195 二人目の共犯者
(僕に、貴方を信じさせてください――か)
まっすぐで強い言葉。でも、ブライトの中にある、少し優柔不断なところも見え、少しゆだねられているな、というのも感じていた。けれど、その強い言葉に、嘘偽りはないのだと、それが少しうれしくも思う。
まだ、あって間もない私に、信頼を預けるということが、リスキーであるこてゃ、ブライトが一番理解していることだろうから。けれど、それを良しとし、私にゆだねてくれるのだと。もちろん、自分の意志で、それを選択したうえで、だ。
(よかった、好感度、下がってない……!)
あれだけ心の中で、うじうじと考えて、啖呵を切っていたけれど、結局は、彼の好感度が下がることが怖かったんだと思う。下がってしまったら、信頼を回復するには時間がかかると、それを認識していたから。でも、前下がったから、下がってもいいかな……という少しのあきらめもあって。
自分に嘘をついて、仕方ないって……そう言い聞かせようとしていた。そして、本当はわがままで、傲慢な気持にどうにか区切りをつけようとしていた。
でも、そんな気持ちに蓋をしたところで、どうにかなるわけもなく、漏れ出た、わがままさは、自分を蝕んでいく一方で。
「いいの。私のこと信じて」
「信じてみようと思ったんです。ステラ様だから」
「本当に?」
「……ふりですか?」
「ううん。慎重なブライトが、よくわからない私のことを信用してくれるんだって、少し、こっちも不安になっちゃって」
「不安になる要素があるんですか?」
「お互いに、秘密を抱え込みすぎて、一人でどうにかしようとしすぎて、壊れちゃいそうになるところ、とか」
私が、そうなったのは、家族のせい……とは言いたくないけれど、実際は、家族に認められようと努力したのに、認められなかったせいで、すべて自分の責任、すべて自分がやったことはすべて自分に返ってくる。誰も助けてくれないと、内側にこもるようになってしまった。誰かが、手を差し伸べてくれたら、変わっていたのかもしれないけれど、過去のことをもうどうこういえない。
この性格は、過去とともに引きずられている。でも、それが悪いことばかりじゃなくて、しっかりと成長し、今の自分を形作っている。
ブライトも似たようなものだと思う。幼いころに、親を亡くし、弟は、災厄の元凶で。誰にも話せず、そして、自分が家を背負っていくという責任やプレッシャー。その中で、一人で戦ってきて、誰にも助けを求められなかった人。
そういうところが、私たちは似ていた。
一人でどうにかしようとしたら、きっと壊れちゃう。自覚があるからこその発言だ。
ブライトは、まだその自覚がないのか、ぴんときていないような表情で私を見つめている。
(まあ、自分の弱さに気づけないって、普通はそうだから、その反応が正しい……)
私だって、気づきたくなかったけど、気づかざるを得ない状況になったから、気づいただけで。気づいたからと言ってそれらがすぐに治せるかと言われたら、治せない。自分の弱さほど、克服するのが難しいものなんてないだろうと私は思う。
「ステラ様は、本当に不思議なことをいうんですね。僕のことをわかっているような……いえ、もっと広い目で、いろんなものを知っているような口ぶりをするときがあります」
「全然全然!私は何も知らないし、思ったことを口にしているだけ。きっと、同じ立場だったら、ブライトの方が物知りで、頼りがいのある人……!になってると思う」
「では、今は立場が違うと?」
「うーん、分かんないけど……」
また、前の世界と混合させようとしてしまい、口を閉じざるを得なかった。
「まあ、それで、私を信じてくれるんだよね」
「はい。ステラ様になら……」
「じゃあ、秘密の共有……」
「どうしたんですか?」
「あ、いや……ちょっと待って……」
私の渡せる秘密とは何だろうかいまになって考えた。遅い。ブライトから受け取る秘密のことばかり考えていたせいもあって、自分が渡す秘密がないことに……ないわけじゃないけれど、それを、相手の了承なしにいってもいいものかと踏みとどまったのだ。
誰の秘密か。
――もちろん、私とアルベドが、政略婚約をしている話、が、私が与えられる最大の秘密になるのではないだろうか。前の世界からすべてを取り戻すためにやってきた、ということが出来れば、それが秘密になるのだが、それをいえない状況では、与えあられるものと言えば、それくらい。
ブライトから聞きたい秘密を――と尋ねてもいいのだが、それが、私にとって答えにくいものであるとまずいため、私から言える秘密を交換しなければならない。
(ばーか、またしくじった)
ここにきて、自分の弱点を知っていると言いながら、まったく弱点に気づけていないのではないかと思った。私は、目の前のことに集中しすぎると、周りが見えなくなるのだ。今回だって本当にそう。
ブライトは、どうしたのかと、首をかしげて私をじっと見ているから、もう逃れることはできないし、何か言わないといけない状態であることには変わりない。
「あの、ステラ様?」
「ああ!えっと、大丈夫!続けて!」
「続けるとは……ええっと、ステラ様、今何を考えてらっしゃるんですか?」
「何をって……取引のための、私の秘密を厳選してるの」
「秘密の厳選」
「……だって、互いに秘密を言って、それで成り立つ関係でしょ?この信頼は」
「そう、ですけど……僕は、別にそうでなくともいいと思っています」
「へーやっぱりそうだよね……って、ええ!?」
いきなり大きな声を出してしまったせいか、ブライトも、ファウダーも同じタイミングで耳をふさいだ。いきなりごめん、と思いながら、まさかのブライトの発言に驚きを隠せずにはいられなかった。
(え、だって今、私が秘密を言わなくてもいいって……!)
平たく言うと、そんな感じ。ニュアンス的なはそんな感じ……だと思うが、そんなので、成り立つお思っているのだろうか。いや、それでいいと許してくれるブライトの心の広さに驚きだった。この人、宗教勧誘で壺買わされるかも、と思うくらいにはすでに、私に信用を預けまくっていた。
そんな信頼されるようなことした記憶がないのに。
(いい、いいの?お言葉に甘えちゃって……)
ブライトが何を考えているか分からなかった。というか、この乙女ゲームのキャラクターたちは、本当に何を考えているか分からない人たちだらけだ。だからこそ、こっちも慎重になるし、発言一つ一つが、相手の地雷を踏むんじゃないかって、慎重になってしまう。
彼の顔を見ても、真剣に私を見つめているな、ということくらいしか分からず、こっちこそ、信じていいのかな? と不安になってくる。
(疑うのはよくないけれど……)
「私の秘密はいいの?」
「ステラ様の方が口が堅そうですし。それに、貴方が僕に言おうと思っている秘密は、貴方だけのものではない気がしたんですよね。だから」
「……!」
(ば、バレてるし!?)
その察する能力はどこか別の場所で使ってほしいところだった。
でも、察してくれているのなら、今回はその優しさに甘えようと思った。彼が、前の世界との記憶が混在する中でも見出してくれた私への信頼を、ここで捻じ曲げようものなら、きっとあとはないと。
「信じて、ブライト。私たち、共犯者になりましょう」
どこからの誰かにも言ったセリフ。
共犯者なんてどれだけいてもいい。いや、よくないんだけどね?




