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190 悪あがきにもとどまってみる




「はじめまして……?」




 こてんと傾げた首、丸いアメジストの瞳。普通の人が見れば、可愛い子供だと思って、つい握手してしまいそうになる。だが、握手したが最後、頭痛を伴う吐き気に襲われ、負の感情が膨れ上がってしまうのだ。全く恐ろしい話だ。それを、ブライトは知っていたから、はじめあった時、私の手を叩いたと……




(ものすごく懐かしい記憶。あんまりいい記憶ではないけど)




 当たり前だ。初対面の人間に、それも、その人の大切な人を助けたっていうのに、手を叩かれて、びっくりどころじゃない、怖いとか、悲しいとかもう、感情ぐっちゃぐちゃになるくらい酷い記憶が残るのは当たり前なのだ。まあ、といっても、あの頃の私は、までこの世界に来たばかりで、右も左も分からない状態だったため、嫌われたかも! とかいう感情しか抱けなかった。もちろん、悲しかったのはその通りだし、この後、攻略していけるかなという不安もあった。何ににしても、あの頃、リースが元カレだった、どうしようという状況だったから、そこまで考えが及んでいなかった。そもそも、エトワール・ヴィアラッテアのルートを経験していなかった私にとっては、悪役になってしまったという情報しか知らないわけで。




「は、初めまして~」

「初めまして、ボク、ファウダー・ブリリアントって、いいます」




(あーかわいい。これが、演技なのか、どうかとか関係なくなるくらいにはかわいい!)




 ショタ思考は持っていないはずなのに、上目遣いされ、小さな手を後ろで組んで話しかけられれば、誰だって、可愛いと思ってしまうのではないかと思った。魔性か、これが魔性なのか……なんて、心の中で言いながら、私は平然を取り繕う。

 先ほど、疑問形で来られた時は、話を合わせてくれないのかも、と思ったけれど、すぐに察したようで、初対面であることを繕ってくれた。以前、ファウダーとあっていて、その時、ブライトに怪しまれたことを思い出したからだ。それは、双方にとって、バレたらまずいことなので、目配せして、ここは、一つ芝居を打とうと、二人でブライトをだますことにする。そこまで、警戒していないのか、ブライトは何も突っ込んでこなかった。ブライトも気になったことには、とことん追求してくる性格なので、あまり、気になる言動はしない方がいいだろうとは思う。




「ファウダー子息って呼んでも、大丈夫……かな、ブライト!」

「ファウをですか?」

「ファウダーでいいよ!」

「じゃ、じゃあ、ファウダーって呼ばせてもらおうかな」




 思った以上に元気のあるファウダーに戸惑いが隠せなかった。でも、確かに前の世界でも、無邪気な感じはしたし、そこは通常運転なのかもしれない。ファウダーという人間が、そもそも、混沌が子として成り立っている存在ではない以上、ファウダーに個別の意識はないのかもしれない。誰かの借り物の人格みたいな。ファウダーという人間の人格ではなくて、寄せ集められた人間のデータをもとに作られた人格みたいな。自分でも言っていてよく分からなくなってきたので、思考を放棄し、ファウダーと呼ばせてもらうことにした。ごく自然な流れで、そうなったのだが、ブライトも、すぐに打ち解けた私たちを少しだけ不審に思ったのか、目を細めていた。

 相変わらず、貴族に対する接し方が、これでいいのかと悩みどころではあるけれど、誰かが指摘して小言を言われない限り、このままでいこうと私は思っている。ただ、それが染みついたせいで、そのまま社交の場に出てしまうと、やはり見栄えとしてどうなんだという話になるので、直していこうとは思っているんだけど。




「ステラ様、少し離れてもらってもいいですか?」

「触れなければ大丈夫なんでしょ?それに、ブライトの弟がこんなに可愛かったなんて知らなかったし。兄弟ってやっぱりいいね」

「……」




 不自然だっただろうか。でも、可愛いのは事実だし、兄弟という関係も素晴らしいと思う。ただ、ブライトにとっては、それが苦痛と感じることもあるかもだから、あまり言えたことではないなとは思った。

 ブライトは、どうするべきか、と悩みながらアメジストの瞳を曇らせていた。私が簡単にひかないことに対して、次の手を打たなければ、と思っているようだった。警戒心が過ぎる。




(てか、離れてもらっていいですかって、そんな……)




 ちょっと冷たいようにも感じてしまうそれに、私は引っ掛かりを覚えつつも私も、食い下がらないぞ、という気持ちで、ブライトを見る。

 ファウダーも、前の世界のことを覚えているのか、むやみやたらに私に近づいてこようとはしなかった。私に近づいて、触れようとしたら、自分ではなく、私が叩かれることを知っての事だろう。

 何とも言えない、空気感に、息が詰まっていく。




「ええっと、私も、姉妹がいて……いたらいいなって思って。なんだかうらやましい。そりゃ、気になるっていうか、家族が病気だって知ったら。落ちっつかないよね……」




 何かもっとほかのことをいえたらいいと思うのだが、今言えることがこれくらいで、先ほどからめちゃくちゃだ、というのを自分でも感じていた。でも、こんなことしか言えなくて、他の会話の切口が思いつかなかった私は、もう何度堂々巡りしているのだろうと思うくらい同じ言葉をかけてしまう。




(何やってるの!?トワイライトのことも言ってしまいそうだったし、いったらよけい、私の出自を詮索されるだろうし!)




 バカバカバカバカ! と、心の中で何度も自分をぶって落ち着かない心を、何とか鎮めようと試みた。もちろん失敗して、顔は引きつるし、空気感に堪えられなくて、また余計なことをいう口が開きそうになるしで大変だった。




「ステラ様、一度外に出て、弟のことについて再度お話をしたいのですが、よろしいですか?」

「え、えっと」




 私が知っちゃかめっちゃかなことをいったからだろうか。すでに、ブライトは切り上げる方針をみせ、私、外に出ようと言ってきた。何のためにここまで来たのかこれでは、その目的を果たせないと、私は、どうにかその場にとどまる方法を考えるが、ブライトも、ブライトで、ファウダーといると危険だから、と彼なりの優しさで言ってくれているのだろう。

 それは分かっているのだけれど、私は、あの日抱いた思いをまだ捨てきれずにいた。




(災厄が終わった日。あの日、私は、ファウダーも救えたらって思ったじゃん。私ならって、私ならできるかもしれないって。でも、デキなかったから……)




 誰にも理解されない、一人ぼっちで、努力しても報われなかった自分。それと似ていたし、彼の一人ぼっちな、孤独な心を唯一理解してあげられたのが私だった。だから、元の世界に戻ったら意味がないのかもしれないけれど、この世界なら、夢を見てもいいと……アルベドと一緒で、夢を見ようと思う。そのためには、もちろん、行動を起こさなければならないのだが……




「ぶ、ブライト。もう少しだけいさせて」

「なぜですか?」

「……お話がしたいの。ファウダーと」

「ファウ……弟とですか?どんな?」




と、ブライトは用がないのを見切っており、早く帰ろうとせかす。いい言い訳が思いつかず、私がブライトにさあ、と背中を押されたとき、そこまで黙っていたファウダーが行動を起こした。




「待って、ステラ――!」

「……っ、ファウ!?」




 ブライトの足の横を通り過ぎ、ファウダーは私に向かって手を伸ばした。ブライトは、魔力をためる勢いで、手を伸ばすが、その前に、ファウダーが私のもとにたどり着き、その手が、私の足に触れた。




「……っ!」




 

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