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191 嘘に切り込んで




 息を吞む音が聞こえた気がした。それほどまでに、部屋は静まり返っていて、服がこすれる音さえも、鮮明に聞こえるのだ。

 ブライトの伸ばした手は、私に触れることなく、その場で止まり、あっと、言葉を失ったように口を開いたまま私とファウダーを見ていた。




(まあ、それが普通の反応なんだよね……)




 分かってる。でも、これを見て、私が平常で居られているのなら、それを認めてほしいというかファウダーが、混沌だけど、危険な存在ではないことをわかってほしいと思った。そこまで恐れなくてもいい……とそう伝えられればいいのだが、ブライトは、固まったまま何も言えないと、私たちをじっと見つめていた。




『おにぃ、凄く動揺してる』

『わっ!?びっくしりたあ……テレパシー…………か。そう、だね。受け入れられないのも分からないでもないから……』




 いきなりテレパシーで話しかけてきた、ファウダ―にびっくりしつつも、私は冷静に受け止めていた。ファウダーは、ふと、手を離し、ブライトの方に体を向ける。




「おにぃ?」

「……っ、どう、しましたか。ファウ」

「驚いてる?」

「……驚きはしました。今も、頭が追いついていません」




と、弟に諭され、言葉を返すブライト。


 それから、私の方をちらりと見て、また不安げにアメジストの瞳を揺らしていた。私の身体のことを心配してくれているのだろうが、全く心配ないし、私はそれよりも、彼と考えがずれていることに、悲しみを覚えざるを得なかった。わかっていても、理解されないものだなあと。




「ブライト」

「なん、ですか。ステラ様」




 取り繕えない笑顔と、動揺に、ブライトの顔が少し歪んでいるのに気づかないわけがなく、彼も、自分自身、取り繕えていないんだろうなというのを、私は感じていた。私は、顔に出やすいタイプだから、それとはまた違うんだろうけれど、ブライトが焦っているというのはなかなかな状況であるため、私も、軽い感じで彼に話しかけられなくなってしまった。

 だが、何も言わないのは、先ほどのにのまえになるので、私は平常心を取り繕いつつ、話をした。




「さっき話してた、外で話そうっていうのは、もういいの?」

「……、そうですね。ステラ様」

「何?」

「一つ、聞きたいことがあるのですが……お体の方は、平気ですか?」

「体?何ともないよ?」

「……」




 ファウダーが振れたから心配しているのだろう。それか、触られてもなお、平然としている私のことが気味悪いのか、それとも――




(まさか、闇魔法の人間だなんて思ってないよね。さすがに、それは違うよね?)




 いくら何でも、その発想にはならないだろうと思うけれど、不審がられたのは言うまでもない。

 こっちも、弁解をしようとは思うけれど、言い訳に聞こえたら嫌だなあ、なんても思ってしまうし、さて、どうしようかなあ、と私はブライトから視線をそらさず、平然を装い続ける。




「そう……ですか。それならいいんですけど」

「もしかして、ブライト、私に嘘ついたの?」

「え……?」




 でも、ここは切り込んで、先に進まなければならないと思った。

 私が、嘘をついたのか、と聞けば、彼の目は大きく見開かれ、アメジストの瞳はこれでもかというくらい大きく揺れた。フルフルと揺れるその瞳の中に、私が写りこんでいる。不安な表情で、真っ青になっていくブライトを見ていると、言い過ぎたのかもしれないし、もっと遠回しに聞く方法だってあったんじゃないかとすら思えてくる。でも、言葉を考えている暇もなかったわけで、申し訳なく思いつつも、そう切り込むことしかできなかった。

 彼の頭上の好感度が、ぺかぺかと輝きだし、下落しそうな勢いで発光する。

 エトワール・ヴィアラッテアだった時とは違い、下がったところで、殺す! みたいな、殺意にはつながらないだろうけれど、下落は、やはり、心に来る。けれど、一度、ブライトの大幅下落を経験している私からしたら、またか、という程度で。でも、痛くもかゆくもないわけではない。

 ただ、ここでいう下がるというのは、きっと、ブライトが自分に対しての懺悔で、相手とはもう良好な関係を築けないだろうと思っての下落なのではないか。だって、嘘をついているのかと暴いただけで、その人間のことが嫌いになるなんていうのは、自分が嘘をついていたのに、相手に見破られたから、相手が悪いと言っているようなものだし、でも、そうではなくて、ブライトは、自分がうそつきだと見破られ、この人からの信頼を落としてしまった……という相互関係の信頼の低下、を表しているのだろうと思った。




(さあ、どう出てくるかな……)




 ファウダーばかりに頼れるわけでもないので、というか、ファウダーが口を挟むと、私たちが以前どこかであっていたのではないかという疑惑が出てきてしまう気がしたので、黙っていてもらわなければならない。となると、私が自ら、ブライトに話しかけにいかなければ……彼の、もやもやとした気持ちは晴れないままなのだろう。




(うーん……といってもなあ)




 警戒心が強く、一度折れたら、立ち直るのが遅いのがブライトだし……とも思ってしまい、今の突っ込みは、彼にとってマイナスの印象しか与えないだろうなとは思った。




「僕が、ステラ様に嘘を?」

「弟の身体に触れたら、病気がうつるとか言ってたでしょ?でも大丈夫だった」

「……」

「ブライトが気を使って、外に出ようって……言ってくれたのは分かったし、ファウダーに触れられた私のことを気にしてくれるのも分かった。ブライトはやっぱり優しいよ」

「……病気が嘘だと、思うんですか」

「違うの?」




と、私が問いかけると、ブライトは、首を横に振った。もう、言い逃れできないだろうと思ったのだろう。しかし、やはり、その先は言いたくないようで、口を閉ざしてしまった。そりゃ、言えないだろう。だって、弟が混沌で、災厄の原因なんだから。それをいったら、私だけではなく、私が言いふらしたり、周りの人間に信頼を落とされ、そして、周りがパニックになるから。私を、ここで処分する、何ていう強硬には出ないだろうが、少なくとも、私をただでは返してくれないだろう。もともと、泊まる予定もだったんだから、ゆっくりと話してくれればいいのに。そうはいかないって、それも分かってる。




「……ステラ様すみません」

「嘘だったって、認めるってことでいいよね」

「僕の事、信用できないと思いますが」

「勝手に決めないで。わかってたし……嘘だって」

「ステラ様は、心が読めるんですか?」

「え?なんでそうなるの?」




 思わぬところから突っ込まれ、私は、拍子抜けしてしまった。だって、そんなこといわれるとは思ってもいなかったから。




(だから、確かに前までは、そういう力あったけど、今はなくって!てか、あんな力は絶対にない方がいいんだって!)




 人の心を読める力なんて、ない方がいい。

 だって、いやな心の声まで聞こえちゃうし、仲良くしていると思っていた人間が、もしかしたら――なんてこともあり得るかもしれないから。

 ブライトは、自分がついていた嘘が、完璧だと思っていたから、そういわれてびっくりしたのだろう。初めて見破られたから、そんな反応になったのかもしれない。まあ、もうそれはどうでもよくて……




「読めないよ」

「じゃあ、なんでわかったんですか……いや、これだけ、しつこく言えば、何かると勘づくかもしれませんが……僕を試したんですか?」

「ううん、試したんじゃなくて……力になりたかったから。何か抱えてるってわかっちゃったから、余計な口出しちゃったのかも。弟に会わせてって」




 私がそういうと、ブライトは、そうですか、といって、くしゃりと髪をつかみ、息を吐いて、私の方を見た。まだ、少し、自信に欠ける、まだ言えないと、そう訴えかけてくるような表情だった。

 



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