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202 どっちと回る?



(はあ……どうせ言わないと、帰らないし。ちょっとは、かわいそうには思うんだよね……)



 ぐるぐる巻きに縛られて、その場にポイと捨てられるのは、さすがに可愛そうだとは思った。かといって、私がそれに触れようとすれば、光魔法と闇魔法の反動で、痛い目を見ることになるし、私からは何もできないよ、とそういう視線を向ければ、ラヴァインは「だよねえ」みたいな顔を返してきた。




「兄さん、外してくんない?さすがに、これはみっともないし、ステラの前だし」

「お前が余計なことしなければこんなことにはならなかったんだが?反省の色も見えねえし、ほんと誰に似たんだか……」

「俺の要素の何割かは、兄さんだね。兄さんをまねてる」

「……」

「もういいや。それで?何の話してたの?」

「アルベドいい?」

「別に、知ってることだろう。話してやってもいい。いや、まて……」




と、アルベドが言ったが、それで察したのか、ラヴァインは嬉しそうにしっぽを振った。




「もしかして、星流祭のこと?誰と回るかってこと?」

「……うっ」

「こういうところだけ、察しがいいよな……はあ」



 目を輝かせられ、これはきっと、自分と回ってほしいアピールなのだろうと私は思ってしまった。そうでなければ、こんなに彼がしっぽを振るはずがないのだ。

 アルベドが教えたくないと言っていたのが、身に染みてわかるようで、なんだか申し訳なくも思った。アルベドは、額を抑えて、ああ……とうなだれている。楽しそうなのは、ラヴァインだけで、その空気に、二人ともついていけていない。




「ねえ、ステラは誰と回るの?」

「ほら、そうやって話を振るから!まだ決めてないの!」

「おい、お前。俺と回るっていてたじゃねえかよ!嘘つくな!」




 アルベドは前のめりになると、私につかみかかるような勢いでそういった。確かに、アルベドが一番適任かもと思ったけれど、まだ、そんな約束をした覚えがない。するタイミングで、ラヴァインが来てしまったわけで、決めきれていないのだ。だが、アルベドの目を見ていると、ここは話を合わせておいた方が身のためだぞ、と言っているような気もして、ごくりと固唾をのんだ。




「なっ、話合わせろ」

「た、たしかに……うん、だけど……」

「聞こえてるからねえ。決まってないなら俺でいいじゃん。別に、誰だっていいでしょ?」

「アンタを連れて歩くのが心配なの!さきーに差別じゃないって言っておくけれどね。星流祭ってそもそも、光魔法の魔導士の……って分かる?」

「分かるけどさあ」

「あと、また私が違う男の人連れて歩いていたら、噂になる!さすがに、婚約者がいる手前、そんなことしたらまずいでしょ?」

と、それっぽい理由をラヴァインに向かって説明すれば、まだ納得いっていないような顔で、うーんと彼はうなる。理解されていないわけではないが、納得はしていないようだった。

「じゃあ、俺が兄さんに変装して一緒に回るってどう?」

「変装……?」




 思わず、ちらりとアルベドの方を見てしまった。

 それは、一度、そんなことがあったからだ。ラヴァインに変装……化けたアルベドが、ラヴァインの代わりに私のそばにいてくれたという話。忘れるはずもない。これまでで一番驚いた出来事だったから。アルベドは、私が目を合わせようとすると、その視線を漂わせ、その時のことをまるでなかったかのようにふるまった。もしかしたら、黒歴史だったのかも、と触れないでおこうと思ったが、ラヴァインが「やったじゃん!」と掘り返したこともあって、アルベドに蹴り飛ばされていた。わかってて、的確に蹴られに行ったのではないかと思ってしまうほどに、きれいに突っ込まれていた。本当に嫌がることを率先してやっているところが恐ろしいなと思う。




「ダメだ」

「えーいいじゃん。そしたら、ステラの株も下がらないし、ステラも星流祭楽しめるしwinwinじゃない?」

「じゃないし、アンタが勝手に決めただけでしょうが。私はまだ誰と回るとか全然決めていないんだから。まあ、第一候補がアルベドなのは、変わりないけど……」

「俺も変わらないじゃん。レイ公爵子息だし」

「そういう問題じゃないんだって」




 あきらめの悪い人だ、と頭が痛くなる。そこまでして私に執着するメリットなどないだろうに。

 アルベドも、こうなったら、面倒だな、と思考を放棄しかけているし、私にゆだねる、と放り出されたようなものだ。




(この兄弟、本当に……)




 誰とも回らないのなら、家にいてもいい。けれど、せっかくの機会を逃すことはしたくなかった。

 それも、好感度のため……いや、あの祭りが私にとってとても素敵なもので、思い出だったからだ。

 私と回りたい理由は、単に、そういう機会に恵まれてこなかったからかもしれないけれど、あのジンクスを信じているからこそ、なのではないかと思ってしまった。アルベドも、そのジンクスを多少なりには信じていたし、ラヴァインもきっと、それをしって、私と回りたいと言っているのではないかと思った。全く幼稚……結局結ばれたのは、リースだったのに。




(それ、考えなければいいのよね)




 目の前にウィンドウが浮かぶ。




【ラヴァインと星流祭をまわりますか?】




 ラヴァインには見えていないのだろうが、私にとっては、かなり面倒なウィンドウだ。半透明だから、相手の顔は見えるけれど、文字が大きすぎる。私と一定の距離を保ってはくれているみたいだけれど、このウィンドウも今思えばよく分からないシステムである。頭上の好感度も、見えることによって確かに好感度の可視化、という部分で早くになっているんだけれど、それ以外は……




(回らない、回らない。一応、アルベドと回るってことで決めているんだから)




 日頃の感謝も込めて。そして、前の世界と同じように。

 アルベドはそういう意味も含めて、一緒に回りたいと言ったのだろうか。そう思っているの私だけなのだろうか。信頼できる人。恋愛感情とかじゃなくて、もっと深い絆で結ばれているようなそんな関係。

 一度見れば忘れないその鮮やかな紅蓮も、身飽きることなく今日まで見続けてきた。




「ステラ?」




 私の名前をアルベドが、重なるように、【アルベドと星流祭をまわりますか?】とも表示される。

 攻略キャラ二人に迫られるなんて状況、これまであっただろうか。少なくとも、ゲームの中では終盤にあったシチュエーションだったが実際に目の前にすると、その攻撃力はもう抜群に高くて……




(目の保養!じゃなくて、怖いんですけど!?)




 ぎらついている目。それを見てしまったら、ひゅっと喉から音が鳴るだろう。私だから耐えられた? いや、私でも、耐えるのが精いっぱいというか、もう今すぐにでもここから逃げたいくらいには、最悪な選択肢を迫られている。どっちかを選んで、好感度が下がるようなことがあっては困るし、かといって、どっちかを選べるほど私の心の余裕というか、選ばれなかった方のことを気にして、選べないという優柔不断さが出てくる。




「あ、あの、二人ともちょーっと落ち着いて。だって、星流祭まで、まだちょっと時間あるし……あ、後!最後の日じゃなくても、期間中だったら、回れるかなあ……とか」




 きっと、あのジンクスのことがあって、最終日がいいってもめるに違いない。そう考えると、恐ろしくて、恐ろしくて仕方がないのだ。

 私がそういうと、二人は顔を合わせ、それから互いを睨みこみ、そうして、またこちらに顔を向けた。先程よりもすがすがしいというか、自分の顔の良さを分かって作った笑みを私に向けている。



「それで?」

「んで?」

「どっちと回りたい?」

「どっちと回るんだよ?」



(勘弁してよお!)




 私の悲痛な叫びなど、耳に入っているわけもなく、彼らはじっと私のことを見つめてきた。

 



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