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192 好感度がものをいう




(好感度が低いからかな……)




 ここまで言ったら、もう白状した方が早いと思うのに、彼はそれを選ばなかった。好感度が低いからなのか、彼は、ファウダーの秘密を喋ろうとはしなかったのだ。

 前の世界では、もう隠しようがない、最悪の状況だったし、話してくれたんだけど、今回はそうじゃない。やはり、時期を見計らい、好感度を上げたうえで話しかけに行った方がよかったのではないかとすら思えてきた。それでも、グダグダとはしていられないという気持ちもあったため、これが正解だったのではないかと。いや、正解不正解にこだわっているわけではないので、私がやったことは、私が責任を持たなければならない。




「ステラ様は、見抜いていたんですよね。僕の嘘を……本当に申し訳ないことをしました」

「だ、だから、大丈夫だって!私が言いたいのは、そうじゃなくて……」

「ですが、弟のことは話せません。やはり、一度外に出てからゆっくりとお話しませんか?」

「……」

「……すみません、今は、自分一人で抱え込んでいたいんです」




と、意外にも彼は、そう口にした。抱え込む、なんて、簡単なことじゃないのに、自ら、そうすると彼は口にしたのだ。それだけの覚悟がある、というのは伝わってきたのだが、やはりここまで来て話さないのは往生際が悪いのではないかと、いささか思ってしまう。けれど、ブライトが決めたことだから、それに従おうと、私は、分かった、とファウダーの方を見た。彼は、それでいいの? と言わんばかりは、私を見つめてきたけれど、こればかりは仕方がないだろう。


 ファウダーが何か言ったところで、ブライトが動いてくれるとも思わないし。




(いや、弟の言葉だったら……どうだろう、かな)




 ブライトのことを100%分かっているわけではないので、憶測になるし、かといって全然分からないわけでもない、という中半端な位置にいる。見かけによらず、と……あまり、想像で動くのもよくないのかもしれない。

 ここはいったん引くとして、また、後日、絶対に、彼らの仲を取り持とうと思った。ここまできて、苦しいとは思っているけれど、刺激するのもよくないので。

 ここまで来て、とは思うけれど、もともと、それが目的ではなかったし、彼の好感度を上げて、記憶を取り戻すためにここまで来たんだから、深入りして、下がるのは気にした方がいい。先程は、気にならない、下がっても下がったことあるから、と思ったけれど、やはり下がるのはリスキーだと思う。




「ステラ、いっちゃうの?」

「ファウダー……」

「おにぃ、ボク、まだ、ステラと一緒にいたい」

「ファウ、わがまま言わないでください」

「何で?なんでだめなの?理由は?」




 ブライトを引き留めたのは、ファウダーだった。いろいろと、バレると面倒だから、口を挟まないようにしていたかと思いきや、ブライトにとって、一番答えにくい質問を投げて、彼をその場で引き留めようとした。私が目の前にいる以上、何で、という理由については答えられないだろう。

 だが、この場合――というか、ファウダー自身が、混沌であるということを認識しているかしていないのか、それをブライトが分かっているか、どう認識しているかによって異なってくるんじゃないかと思った。

 ファウダーが混沌であることは間違いない。でも、ファウダー自身が混沌であるということを認識しているのかどうか。

 それを、ブライトがどう解釈しているかによって、この理由についての回答が変わってくるのではないかと思った。もし、ファウダーを、混沌だと知りながら、ファウダー自身は混沌である自覚がない場合、ファウダーに「お前は、世界に災厄をばらまく存在だから、いけない」というのは、あまりにも酷すぎるし、私に隠したかったファウダーの正体がバレることになってしまう。それは、いけない。

 だから、どっちにしても、理由をこの場で答えることはできないと思う。




(私の目、気にしてる……)




 ファウダーに、何で何でと問い詰められながらも、しっかりと私の視線を気にしていた。うっかり、口を滑らせるようなことになれば、私も自分自身の立場も危ういからだろう。私は、なんでも受け止められるから、と言って上げられればいいのだが、彼との関係を築けていない以上、いっても薄っぺらい言葉になってしまうわけで。




(ほんと、もどかしすぎて嫌になる)




 結局は、好感度云々の話になってくる。だから、どれだけ、こっちが信用していても、相手がどんな人間で、どんな言葉を欲しいとわかっていても、それをいえる、いって受け入れてもらえるほど、相手と関係を構築していなければならないこと。そして、私だけが知っていて、でもそれをいえない落ちうこの状態が、私は、もどかしくて、もどかしくて、仕方がなかった。

 いってしまえればいいのに。

 でも、いったら、ERROR表示が出て、自分が苦しむことになる。相手に迷惑もかける。何もできない。




(ファウダーが呼び止めてくれたんだから、私も何かした方がいいよね)




 でも、やったらやったで、また余計なことをしてしまった、と後悔してしまう気がした。やらない後悔よりもやった後悔というけれど、これは絶対何もしない方がいい。

 ブライトから声をかけてくれるまでは、私は黙っておいた方がよさそうだ。

 けれど、ファウダーからしても、私と話したいのか、それとも私の意図をくみ取ってなのか、彼の行動は、本当にありがたかった。このまま帰っていいのか? と、私の迷いに問いかけてくれたようだったから。

 ただ、ファウダーからしてみても、ブライトの記憶を取り戻す方法なんて知らないだろうし、私任せ、というところもあるだろう。だから、私がいなくなることは、彼の記憶を取り戻すうえで足かせになってくる。

 ファウダーの願いも、ブライトの願いも、話がしたかった。兄弟として話がしたかったという物だったので、思い出さないことには、この関係はどうにもならないのだろう。

 私が鍵になれるのか。でも、この兄弟を何とかしたいと思ったのは、今でも、そして、あの日の公開からずっと。




「り、理由は――」

「ブライト」

「は、はい。なんですか。ステラ様」

「私は、さっき、彼に触れられたけど大丈夫だったから。三人で、お話が出来たらって思ってる。ブライトが何か抱えているのは分かるし、秘密にしたいんだろうなっていうのも伝わってくるから。私からも、無茶な要求してるって思ってるけど、ファウダーの気持ちも、汲み取ってあげたいの」

「ステラ様……ステラ様は、ファウが何者だと思っているんですか」

「な、何者?何者って何?え、どういう質問?」

「わかっているのなら、答えてください。分からないのなら、そのままで」




と、脅迫のように言われてしまう。


 私が、ファウダーの正体に気づいたから、彼と一緒にいようとしていると思っているのだろうか。

 まあ、どこから詮索してきたんだって思われるのは仕方がないのかもしれないけれど。




「何者……ブライトは、私が分かってるって言いたいの?」

「……なんだかそのような気がしたので」

「私の事、敵だって思ってるってこと?」

「いえ……でも、敵であるなら、教えるわけにはいきませんけど」

「……はあ、敵じゃない。でも、それだけ隠されたら、気になるでしょ?それに、私たちの間に、まだ信頼関係が築けていないのも事実だし……だから、ここで、私たちもはっきりしよう。こんなこと言われても困るかもだけどさ――ブライト、私たちで秘密を共有したいと思う。もちろん、互いにメリットがある、取引をしよう」




 差し出した手を取ってもらえるか……それは、彼次第。

 



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