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224 さて本番!




 やはり、昨日よりも賑わっていて、最終日であり、本番という感じが伝わってきた。




「ひ、人ごみ、人よい……!」

「おい、吐くなよ?な、おいって」

「だ、大丈夫。そんなことにはならないから……うぷっ、気持ち悪い」

「昨日は大丈夫だっただろうが」

「いろいろと緊張が……胃痛」

「はあ……お前なあ」




 夕方ごろから公爵家を出たのだが、すっかり夜も更けてしまって、リースとエトワール・ヴィアラッテアはもう帰ってしまったのではないかという気持ちにかられる。彼女が、私と一緒で人込みを嫌うなんていうのは全く分からないし、彼女は、私が元使っていた身体を奪い返しただけだから、中身が違えば、身体の特性も変わるのではないかと思った。とはいえ、花粉症とか、そういった体が持っている特性という物は、中身が変わっても変わらないのではないかとも思う。まあ、何はともあれ、いなかったらきた意味がなかった、いたら話しかけに行かなければならない、と。そのためにここに来たのだと自分を奮い立たせる。

 人ごみで酔いそうなのは、いや、すでに酔っているのはもう仕方がないことなので、目をつむっていてほしい。アルベドにはすでに心配されており、心配から、呆れへとシフトチェンジしてすらいる。本当に、私に付き合ってくれているのが、申し訳なくなるくらいには、彼には迷惑をかけていると思う。

 いつも以上に高く結んだ髪の毛が、なびいており、そこら辺の屋台の朱色よりも、アルベドの紅蓮は際立って見える。魔法で存在感を消していなければ、きっと周りに人が集まってくるだろう。




(ただ、闇魔法の貴族だからそう簡単にはいかないのよね……)




 闇魔法、そしてあの公爵家のアルベド・レイというだけで、周りからの関心は恐怖へと変わる。




「本当にごめん、酔い止め……飲んだのにな」

「酔い止めで何とか出来るもんなのかよ。それは……」

「魔法の方が効いたかな」

「俺がお前に魔法を使ったら、お前、痛いしはくしで最悪だと思うぞ?」

「いや、自分自身に欠けるんだって……ああ、でも光魔法って、自分に付与できる、そういう体に関するものって少ないんだっけ」

「そうだよ。ほんと、魔法勉強しろよ?」




と、アルベドに嫌味っぽく言われる。時間があれば、勉強したいところだし、アルベドにだって教えてもらいたい。まあ、教えてくれる師匠がブライトで、いないわけでもないので、また彼の所に行こうと思う。


 ブライトにもまた家によんでもらえそうだし、あの双子も私のことをよんでくれるだろうということを信じている。




(北の洞窟のけんは、早めに対処しておいた方がよさそう。フィーバス卿には悪いけど、ちょっと手伝ってもらって)




 もちろん、彼を領地から引っ張り出すわけではなく、ただ彼の名前というか、家の権力を使わせてもらおうと思っているのだ。フィーバス卿にも本当に何度お礼を言っても足りないくらいの優しさで包み込んでくれている。




「肉塊のこと、どうするの?」

「ラヴィに聞いた話によると、やっぱりあのバケモンはあの村に放ったらしいぞ?それが、皇族の耳に入れば、お前の愛しの皇太子殿下が動くだろうな」

「彼は巻き込みたくない……でも、あれと戦うのも嫌」

「……」

「でも、巻き込みたくないし、エトワール・ヴィアラッテアを……あの偽物がもっと囃し立てられるのも嫌だから!先回りできるなら、倒しちゃおう」

「だな……ちょっとばかし、面倒なことになるかもだが」

「面倒なこと?」




 ああ、面倒なこと――といって、なんとなく予想がついた。

 だって、私がたちがあそこにいるのはおかしいというか、理由がなければあんな辺鄙な地にはいかないと思うからだ。それも、私とアルベドが。肉塊は残骸があまり残らない人工魔物だし、倒しても、形跡が残らないのはいいことかもしれない。しかし、誰かが何かを倒した、ということを知られれば、しかもエトワール・ヴィアラッテアがいるため、私の魔力の痕跡も気づいてしまうだろう。それで、何か言って、私たちの所に攻め入られたら大変なのだ。




(でも、エトワール・ヴィアラッテアは、あの肉塊を作っているヘウンデウン教とつながりがあるんだから、あまり表立っていうと、ヘウンデウン教の方に顔が向けられなくなるんじゃない?)




 何を考えているかさっぱりだし、すでに洗脳しているのなら、すべて彼女のやることは受け入れられるかもしれないけれど。

 ストーリー通りではある。私が前の世界で体験したことをなぞっているのは確かだ。ところどころ違いはみられるが、それでも大筋の所は一緒なのだろう。それでも、トワイライトが召喚されないかもしれない恐怖や、ファウダー……混沌をどう倒すかなど、いろいろと思う点はある。混沌を倒して、災厄を退けることこそが、聖女の役割だ。さすがに、それを放置しようものなら、偽物だと言われるだろうし、それはエトワール・ヴィアラッテアだって望んでいないだろう。




「眉間にしわよってんぞ」

「あ、えっと、ごめん?」

「別に、怒ってねえけど、渋いなあ、顔」

「うるさいって。ちょっと考え後としてたの。アンタを振り回すのも悪いと思って」

「振り回してくれていいぜ?それだけ、ステラと一緒にいる時間が取れるってことなんだろ?なら」

「……危険でも?」

「危険でもだ。俺がちょっとやそっとで死ぬようなタイプじゃないだろ?」

「確かに」




 リースもそんなタイプだったけれど、それでも、皇太子という立場からか狙われているし、私をかばって何度も瀕死になったことがあった。それは、私のせいではあるのだが、それでもアルベドは、リースよりタフな気がする。




「ラヴィもたくさん情報をくれるけど、彼だって、ヘウンデウン教にずっと身を置きたいわけじゃないから……それに、彼の名誉だって挽回したいって思ってるし」

「それは、あいつがすることだろ。お前がすることじゃない」

「でも」




 私がそういって、アルベドの方を見たら、真剣な表情をし、その満月の瞳で私に語り掛けてきた。

 私はハッとし、視線を下に落とす。




「あいつのやったことは許されねえだろ?だから、自分で自分の罪は償うべきだ。それは、前の世界でも一緒だった。お前の優しさに甘えているところはあると思うぜ。あいつは」

「……甘やかしているわけじゃないけど。そうだね、アルベドの言う通り」




 ラヴァインの名誉は、ラヴァインが挽回するべきなのだ。私がやったところで、意味がないし、なぜ私が? となる。アルベドとだから婚約者という関係になれたのであって、ラヴァインは違う。家族になるかもしれない関係だから守るというのも、それは……と誰かに言われそうなところだった。

 ラヴァインのしたことは、ラヴァインが責任を持つ。何事にも責任は付きまとっているし、子供じゃないんだから、そこは自分でどうにかしなければならない。アルベドのお父さんは体が弱い……というか、ラヴァインのせいで寝込んでいる節もあるから、本当に彼は自分で自分のことは。




「――おい、ステラ、あれ」




 そう言われ、私はもう一度顔を上げる。すると、そこには、私が望んでいた彼の姿があり、同時に何で? と疑問を持った。

 だって、彼は自分の姿を隠すでもなく、その美しく光を一身に浴びる黄金の髪とルビーの瞳を輝かせてそこを歩いていたから。道行く人が、彼を見て、ポッと顔を染めている。もしかしたら、その隣にいる人物に対してだったのかもしれない。だって、美しくはあるから。




「……リース」




 待ち望んでいた人は、私になんか気づかず、フッと優しい笑みを隣を歩く銀髪の聖女に向けていた。




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