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233 星流祭の終わりを告げる




(トワイライトに犠牲になれって、絶対にそんなことはさせない)




 入れ知恵? それとも、リースが発案なのだろうか。いや、リースは何も知らない。吹き込んだのは、エトワール・ヴィアラッテアだ。その証拠に、リースはエトワール・ヴィアラッテアの方を見ていた。

 やっぱり彼女の入れ知恵だったんだ。どれだけ意地汚いか、私は心底彼女を軽蔑した。自分が、過去何度か見たその顔が、自分の顔だったそれが、タダの悪女に見えてしまうのは、なんとも辛いことではあったが、それでも、彼女のやったことが許されるとは到底思わなかった。自分がやっている気持になるかと言われたら、全くそうではないけれど。




「ステラは、正義感も強いのか」

「正義感というか、倫理的な問題で。自分の恋人が消えるのを阻止するために、災厄のために身を粉にして戦ってくれる聖女を生贄としてささげるのはどうかという話なんです。だったら、二人で力を合わせて均衡値をとるとか、いろいろやれることはあると思うんですけど」

「確かにそれも一理あるな。一人のために、誰かが犠牲になど……考え方が間違っているとは思う」

「リース?」




 それでも、何が正しいのか、若干見失っているらしく、彼は頭を抱えた。

 さすがに、こちらも言い過ぎたような気もして、アルベドの方を見れば、そのまま押し切れと言わんばかりにこくりと頷いている。

 押せば行けるとかそういう理論ではない気がするのだが、誰が見ても明らかだったのだ。




(あ……)




 そうして、ふと上を見れば、リースの好感度ちかちかと輝いているのが見えた。動揺が、彼の記憶を呼び戻そうとしているのだ。好感度が見えるのは私だけであり、エトワール・ヴィアラッテアにもアルベドにも見えていない。だが、ここで下手に押せばまたERROR表示が出るのは目に見えている。

 チャンスであり、落とし穴。それを攻略するのは難しいのである。




「リース。星流祭を楽しみに来たのに、そんな深刻そうな顔しないでよ。聖女の話はまた今度にしましょう」

「エトワール」

「その二人も、リースをあまりいじめないでやってよ。いろいろ大変なんだから。私たちの、皇太子殿下様は」




と、エトワール・ヴィアラッテアはすかさず彼の腕をつかんで私たちに牽制するように言う。だが、リースはあまりそれを好ましく思っていなかったらしく、腕を組んだ彼女に怪訝そうに眉をひそめていた。なんていったって、そこは先ほどエトワールによって傷ついてしまった腕だったからだ。痛みはないものの、普通、恋人であり、聖女であるエトワール・ヴィアラッテアが治すはずの腕を私が治して、怪我させた本人は悪かったという謝罪もない。そして、怪我したことすらもう過去のことと忘れて、怪我した方の腕にしがみついているのだ。


 リースが大変なのは知っているし、いじめているわけでもない。それをそういうふうに解釈する方がおかしいのだと、私とアルベドは二人してエトワール・ヴィアラッテアを見た。私たちのにらみなど痛くもかゆくもないというように、エトワール・ヴィアラッテアはフンと鼻を鳴らす。




「エトワール。張りあっても仕方がないだろう。離してくれ」

「な、何で。リースいいじゃない。見せつけてあげれば」

「そういう問題じゃない。痛いぞ」




 リースがそういうと、エトワール・ヴィアラッテアは傷ついたように目を見開いてから、舌打ちでも鳴らす勢いで彼の手を離した。いくら、洗脳にかかっているとはいえ、リースはリースで、彼の性格は変わらない。そこまでは、洗脳魔法でどうにかできないのだ。そんなにも盲目的に、怒られることもなく愛してほしいのならば、そういう人形を作ればいいだけの話なのに。




(さすがに、そっちの方は禁忌に引っかかるのかも……)




 命を作るということの重さというか、そういうのは、天下の悪女様でもできないらしい。私の命を引き換えに、世界を戻したのだから、自分がリスクを負ってまで……という考え方なのかもしれないけれど。




「ごめんなさい……」

「四人で回るという計画が、パーになってしまって申し訳ないが、俺たちもつかれている。だから、今日はこの辺でお開きにしないか」

「……つ、疲れているなら、そうした方がいいかも。りー、すも、休みたいかもだし」




 こんなふうに終わりを迎えるとは思っていなかったし、結局好感度も上がらずじまいだった。けれど、これ以上食い下がってもどうしようもないと、私はリースからの提案を受け入れることにする。本当は呼び止めて、行かないでといえたらいいのに。

 拒絶されることを恐れて何もできないなんてあまりにも情けなさすぎる。

 戦略的撤退だと言い聞かせて、私は、後ろにいたアルベドの服を無意識に握ってしまう。アルベドはそれに気づいてか、私の手をそっと掴んだ。それには、頑張ったな、という意味も込められている気がして泣かないようにとした唇をかむ。リースには私の表情なんて見えていないだろうけれど。




「すまない。俺は、もっとステラのことを知りたいが、エトワールの方が大事だからな。今回は……また、機会があれば」

「……はい」




 優先順位を、彼の口からきいてしまうと、何も言えない。どれだけみじめになっても受け入れるしかない現実に、悔しくて涙が出そうになる。何度だって仕方ない、今は――と言い訳して。受け入れようという姿勢を作ってしまうのだ。




(でも、知りたいって興味を持ってくれてるってことではあるんだよね……)




 けれど、好感度の増減はなし。そこがおかしいのだ。一瞬、南京錠が見え隠れしたけれど、はっきりとその姿を見れていない。まだ、何かピースが足りないのだ。他の攻略キャラと明らかに違うところがあると。




(でも、今回のことでエトワール・ヴィアラッテアも焦ったはず。私がここに帰ってきていることを知ったからこそ、強固に魔法をかけなおすはずよね……)




 かといって、私を悪者にするには私のバックについている存在が大きく、彼女も簡単には手を出せないだろう。アルベドがいったとおり、フィーバス卿を味方につけたのは私たちにとって大きな戦力になっていると思う。これから、エトワール・ヴィアラッテアもフィーバス卿については調べるだろう。けれど、簡単に手を出せない相手であり、尚且つ、洗脳魔法が聞きにくい相手ともなる。それに、自分の正体、魔法の属性についても見破られる可能性が大いに跳ね上がって――




「……花火?」




 ドーン、ドーンと闇夜に大輪が打ちあがり、大通りの方がワッと湧いた。そうして、暫くすると、流星群が、花の隙間を通り抜けて光り輝き落ちていく。最後の目玉が始まったのだ。

 なんだか時間稼ぎみたいなことをしてしまったけれど、結果オーライだろう。




(こんなふうに、見たかったわけじゃないけれど)




 私にとって、星流祭はアイロンな思い出が詰まっていて、いい思い出だけじゃないけれど、それでも、この世界で初めてまではいかずとも大きなイベントだった。だからこそ、こんな形で見たかったわけではないけれど、この場合、リースともアルベドとも見ることが出来た、とよかったのかもしれない。

 私が、リースの好感度を確認したが、上がった様子はなく、アルベドの方も確認したが上がっている様子はなかった。アルベドに関しては100%を超えているからかもしれないが、リースの方は……




【とある条件???をクリアできなかったため、クエスト失敗です】




(何それ……)




 二人だったから駄目だったのか、そして、とある条件???とは何なのか、ムードをぶち壊すようにして現れたウィンドウに私は目を細めつつ、そっと視線を夜空へと移した。




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