテアを前にするとどうもうまく進まないらしい。アルベドが、洗脳されたらって思ってしまうのもいけないのかもしれないが、それ以上に、彼女の気分次第で、私たちはどうにでもなってしまうのではないかと。
私のことを洗脳できないのは、同じ魂の枠組みに入っていたからだろうか。それとも他の理由があるからなのだろうか。理由は分からなかったが、私を野放しにする理由というのは多分、野放しにしていてもいいから、ではなくて、自分の支配下に置けないからなのではないかと。
「だが、少しは手ごたえあったんだろ?お前に興味を持っているように見えたぜ。皇太子殿下は」
「そうだといいんだけど、そうっぽくないんだよね」
「なんか根拠でもあるのかよ」
「……私は、リースのことをよく知っている。だから、あれは彼の人の好さが出ただけで、興味がわいたとかそういうのじゃないと思う」
「自信あるなあ。ほんと、そんだけ愛されている皇太子殿下がうらやましい」
「でも、本当……だから、何で好感度が上がらないのか不思議で……あ」
「好感度って何だよ」
「好感触って意味!手ごたえはまあ、なかったわけじゃないけれど、でも、あのジンクスは役に立たないし……」
「ジンクスが役に立たねえって意味わかんねえんだけど」
星流祭を最後まで回り切った男女が結ばれるってあれをもとに、乙女ゲームの設定がしてあるのだが、四人いたあの状況では、クエストが失敗になってしまっていた。もしくは、何かが足りずに、リースの好感度が上がらなかったととらえてもいい。何にしても、失敗ではあったので、次の作戦を練らなければならない。
興味を抱いてもらえたというのは間違ってはないのだけど……
(クエスト失敗とか初めて出たし、でも……)
リースとエトワール・ヴィアラッテアは、あの後すぐに帰ってしまった。星栞のことなんて、彼らにはそこまで大したものではなかったのだ折る。リースからしたら、タダの七夕の短冊に願い事を書く程度だっただろうし、エトワール・ヴィアラッテアもまさかかなうなんて思っていないだろう。若干、危惧していたところはあるが、魂の方に引き寄せられるのか、私が運がいいだけなのかは分からないが、願い事がかなってしまったのだ。
【隠しクエスト:星流祭の星栞に願い事を書こう!クリア!】
【星流祭の星栞に願い事を書こう!クリア報酬:心音をゲット!】
(まあ、リースが帰ったんじゃ……もう検証も何もできないけれど)
リースの心が知りたい、という思いがあの世界で抱いた思いであり、今回もまあ全く分からないから知りたいというのはあったが、ちょっとこの間とはニュアンスが違うというか。それで、アルベドの心の声を聞こうか試してみたけれど、彼は嘘をまじえずにしゃべってくれているからか、心の声を聴くことが出来なかった。
(となると、他のキャラで試すしか……?)
もしかすると、記憶が戻ったキャラは――とか、記憶が戻ってないキャラは云々とか制約があるのかもしれない。大本は、リースの心の声が聞こえれば、という物だったので、リース以外には効力を持たないものなのかもしれないと。
「今回は、星栞確認しにいかなくていいのか?」
「え?ああ、うん。多分当たってないし。この間と同じように世界が進んでいるのなら、当たってないんじゃないかなあって」
「まあそうだよな。だったら、俺の願いはかなっているだろうし」
「何願ったのよ」
「お前に教えるかよ。つか、誰にも教えねえよ」
「ケチ」
「お前だって教えてくれないくせに」
と、アルベドはいうと笑い、うーんと上に向かって背伸びをした。
星流祭はここで終わり、次は、トワイライトの召喚と、その前に肉塊の調査だ。
「トワイライトが召喚されるかもっていう話は聞けたから、収穫がなかったわけじゃないし。結局のところ、本物の聖女様はいるらしいんだね」
「だな。あいつが偽物っつうわけじゃねえけれど、ただ、災厄がこれまで以上にヤバいから二人聖女が召喚できるならって試みだろうな。そこまでは、あの偽物もどうにもできねえってことか」
「そうだね……」
「妹がくるって分かったのはよかったじゃねえか」
最大のフォローと言わんばかりにアルベドは言って、帰るか、と私に背を向ける。
もうすることもなくなり、あの流れ星の大群もいなくなってしまい、賑わいはだんだんとなくなっていった。夜の闇がつつみはじめ、寒さも出てきたので、私は少し体を震わせる。アルベドはは追っていた上着を私に着せたのち「風邪ひくなよ」と言って頭を撫でる。そういう気づかい、紳士的なところは嫌いじゃないんだけどなあ。
「明日槍ふるの?」
「何でだよ!?」
「だって、アルベドが私に優しくしたから」
「い、いつも俺は優しいだろうがよ!」
「ん-知ってる」
「おい、ステラ。俺のことからかうんじゃねえぞ……怒ったら俺怖いからな」
「なんかそれ、弱く見えるんだけど。揶揄ったんじゃないよ。別に、本当にやさしいなって純粋に思っただけで」
「だったら、何で……はあ、調子狂う。お前、本当に大丈夫だったか?怪我とかしてないか?」
さっきも聞いたけど、と付け加えたうえで、アルベドは私の身体を見てきた。リースが庇ってくれたため、幸い怪我一つしていないのだが、その代わり、リースはけがを負って治癒魔法をかける羽目になった。治癒魔法はけがは治せても、その場で受けた傷、その瞬間の痛みまでは治してくれないためけがをした時点で、痛いという感情や感覚は感じてしまう。
治癒魔法が自分にかけられないというのもまた変な話である。普通、自分で自分の傷を治すくらいには……
「でも、私だから守ってくれたとかじゃないと思ってるから!ほら、リースっていい人じゃん。だからね!」
「俺は違うと思うけどな」
「え?」
「誰でも彼でも守るようなタイプじゃないだろう。皇太子殿下は。多少の犠牲には目をつむるタイプだと思ってるし、逆に好きな女のしりぬぐいを進んでやるタイプだろう。だから、お前はあの時あいつが洗脳にかかってるっていうんだったら守られなかったと思うぜ」
と、アルベドはいうと、目を細めてこちらを見た。分からないのか? とでも聞いてくるようなその目に、私は思わず一歩後ろに引いてしまう。
私の方がリースをわかっている。そんなうぬぼれというか、慢心というか、自身が崩されるような気もして、少し怖かった。それだけじゃなくて、アルベドが分かっているということが、私の視野の狭さと、卑屈さを表しているような気がしたのだ。
「リースは、分かってて、私だから守ったってこと?そんなことあり得るの?」
「あり得るだろう。身体が、じゃなくても心のどこかにお前が残っているから庇ったんだろ。じゃなきゃ、お前は傷つけられていたと思うぜ。あの二人に」
そういうと、アルベドの髪は激しく髪に揺らされ、彼の顔を隠すようになびいた。




