210 さて、突撃と行きますか
(――といってもだよ?アルベドの言う通り、この中から探せって、本当に宝探しみたいで、ほぼ不可能に近いんだけどね)
すでに諦めモードに突入しつつはあるが、自分が言い出したことをできないなんて示しがつかないので何とか足取りだけはつかみたいところである。とはいえ、本当にこの中から探すことなんて、不可能に近いだろう。
(来ているっていう情報しか知らないのに、どう探すのよって話よね……)
けれど諦めるわけにもいかず、彼女がまだ手を出していないだろうと思われる双子から責めていくのはいいと思った。今回の星流祭においてはの話になるけれど。
「んで、どういうつながりだよ」
「別に?好奇心旺盛な、富豪の息子たちが、聖女ってどういうものなのかなあとか興味持って、招かれたっていうそれだけの話だけど……アルベドあんまり知らない?」
「金持ちのことはよくわかんねえ。名前だけは、めちゃくちゃ聞きなれてんだけどな……かかわりはなかったし」
「そ、そうなんだ……まあ、子供だし、アルベド子供苦手そうだし」
ラヴァインに対しての態度も、子供を扱うような、めんどくさそうな態度をとる時があるから、元から子供という物が苦手なんだろう。人の好き好きだし、仕方ないことだとは思う。私も、本音を言うと、あの双子は苦手な部類だった。
(なんだか、めんどくさいことに巻き込まれちゃったしね)
巻き添えというか、あの双子も双子で、互いに対するクソデカ感情がめんどくさくて、そのせいもあって、私は双子の仲を取り持つことになった。今思えば、本当に、二人に好かれていたのか微妙なラインで、それでも、仲良くしていたこともあって、それなりには力を貸してもらえたというか。大富豪と言われるだけあって、そのお金は腐るほどあって。
(ああ、北の洞窟の事もあったからかな……)
魔法石がたくさん掘れる洞窟を彼らに渡したのも私だったことを思い出し、かなりかかわりはあったと思う。双子と、というよりかはダズリング伯爵家と。それでも、大抵のことは、リースや、その周りにいるその手の専門の人たちが契約を交わしてくれて、私自身が何かしたわけではなかった。
「ほかに誰か来るとか覚えてねえのかよ」
「ええっと、ブライトは来る……来てたんだけど、この間の今日だしあんまり会いたくないかも」
「そっか、じゃあ、避ける方がいいな。魔力探知で、いるところくらいは分かんだろう」
「ああ、また、ごめん。でも、あったらあったで、それでもいいと思ってるから」
「そうかよ。で、あの偽物様はくんのか?」
「さあ、来るんじゃない?こういうお祭りごとすきそうだし」
いや、実際のところ分からない。エトワール・ヴィアラッテアが何を考えているのかこっちが聞きたいくらいなのに。知っていたら、先回りできるだろけれど、リースとの思い出でもあるこの星流祭に二人で腕なんて組んできていたら嫌だなとも思ってしまう。本当に、記憶がないからって、リースもよくベタベタとできるもんだと、腹立たしくは思うけれど。彼の性格上、惚れたら一途だから、そこはリースっぽくていいんだけど。
(それでも、いやなものは嫌!元カレってそういうことじゃないのよ!?)
もう、すでに復縁した状態で、また一からに戻った。それも、私との思いでさえ忘れているみたいだから、さてどうしようか状態で。
そんなふうに、次の出を考えていれば、ふと、見慣れたピンクの頭が二つ、目の前を横切った気がした。
「あっ……」
「あってなんだよ。どうした?」
「いた気がした。あ、あれ」
「あれって……」
思わず指さしてしまったが、そこには、ピンクの頭、ルクスとルフレがいた。後ろにははぐれないようにと一生懸命ついていく彼らのメイド・ヒカリの姿が見えた。
こんなにも早く見つかるなんて思ってもいなくて、ある意味運命を感じたが、このまま話しかけても大丈夫なのだろうかと、次には不安が浮かんできた。
「どうすんだよ。話しかけなくて、どうすんだって」
「え、え、でもなんていえば」
「お前が言い出したんだろ。あいつらの事よく知らねえし……つっても、お前も関係値としては変わりねえのか」
「うっ、そうだけど……さ」
だからって、結局どういう風に声をかければいいか分からなかった。私のこと分からないだろうし、そもそも、ステラ・フィーバスときいて、彼らはピンとくるだろか。いや、フィーバス卿の名前を出せば、好奇心旺盛な彼らはすぐに食いつくと思うけれど。
「見失っちまうぞ……たく、しょうがねえな……」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
ずんずん、と前に進んでいくアルベドに手を伸ばすしかなかった。私が、ためらっていたから、彼の手を煩わせる。そんなことを思いながらも、おい、なんて、どすの利いた声で、彼はあのピンクの頭二人を呼び止める。
いくら魔法をかけて、自分の存在を薄くしているとはいえ、その声の掛け方をすれば、誰だって気づくだろうし、その紅蓮の髪に、誰も見覚えがないはずがなかった。
あっ、と思ったときにはすでに遅くて、二つのピンク頭はこちらを振り返っていた。
「あ……」
「ああ!」
双子のピンクは、互いの手を取ると、震えたように、アルベドを見ていた。最初に指さしてしまったのを、どうにか誤魔化そうとしていたのはバレバレで、アルベドがそれに対してどう思ったか分からなかったけれど、自分よりも、上の階級であるアルベドに指をさしたという事実は完全に残るだろう。
(ご愁傷様……というか、凄く震えているし)
まあ、声をかけたのがアルベドで、理由も分からなくて怯えるのは仕方がないことだろうと思った。私も、彼のことを断片的にしか知らなかったら、きっと震えていたと思うし。まあまあ、それはいいとして、私から声かけた方がよかったのかなあ、ともちらりと思ったりもした。
「あ、アルベド・レイ、公爵子息様」
「アルベド・レイ、公爵子息様」
もう、今にも泣きそうなひよこのような気がして、さすがに可愛そうになってきた。
アルベドからしたら、声をかけただけなのに、怖がられてそれもそれでかわいそうな話であるけれど、その双子が、本当に怯えているか、嘘なのか分からないため、とりあえず、助け舟を出しておくか、の気持ちで、私はアルベドの服を引っ張った。
「アルベド」
「んだよ」
「その、震えてるというか、怯えているから、もう少し、顔、明るめに」
「顔あかるめって、お前なあ……」
こうか? みたいな、感じで私に顔を向けてきたが、それが思った以上に恐ろしくて、ぴえっ、と私の方がなってしまった。アルベドがそれを本気でやったか、演技なのかは分からないが、怖すぎる。あまりにも、人を殺しそうな顔に、私は立っているのがやっとだった。そんな顔をさすがに向けられてはいないだろうが、こんな顔を向けられたら、子供の二人は失神してしまうのではないかと思った。
まあ、理由もどんな顔をしたかも、さておき、こんな道の真ん中で突っ立っているわけにもいかず、場所を変えようと、私は恥ずかしながらも、声をかけた。
「ごめん、私の婚約者が」
婚約者が、といったことでアルベドはんぐっ、とどこから出しているのか分からない声を発するし、双子も顔を見合わせて私の方を見た。そんなふうに、私を見ないでほしいなあ、なんて思いながらも、笑顔は絶やさずに……しかし、次の瞬間双子が噴出した際に、その笑顔は一気に崩れることとなった。
「えー別に怖がってないもん。ねー」
「ねー」
んふふふふ、と笑う双子を見ていると、思わず手が出そうになり、この世界の彼らも変わりなく、腹黒サイコパスショタなのだと、思い知らされた。




