211 本当にむかつく、この双子
(本当にむかつく!この双子!)
善意で声をかけたというか、助け舟を出したのに、今までのは全部演技でしたーみたいな、ふうに言ってきたのが、本当にこのクソガキ、という感じで、笑顔を保てなくなった。でも、アルベドに話しかけられて、驚いたのは事実だろうし、舐められているのは私だけ、みたいな感じはした。アルベドも、それについては気づいているだろうし、私の方がご愁傷様じゃん、という感じで、一人どうしようもない屈辱を味わった。
「それで、アルベド・レイ公爵子息様が僕たちに何の用で?」
「何の用で?」
私のことなど無視し、アルベドにその視線を投げた双子に、アルベドも少し青筋をたて、はあ? みたいな顔をした後、私の方を見た。私を見られても困るんだけど、と先ほどからずっと思っていたが、アルベドが思っていた以上のクソガキみたいで、アルベドも助けろと言わんばかりにこちらを向いてくる。私としては、久しぶりの感覚なんだけどな、とこの双子を知らない人からしたら、この双子の態度はいかがなものかと思うのだろう。まあ、貴族だけど貴族らしくないアルベドがそれをいえる立場なのかと言われたら、それもまた違うけれど。
(気が大きいのは、富豪だから、お金で何でも解決できると思っているんでしょうね……そんな、世の中お金ばかりじゃないのに)
言い換えれば、お金があるから、それはもういい待遇、教養を受けられているはずなのに、受ける側の姿勢がなっていないから、こんなことになっているんだろうな、とは思った。
通常運転と言えば、通常運転で。双子らしいといえば、双子らしかった。
ただ、私も子供が苦手ということがあって、この二人を相手するのは難しいと感じている。
(はあ……まあ、好感度が0%っていうことで、問題なく攻略はできそうだけど)
ラヴァインのように、隠しキャラじゃないから、初めから攻略対象なんだろうけれど、彼らが、エトワール・ヴィアラッテアとすでに接触があるのかないのかまでは分からなかった。そんなステータスまでは見えないから。
「用っつうか、何だ。別に、声かけてみただけじゃねえか」
「えー僕たち忙しいに」
「忙しいのね」
「……」
「ステラ、こいつらめんどくせえぞ」
「……知ってる」
双子がめんどくさいことは今に始まったことではない。初見のアルベドは、そりゃもう、めんどくさいことこの上ないなと思うだろうし」、私もめんどくさいとは思っている。私のことを無視したということは、私のことについては何も知らないらしい。
「ようがないなら、僕たちいくね」
「いくねー今日は、星流祭楽しみに来たんだから」
「時間は有限」
「有限!」
「ちょ、ちょっと」
本当に、アルベドを前にしても、怖がるそぶりを見せない双子の強さには、驚いた。しかし、星流祭といっても、無礼講なわけではないし、自分たちの階級についてもう一度、見直すべきなんじゃないかと思った。伯爵と、公爵じゃ全然違うわけだし、確かに、用もなしに呼び止めるのもどうかと思うけれど。
しかし、0%のまま、彼らを逃すわけにはいかず、今度は私から、声をかける。
空色と、宵色の瞳は、私をジッと見つめて、何? と少し機嫌悪そうに細められた。
「というか、お姉さん誰?」
「誰?」
「アンタたちの、その演技臭い、子供っぽいの嫌いだからやめて。だませると思ってるの?」
「は?」
「はあ?」
子供とは思えないどすの利いた声が、私の耳を貫く。
アルベドも気づいていただろうが、この子供っぽいのは演技なのだ。自分たちが、さも人畜無害な生き物だと装うための演技であり、普通にしゃべれるし、双子の二人で一人、というのではなく、ちゃんと個人として成り立っている生物でもある。趣味も考え方も違うし、双子であっても、仲がいい双子を演じなくてもいい。
私が、見抜いたことに対し、面白いと感じたのか、ルクスは3%、ルフレは2%と好感度が上昇した。二人の好感度の上がり具合から、やはり、双子と言っても違いがあるのだと確信する。
(前は、ルフレの方が上がりやすいって思ってたんだけどな……)
ただ、好感度が簡単に上がったところを見ると、まだエトワール・ヴィアラッテアと接触している可能性は低くなった。ブライトや、グランツを先に攻略……と思っていたけれど、大富豪である彼らを攻略するのもありだ。また、星流祭の当日には、きっとリースもいるし、ブライトも……
あまり、目標を広げすぎると取り逃がす可能性があるから、あくまで、今目の前で起こっていることに集中する。
「子供ぶってるけど、アンタたち、頭良さそうだし、双子アピールも、ちょっとウザいというか。素でもいいんじゃない?それに、アルベドを目の前にしたら、そんなのすぐに見破られるだろうに、よくやるわよ」
「だから、お姉さん誰だよ」
「誰?」
「誰って、私のこと知らない?ああ、そっか、髪色……」
髪色が白に戻ったところで、この双子が気付くかと言われたら、答えはノーだった。
しかし、私のことを下に見ているようで、たぶんアルベドにつかえているメイドと勘違いしているんだろう。私は、ため息をつきながらも、魔法を解除し、ふわりと、あの真っ白な髪に髪色を戻した。ルフレは、感嘆の声を上げていたが、ルクスは警戒するように私を睨みつける。
まあ、ここまで来ても分からないのなら、その程度の認知度なのだろう。私は。
「フィーバス辺境伯のことは知ってるでしょ? ルクス・ダズリング伯爵子息様、ルフレ・ダズリング伯爵子息様」
私がにこりと笑えば、双子は顔を見合わせ、そして、私の方を向いてこくりと頷いた。アルベドの時よりも、怖がっている様子が見て取れ、少しおかしかったのは口にしない。アルベドよりも、フィーバス卿の方が恐れられているという事実に、苦笑してしまうが、それほどまでに、表に出てきていないフィーバス卿のことが恐れられているのだと不思議に思った。ブライトの方が、魔法の家門、として表に出ているけれど、その力は、きっとフィーバス卿の方がすごいわけで……
(まあ、表に出てきていないから、あまり知られていないし、現皇帝が恐れる位には、フィーバス卿は強い力を持っているんだよね)
そりゃ、敵に回したくないというか、隔離していた方がいいっていう考えも分からなくはない。
「知ってるよ。フィーバス辺境伯のことくらい」
「あ、え、もしかして、もしかするの?」
「……」
「……」
「そうよ……やっとわかった?」
双子は再度顔を見合わせ、やばいな、みたいな顔で私を見てきた。それは、そんな態度をとってしまったことに対してか、それとも、私がまた令嬢らしくない行動をとったからか。どっちでもいいが、とりあえず、まずい、みたいな感情が表に出た顔を向けられてしまい、こっちも反応に困った。ただ、気づいてくれたことは大きな進歩だろう。
ピコン、と軽快な音をたて、彼らの好感度が上昇する。上昇する理由がよくわからなかったが、彼らの好奇心をくすぐったのは間違いないだろう。生まれるはずも、予見すらされていなかった辺境伯令嬢。それが今目の前にいるという事実に、彼らは何か思うところがあったのだろう。
「私は、フィーバス辺境伯の娘。ステラ・フィーバス……よろしくね。ルクス・ダズリング伯爵子息様、ルフレ・ダズリング伯爵子息様」
正体を明かせば、私のことなどきっと馬鹿にできなくなる。だって、彼らは私ではなく、私のバックにいるフィーバス卿のことを恐れているみたいだったから。




