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206 ずっと褒めてほしかった




(ああ、温かい。このまま寝てしまいそうなくらい)




 人のぬくもりを感じ、うとうととしてしまった。泣いて疲れた赤子のようだと、笑えてきてしまったが、本当で、泣きつかれたのもあった。こんなに泣いたのは、久しぶりだったから。この世界に来て、どれだけ頑張っていたんだって、自分でも分からなくなるくらいには、がむしゃらに走り続けてきた。周りからそう思われていなくても、そう、私の中では頑張ってきたつもりなのだ。

 それを誰かに理解されたいとは思っていなかったけれど、誰かが理解して頑張っているね、と言ってほしかったのかもしれない。それは、傲慢だか思わないようにしていたんだろうなってなんとなくだけど今ならわかる。

 褒められてたいし、頑張ったねって言われたいし、でもそれを望むのは傲慢だと、私はふさぎ込んでいた。結局は、前世の癖、というかあきらめさせられることに慣れてしまった私の癖のせい。




(ずっと、理解されたくて、撫でてほしくて、褒められたくて、大丈夫だよ、ここにいていいよって言ってほしかったんだよね。私は)




 ずっと、ずっとそれを求めていて、でも求めるのはみっともないからって、諦めていた。でも――




「お父様は、家族が……子供が欲しかったって、前にいっていましたよね」

「ああ」

「わ、私でよかったですか。血はつながっていないけれど、それでも」

「血のつながりなど気にしない。ステラは俺の娘だろう」

「はい。ありがとうございます!」




 そう言ってもらいたかったんだろう。ずっと、ずっと。

 フィーバス卿か、誰かに。彼の養子になれたことは、やはり幸いであり、幸福……アルベドと、どうなるか、とか騙す覚悟で着たけれど、それ以上のものを手に入れられたのではないかと思う。手に入らなくてもいいもの以上手に入ってしまった今、やはり手放すのは惜しくて、だましていることは心苦しい。

 でも、それすらも……




(いや、これ以上望むのはまずいから、良いんだけど)




 これ以上求めたら、また手から滑り落ちてしまいそうだなと思った。だから、これ以上はいい。今、抱えられるものだけを抱えていようと。




「あの、それで話はころっと変わるんですけど、星流祭のこと」

「ああ、もうそんな時期か。アルベド・レイと一緒に行くんだろう? 楽しんでこればいい」

「え、ええっと……」




 フィーバス卿とは、回れないということは分かっていたのだが、こんなにもあっさりしているなんて、ちょっとびっくりというか、拍子抜けしてしまう。

 それほどまでに、アルベドへの信頼があるのだろうが、外出が多いと言った割に、これほど許してくれるのが、何とも解せないような、なんとも言えない感覚になるのだ。私が、それについて、じぃっとフィーバス卿を見ていると、よくわからないな、とでもいうように首を傾げた。そして、次の瞬間、いつも以上に勢いよくあのウィンドウが私の目の前に現れたのだ。




【フランツと星流祭をまわりますか?】




(お父様の名前を呼び捨てにするなあっ!)




 最初に突っ込んでしまったのは、その部分で、フィーバス卿とか、周りが言っているせいで、それか、お父様、という呼び方が定着しているせいで、アウローラ以外に呼ばないその名前に、私はびっくりして内心叫んだ。もちろん、このウィンドウが見えるのは私だけなので、これについては、さすがに相談しようがないのだが。

 それにしても、父親がその好感度アップイベントに出て狂ってどういうことだと苦言を呈したくなる。このゲームはいったい何を攻略させようとしているのだろうかと。

 見あげてみるが、フィーバス卿の頭上には好感度が出ておらず、好感度アップイベントなのに、好感度が上がらないキャラにも出るのかと。もしかしたら、よくしゃべる、男性キャラには、好感度の表示がされるのかもしれない、なんていうとんでも発想にまでたどり着いてしまい、さすがにそれは……と自分でも思った。ただ、父親を攻略だなんて、このゲームは狂っているなと少々思ってしまうわけで。




「ステラどうした。先程から、俺の頭の上を見て」

「い、いえ。照明の光が……あはは……」

「まあ、外出については何も言わない。ステラが、ここに帰ってきてくれるのなら、俺はそれ以上は望まないつもりだ」

「あ、ありがとうございます。その、フィーバス辺境伯領では、星流祭に似たようなこと、するんですか?」

「催しとしては、まあ……そうだな。形だけはする。外に行けない分な。帝都に行くのも命がけだからな」

「確かに、辺境伯領周辺危険な魔物であふれているから……そっか」

「だから、辺境伯領地独自の形の星流祭を執り行っている。この時期は、かなり人の交流も活発になるしな。よければ、見ていくといい……まあ、帝都に比べれば見劣りするかもしれないが」

「と、とんでもないって、お父様!」




 そんな、比べる必要はないと、私は全力で首を横に振った。それでも、確かに、帝都に行こうと思っていたのは事実で、そうなると、ここからじゃ距離が……と、どちらかになってしまうのは仕方がないことだった。

 辺境伯領地の星流祭を楽しむか、それとも攻略キャラとのエンカウントを考えて、帝都に向かうか。後者を選んだ方がいいのと、アルベドや、一応ラヴァインのことも考えて、そっちを選ばざるを得ない状況であることには変わりないと。

 元の世界に戻ったら、一生、辺境伯領地ないの星流祭を楽しむことはできない、というのが選択肢を悩ませる一つの原因ともなった。




(けど、目的を忘れるわけにはいかない、から)




 苦渋の決断。

 そこまでたいそうなものではないけれど、フィーバス卿の方を優先しようとすることが出来なかった。私にはやるべきことがある。それでも、その間、私たちは家族として、やっていけたら……なんていう甘い考えもあって、自分でも浅ましく思う。

 ここは、心を殺してでも、やるべきことを優先しなければならない。

 単純に楽しむというのも目的にはあるが、少しでも、リースと接点を増やしていかなければならないのだ。きっと、エトワール・ヴィアラッテアも参加するだろうから。




(これ以上、エトワール・ヴィアラッテアにのめりこまれると、こっちも大変だから、今のうちに……といっても、好感度が上がらないのかもしれないけれど)




 怖い話、リースの好感度はこれっぽっちも上がりはしなかった。好感度0%という表示がされるだけで、ピクリとも動かない。0%が何を意味するかなんて明白だ。

 興味がない、無関心――それが、0%の意味することだ。

 0%なんて、好きでも嫌いでもない。もっと言えば、どうでもいいに部類される。

 何故0%なのかは、エトワール・ヴィアラッテアと一緒にいて、洗脳にふかくかかっているからだろう。だとすると、かなり、その洗脳を解くのは難しくはなるけれど。




(だからこそ、アルベドと一緒に星流祭を回る必要がある……アルベドにはわるいけど、また力を貸してもらうことになる……かな)




 本当に、あの人を振り回しているきしかしない。それでも、受け入れてもらっているうちには、甘えさせてもらわなければ。




「ですが……今回は、その、アルベドと回る約束があるので。ごめんなさい。いつかまた、お父様と回れる日を楽しみにしています」




 最悪な嘘だ。

 そう自分でも思いながら、慣れてしまった笑みは、たやすく、自分を信じてくれる人にも向けることが出来てしまう。

 いつか、という日が来るかも分からない。いや、一生来ないかもしれない。それでも、今できることを、私は――




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