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225 お久しぶりではないけれど




 ズキンと傷む胸。


 傷ついていないように思いこむことは、難しくて、思えば思うほどつらくなって、締め付けられて、息ができなくなるくらいだった。

 もしかしたら、リースも昔こんな思いをしたのかもしれない……なんて思うことで何とか自分を取り繕うとしたけれど、簡単にはいかなかった。




「大丈夫か?」

「え、ああ、うん。大丈夫、大丈夫……って言えたらいいんだけど、見ての通り」

「嫌だよな……好きな奴が、他の奴と楽しそうにしているところ。それも、自分のことを忘れてるんだぜ?最悪だろ」

「そうだね……仕方ないけれど」




 果たして、本当に仕方ないのだろうか。そう思っているだけで、まったく仕方なくなくて、私を見てほしくて、何でここにいるのに、眼中に映っていないんだろうって、叫びたくなる。怒鳴りこみに行きたい。そんな衝動にだってすらかられる。でもそれをしたら、きっともう二度と彼の好感度は戻ってこないだろう。好感度といっている時点で、私はそういう数字に支配されているのではないかともおモテてくるのだが、仕方がない。見えてしまった、貸し化されている好感度を見ないなんて言う方が難しい。まあ、好感度があてにならないというのも分かるし、どこの範囲から興味から行為に変わるのだろうかなんてわからない。ただ、そこに数値として現れる。それが何を示しているのか、私にはどうでもいいことなのかもしれない。

 0%から動かない、恋人……元恋人の好感度のことなんて。




「声かけてこようか」

「い、いい。私が……私がしなきゃ意味ない、と思う」

「でも無視されたらどうすんだよ」




 アルベドの意見も一理あった。というか、そうな気がする。この間喋った時も、アルベドが間に入ってくれたからどうにかなったものの、そうでなければ私はあそこで意気消沈していただろう。

 アルベドの気遣いを無碍にするわけではないけれど、それでも、自分から行動しなければ変わらないとも思っている。酷い話、少しアルベドに任せたいと思ってしまっていた自分がいた。何も変われていないし、私は変わりたいと口で言いながら、変わろうとしていないのだ。




(ううん、決めたじゃん。やるって、取り戻すって。目の前にいるのに、マイナスな気持になってどうすの!)




 昔はちゃんと喋れていたんだから。それでいい……いや、昔はちゃんと喋れてたって前世は全く喋れていなかったし、よく、恋人になって、今の今まで付き合ってこれたなと思う程度で。でも、リースの隣に立っても恥ずかしくない女になりたいと思い始めて、かわって……また、戻ってしまったらそれはいみがないのではないかと。 

 悶々と思考を巡らせるだけでは何も変わらないと思う。

 欠点が分かっているんだから、それを克服すればいい。それが難しいことだってわかっていても、課題が明確なのだから。




「すーはー……大丈夫そう」

「酔いは?」

「まだ言ってるの?大丈夫だって。アンタがいるから落ち着いた。ありがとね、アルベド」

「……っ、いつものことだろ。ほら行くぞ」

「人ごみかき分けて?」

「それしかねえだろうが」




と、アルベドは強引に私の手を引いていく。それが何だか笑えてきて、クスッと口元に手を当てて笑えば、笑うな、と怒鳴られてしまう。




「ごめん、ごめん。アルベドがすーぐカッとなるから」

「なってねえよ!ったく、お前もしゃんとしろよ」

「はいはい。ずっといってるねえ~」




 軽口を叩ける仲だ、何も問題ない。

 少しだけ気が楽になり、私は、よし、と気持ちを切り替える。このままくよくよしていても何も変わらないから。

 人ごみをかき分ければ、すぐにリースのもとにたどり着いた。リースはもちろんのことながら、私に気づく様子もなかった。魔法をかけているんだから当然と言えば当然なのだが、存在感はすでに消えていた。

 何て声をかければいいだろうか。パーティー以来の会話だからとても迷う。けれど、悪印象を抱かせればまずいことになるっていうのだけは分かったため、気持ちを入れ替える。でもやっぱり、何て声をかければいいか分からなかった。




(リースを攻略し直せばいいって思えばいいの。だから、あんまり深いこと考えない方がいい)




 私のことをいつ、どうやって好きになってくれたのか、大体話してくれたけれど、それが納得のいくものではなかったし、むしろリースだから、遥輝だから私を好きになってくれたという印象の方が強かった。だから、もう一度、すでに好きになっている人がいる状態で、私を好きになってもらおうなんて、難しい話なのだ。それでも、諦めることはできなかった。

 私のだって、返してって私が叫んでいるから。




「あのっ」

「……っ」




 ルビーの瞳がようやく私の方を向いた。何か魔法を使ったんじゃないかってくらい、彼がはっきりと私の方を見たから、ドクンと心臓が脈打つ。思い出したのかな、とかすっごい淡い期待を五台s手舞うが、絶対にそんなことなかった。

 すぐに細められた目が、それを物語っていたから。邪魔だって、邪魔するなって。




「て、帝国の光に挨拶を……お久しぶりです。リース・グリューエン皇太子殿下」

「お前は確か……」




 私の方を見て、名前を思い出そうとする前に、リースの目にはアルベドが写った。そして、彼と目があった瞬間、また嫌そうに眼を鋭くするので、アルベドを連れてきたのは逆効果だったかなとも思ってしまった。




「す、ステラ・フィーバスです」

「ステラ……か。それで、何の用だ?見るところによると、そちらも、婚約者とデート中のようだが」

「……あ」




 やっぱりそうか。だから、そんな目をしたんだ。

 でもそれが、私を気遣ってのことではなく、自分たちのデートを邪魔されたことに対する恨みにも見えて、私は委縮してしまう。わかっている。リースが興味がないものに対してとことん興味がないことくらいは。知っている。だから、ここで傷ついたら負けなのだ。




「殿下がいたので、挨拶をと思ったんです」

「別にいい」

「でも、お忍びできている感じではないんですよね」

「……」




 図星だったらしく何もいいかえしてこなかった。そりゃ、魔法も掛けず、皇族の証であるその黄金の髪を振って歩いているんだ。誰もが彼だと、皇太子だと気付くだろう。あまりにも注意がかけすぎていて、心配になる。




(それに、確か、星流祭では……)




と、私が思い出していると、ひょこりと、リースの後ろから、あの忌々しい彼女が姿をあらわした。




「これはこれは、フィーバス卿の所の……ステラ嬢。お久しぶりです」

「お、お久しぶりです。聖女様」




 にこりと、絶対にそんな笑みを浮かべるはずのない彼女は私とアルベドに挨拶をする。それが牽制にも見えてしまったのは、気のせいではないだろう。何はともあれ、彼女が出しゃばってくることは分かっていたので、驚く理由もない。

 私も、にこりと笑って挨拶を返すが、何か気に食わないようで、フフッとわざとらしく笑った。




「そんな、硬くならないで。私のことは、エトワールって呼んで」

「え、エトワール様」




 ぞわりと嫌な空気が私の背中を撫でる。すでに、私の正体にでも気づいているのだろうか。それとも、ただの牽制か。どちらにしても、敵意があることだけは明らかだった。




(自分物だって主張してくるし、本当に嫌な女……)




 私が、彼女に転生さえしなければ、私は絶対に、エトワール・ヴィアラッテアのストーリーなんてプレイしなかっただろう。

 そう、私も敵意を隠しながら微笑めば、今度は見下すような笑みでエトワール・ヴィアラッテアは口元を隠しながら言った。




「私たちの、デートを邪魔しないでください。前みたいに」



 

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