201 星流祭の思い出
(星流祭……そういえば、そんなものあったかも……って)
「星流祭!」
「声でけえ。お前、ほんと情緒どうなってんだよ」
「アンタに言われたくないし。確かに、星流祭……今年も……じゃなかった、この世界でもあるのよね」
「あるだろうよ。そりゃ……世界が巻き戻っても、これは、帝国の大きな行事だからな」
「そう……だよね……てか、その話前に聞いてたのに、すっかり忘れてた」
あれほど、大きく悩んだものでもあるのに、こんなにもすっぱりと忘れられるものなんだと、自分でもびっくりした。と同時に、あれだけ悩んだものが、またやってくるということで、今回は、エトワールの姿じゃないから、攻略キャラを選ぶ、なんてことがあるのだろうか。
というか、全員攻略キャラが揃っていない状況で、選ぶなんて……
そう思っていると、ヴオン! といつも以上に大きな音を立てて、ウィンドウが現れる。それは、憎たらしくも、私の思っていたことをそっくりそのまま返すようなものだった。
【アルベドと星流祭をまわりますか?】
「あああああ!」
「もう、お前、ほんと一回医者に診てもらえ!」
今のは不可抗力……というか、叫ばざるを得なかった。そうじゃないと、自分の中に会ったうっぷんというか、気持ちが抑えきれなかった。アルベドには奇異の目を向けられたが、好感度が下がる様子もなかったので、これが私と認識しているらしい。まあ、いやな認識ではあったが、それはどうでもいいとして、出てきたウィンドウがもう、腹立って腹立って仕方がなかった。
(あんっなにも、あの世界で苦労したものが、またこの世界で出てくるなんてね! 最悪! もう最悪!)
また、悩まなければならないのか。いや、もう、選べる人間なんて決まっているし、どうせ、その消去法になってしまうのだが。
(すごく、好感度上がるイベントだったから、ここでリースとって思うんだけど、きっと、選択肢には出てくれないのよね……)
簡単にはいってくれないのがこの世界だ。そして、ブライトをのぞく二人に関しては、すでに好感度が前の世界のものであり、となると、アルベドとは二回も星流祭を回ることになってしまう。別に、それでもアルベドは嬉しいんだろうし、私も、楽だからいいんだけれど、この機会を逃すことはできなかった。
(でも、ブライトとの星流祭って嫌な思いでしかないんだよな……)
過去をやり直す、という意味では、やってみてもいいのかもしれないが、私にとってあれは、結構なトラウマになってしまっているため、ブライトと回る、なんてことはあまり考えられなかった。
ラヴァインと回ってもいいのだが、その場合、アルベドの嫉妬が怖いし、きっと、フィーバス辺境伯に戻り次第、何か言われそうなので、そこの対応も考えておかなければならない。となると、やはり、消去法的にアルベドということになるのだろうか。
「んだよ」
「はあ……」
「人のこと見てため息つくのやめろよな!さすがに傷つくぞ」
「いや、今のは悪かったって思ってるけど……ねえ」
「ねえ、じゃねえし、いっている意味さっぱり今回に関しては、汲み取ってやれねえんだけど!?」
これでくみ取れるなら、エスパーもいいところだと思う。
アルベドもそわそわしていて、きっと私と回りたいんだろうないうのが伝わってきて、ここで、期待を裏切るわけにもいかないな、とやはり、彼と回るのが一番なんだろうかと思ってしまう。別に嫌なわけじゃないし、気が一番楽なのは、アルベドであるから、それでもいい。
(ただ、好感度!そこが問題なの!)
ほかの攻略キャラもあげたいと考えると、今回はごめんしたいところでもある。でも、前も、星流祭の期間中、いろんなキャラの好感度が上がったため、一概に、選んだキャラだけが上がるわけではないと思った。だから、星流祭に参加することにより、他のキャラとの接触を増やしてみてもいいかもしれないと。
「てか、アンタはなんでそんなそわそわしてるのよ。一回、私と星流祭行ったじゃん」
「だからだよ……また、俺と一緒に行ってくれんのかなって、ちょっとは期待するだろうが!」
なんて、慌てたように言うので、おかしくなってきた。
まあ、これは、アルベド選択でいいかな、と私はもう一度ウィンドウを出し、彼の名前を選択しようと思った。その時、コンコン、と扉が叩かれ、その行動を阻害される。
「ファナーリクさんかな?私でていい?」
「やめろ。あいつだ」
レイ公爵家につかえる執事のファナーリクかと思ったが、アルベドは、スンと感情を落とした顔で、開けるなと私を睨みつける。それだけで、誰だか分かってしまい、同情というか、いいタイミングで邪魔をしてきたな、と思ってしまった。
「開けれるだろ、開けろ」
「……え~ぶっ壊したら、弁償しなきゃいけないじゃん」
「テメェ、帰ったんじゃねえのかよ!」
「帰ったよ。でも、俺のステラセンサーがビビって来てね。なんか、イチャイチャしてると思ったから、帰ってきたわけ。この間ぶり!ステラ」
と、よっ、とでもいうように手を挙げたこの男は、本当にこりもしないなと思った。人の邪魔をすることにたけているというか、その、センサーというのは、あながち有能なのかもしれないと思ってしまう。かっこ悪いセンサーの名前を付けられてしまって、こっちもこっちで、私の名前が輝かなくなるなあ、なんて肩を落とせば、ずいっとラヴァインが私の方に顔を近づけてきた。すぐに、アルベドに、首根っこを掴まれて、引き戻されたが、まったく痛がる様子もなく、むしろ嬉しいというような顔をしていたのは、私にしか見えなかっただろう。アルベドが見たら、鳥肌を立てていたかもしれない。
(――ってのはどうでもよくて……はあ、また揃っちゃった)
二人がいると、どっちもの意見を聞いたうえで対処しなければならなくなり、正直言うと面倒なところではあった。でも、それを顔に出せば、そういうときだけ意気投合して、怒ったように私を見てくるからたちが悪いというか。
とにかく、機嫌を取ることだけ考えて、向き合う。
「何の話してたわけ?」
「聞いてたんじゃないの?」
「さすがに、防音魔法かかってたらね。だから言ったじゃん。ステラセンサーが発動して、ここまで来ただけで、内容まではわかんないよ。ただ、イチャイチャしてたのかなあーってのは分かったかも」
「イチャイチャしてないし。そんなことで、行ったり来たりしないでよ。ここを」
「俺の家だしいいじゃん」
「……それは、正論だけど、その通りだけど!」
仕事という仕事があるわけじゃないし、まあ、自由でいいのだろうけれど、こうも周りをうろつかれたら、こっちも……という感じになってしまうので、なるべく落ち着いていてほしいところではあった。
それで、何々? 何話していたの? と、ぴょんぴょんは寝るので、しびれを切らしたのか、アルベドが、拘束魔法のようなもので、ラヴァインを縛り上げた。黒い縄のようなものが、ラヴァインの身体に巻き付き、ラヴァインはその場に倒れこむ。
「ひ、酷いよ。兄さん!」
「テメェが大人しくしてないからだろ!」
それはもっともだった。
さすがのラヴァインも、これはまずいと思ったのか、泣き落としをしていたが所詮泣き落としだったし、それで? と話を切り替えてこちらを向く。
「何の話してたわけ?」
「……このまま、公爵家の外に放り出したい気分なんだけど。アルベドどう?」
「ああ、いいな。名案だ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そういうときだけ意気投合してさあ!」
いっせーのーでぽいっ、てやったら捨てられるだろうか、そんなことを考えながら、一応は反省の色を見せた、ラヴァインを二人で見降ろした。




