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219 一緒に星を見ない?




「わーい!お帰り、ステラ、兄さん」

「げっ」

「なっ」




 パッと花が咲くような笑顔で出迎えたのは、可愛い子供とかではなく、くすんだ紅蓮の――




「ら、ラヴィ!?」

「びっくりしてる~はあ、ステラ、おかえり。ちょっと汗臭い?ま、そこもいいんだけど。あ、一緒に風呂はいる?」

「おい、愚弟」




 ずいっと私とラヴァインの間に入り込み、私をかばうようにして前に立てば、ひっついてきたラヴァインの顔を、黒い手袋をはめた手でつかみ上げ、ラヴァインは窒息する勢いでバタつき始めた。そこまでする? と思ったが、子供のように一緒にお風呂に入る? とか言ってきた、この男が、少し怖くも思え、私はさっと、アルベドの後ろに隠れた。

 本当にしても、冗談にしても、きつい……と、軽蔑の目を向ければ、ラヴァインはにまぁ~といった感じに笑った。




「まあ、まあ。そんな怒んないでよ。二人とも」

「てか、何でアンタここにいるのよ」

「俺の家だから」

「なんか、デジャブを感じるわ……」




 辺境伯領に戻るにはかなり時間がかかるし、アルベドの転移魔法も途中までしか使えない。となると、明日も星流祭に参加しようとなると、レイ公爵家の方が近かったのだ。それもあって、アルベドについてきたのだが、まさか、この男が、ここにいるとは思っていなかった。

 いつ帰ってきたていたのか、それと、私たちが帰ってくることを知っての行動だったのか。まあ、どちらにしても、ここにいてダメという決まりはないし、むしろ、私の方が、泊まらせてもらっている身なので、何も言えない。彼がここにいる理由は何なのか分からなかったが、家に帰りたかったから帰ってきた、というのは別に悪いことでも何でもないだろう。

 帰る場所があるということはいいことだし、何よりも、帰ってきてもいいと言ってもらえる人がいるのなら……




(この世界に舞い戻ってきたときは、帰る場所すらなかったんだけどね。でも、今は、帰ってきてもいいって、帰ってきてといってくれる人がいて。そんな場所があって)




 感傷にふけっていれば、ラヴァインが、身を乗り出して、私の顔をのぞき込んできた。またか、とアルベドは止めようとしたが、私が気にしていないからといったら、それ以降手出しはしなくなった。




「何?」

「俺は、星流祭の会場には行けないけどさ。明日もいろいろあって予定が合わせらんないけど、ステラと一緒に星を見たいなっては思ったんだよ。だから帰ってきた。ダメ?」

「ダメって?別に、ダメじゃない……けど。そんな」

「そんなことでもだよ。俺にとっては重要。前はさ、星流祭の時でさえ、自分が自分じゃないみたいに、ぐっちゃぐちゃになって。兄さんの事、普通に見えなくて。星流祭とかいうお祭りも単純に楽しむとか、思ってなくて」




と、ラヴァインは胸の内を開ける。


 もちろん、そのことについては知っていたし、ラヴァインが前の世界、災厄が終わるまで不安定だったのも知っている。けれど、彼自身が後悔しているということは、知っていても、話してくれたようなためしがなかったため、驚いた。言えるような関係性になったことを嬉しく思うと同時に、ようやく……もっと早く話してくれていれば、と思う気持ちもあった。それは、ちょっと欲張りすぎだし、過去に起こった出来事がひっくり返るわけじゃないけれど。

 ラヴァインは、恥ずかしそうに、でも寂しそうな、暗闇をおsれる子供の用に視線を落としてからパッと顔を上げた。取り繕った顔はもう先ほどの不安の見えるものではなく、また隠したな、と私はい目を細める。きっと、あっちも分かっているけれど、それを口に出そうとは思っていないのだろう。何せ、彼も嘘つきだから。そして、自分の弱みを見せることを、恐れ、かっこ悪いと思っているから。




「まあ、だから、何?星流祭一緒に行きたかったんだよ。もう明日しかないし。ステラも、明日は何かあるんでしょ?ほら、例えば、皇太子殿下のこととか」

「……」

「俺も行けたらいいんだけどねー用事はいっちゃったから」

「じゃあ、何でいるのよ」

「ちょっとだけ時間作った感じ? ほら、さ、俺ならビューンって転移魔法使えるし」




 ラヴァインはそういって手をひらひらとふる。

 確かに、闇魔法であるのならそれは可能だろう。それに、ラヴァインほどの魔導士となれば遠距離の移動だって簡単にできるはずだ。まあ、本人がいいのならそれでもいいし、私が気にすることもないのだけど。




(本当に、私たちのことが好きなんだね。ちょっとかわいく思えるかも)




 中身は全然可愛くないし、子供といえるような年齢でもないのだが。グランツと同い年だし。




「アンタの勝手だから別に何も言わないけど、無理がない程度に」

「じゃあ、ステラ。一緒に星みない?」




と、ラヴァインは開き直ったように顔を上げると、私の手を掴んだ。アルベドの大きな舌打ちが飛んできたので、あまりはしゃがない方が……と思ったが、アルベドはラヴァインのもう片方の手を珍しく引っ張った。




「どこで見るんだよ」

「兄さんも一緒に見たい?仲間外れやになっちゃった?」

「……口の利き方に気をつけろよ。愚弟」

「ラヴィだよ。ラヴィっていって。兄さん」




 挟まれてはいないけれど、気持ち的には挟まれてしまった気になってしまったので、なんだかなあ……なんて思いつつ、アルベドは、私とラヴァインが二人きりになるのを阻止しようとしている感じじゃなくて、単純に、一緒に星を見たいと思ったんだろう。それも、ラヴァインと。

 もしかしたら、彼の夢だったのかもしれないと、ちょっと思ってしまったけれど、実際のところどうかは分からない。でも、アルベドが屋根の上に登って星を見ていたという話を聞いたことがあったので、あながちそれは間違ってもいないかもしれないな、と思ってしまったのだ。




「アルベドって、素直じゃないよね」

「はあ!?」

「へえ、やっぱり兄さん、ハブられるの嫌だったんだあ。それならそうって言ってよね」

「ちげえし。お前ら二人きりにしちまったらあぶねえだろって、保護者的な意味だ」




 アルベドは、耳を真っ赤にしてそう叫んだため、まったく説得力がなかった。どうだろう。ラヴァインもアルベドの癖は知っているだろうから、今ので完全にアルベドが嘘をついているということが分かってしまった。その証拠に――ラヴァインは嬉しそうな顔をしていた。




(なんだ、ちゃんと兄弟仲いいじゃん)




 仲は最悪だと思っていたけれど、最悪だって思ってただけで、二人の仲は修復されつつある。ブライトとファウダーも少しずつ近づいていっているように。長年の溝を一日一歩ずつでも埋めようと努力しているのがうかがえた。それが、意識的なのか、無意識なのかはわからなかったけれど、悪くはないと思う。




「――ったく、屋根に上るのはあぶねえぞ?」

「アルベドは別に危なくないじゃん。多分、ラヴィも」

「お前の心配してんだよ。ステラ。なんで、俺たちの心配なんだよ」

「そーだよ。ずり落ちていっても、すぐ助けられるか分かんないし。ほら、光と闇の魔法の反発でさバチッってなったら、俺たちもステラも危ないじゃん」

「そ、そんな私が落ちる前提で話さないでくれる?」




 私が、ひどくない? というように見れば、二人はこういうときだけ顔を合わせて、え? というように私を見た。ものすごく傷つくんだけど、変なところで意気投合して。




「いや、お前だからだよ」

「いや、ステラだか心配するんだよ」

「……もう、いいよ。それで……」




 どーせ、守ってくれるんでしょうから、屋根から落ちることはないだろう。そんなことを思いながら、三人で星を見ることだけは決定し、私はため息をついた。




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