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187 考えていなかった宿泊




「――ステラ様……」




 ちゃぽん、ちゅぷん、とはねる水の兎。作った私も癒される魔法は、悪意がないからこそ、生み出せる至高のもの。魔法を愛している彼だからこそ、魔法の濫用、魔法を悪意持って使う人間が許せないのだろう。また、魔法を馬鹿にする人間も。

 魔法は、個性と同じだから、得意不得意はあるし、どんな魔法が使えるかも人によって違う。大きな区分で光魔法闇魔法と組み分けられていて、その下に、火、水、木、土、風魔法が存在している。そもそも、魔法を使える人間の方が少なくて貴重なのに、それをおごり高ぶって、使用するのはいかがなものかと。ブライトが抱えている不安は、そういった、エトワール・ヴィアラッテアから感じる、魔法の使い方、魔法のとらえ方だと思う。




「私、魔法、好きだよ。さっきも言ったけどさ……それと、魔法を悪用する人たちのことは私も許せないと思う。ブライトが言いたいことなんとなくわかるから、口にしなくてもある程度ってことだけど」

「そうですか……信じていたっていうのは、山々なんですが、はい」




と、ブライトはあえて言葉にせず、そういうと私の作った水の兎を撫でた。水の兎は、こぽこぽと音を立てながら嬉しそうに、ブライトになつく。前に、アルベドが、魔法はその人の内面を写すものである、とか言っていたことを思い出して、少し恥ずかしくなったけど、ブライトのことは嫌いじゃないし。嫌いになりかけたことはあったけど、誤解……彼にも理由があったことを知ってからは、そうは思わなくなったわけで。




(思うことはいろいろあるけれど、彼女が、どういう意図をもって魔法を使っているか……自分のため。自分が気持ちよくなるためなら、悪用しても構わないって思ってるんだろうな……)




 それが彼女の目的でもあって、彼女が魔法を使う意味だろうから。

 聖女としてではなく、個人として、自分のために……魔法は、人のために使わなければならないというルールはないけれど、力あるものはその責任を果たさなければならないのは間違いではないはずなのだ。まあ、そんなの人の考え方、価値観によるけど。




「ステラ様と話せてよかったです――って、また僕の方がお世話になって」

「また?」

「また……?いえ、また……いや、初めてのはず、ですけど、ね」

「もしかしたら、そんなことがあったかもしれないけれどね」

「そうですか……いつか、思い出せるといいですけど。この、胸のざわめきも、いつか」




 そういって、ブライトは目を伏せた。誰かさんと違うのは、思い出そうとして、頭が痛くなる、ということをしないこと。自分で制御してしまっているせいなのだろう。思い出したいけれど、自然に思い出していければいいと。でも、そうだと、こっちは少し困るのだ。

 ゆっくり思い出していけばいい、なんて、悠長なこと言ってられないから。かといって、辛い思いをさせたいわけでもない。

 それから、ブライトと、談話しながら魔法を教えてもらい、水魔法も、前よりも、精度の高いものになった。氷魔法が使いたいときは、フィーバス卿に教えてもらえばいいし、時と場合によってその魔法は使い分けることが重要だろう。魔法の精度はあがり、使えるものとはなってきている。やはり、練習するたびにその使い方、イメージを固める速度が速くなるのだろう。ブライトが教えてくれるのは、静かに敵を鎮圧する術で、アルベドは確実に仕留める魔法……違いはあれど、どちらも実用性のあるものだ。

 ただ、申し訳ないのが、教えてもらったこのすべは、きたる、エトワール・ヴィアラッテアとの戦いのとき、もしくは、ヘウンデウン教とぶつかった時に生きるだろう。あれだけ、魔法は人を傷つけるものではない、利益を出すために使うものではないとうたったくせに、これでいいのかと言われたら、だましている感じにもなるけれど、仕方のないことだ。だって、ぶつかるのは目に見えているから。




(はあ……嘘をつくのは慣れたはずなんだけど、胸痛いなあ……)




 巻き戻った世界に戻ってきて、嘘をつく覚悟や、だます覚悟をもって人と接しているつもりだった。けれど、やはり人をだますのは胸が痛いし、嘘をつくのがいけないことだっていうのは、元から頭にあることで、嘘をつくたびに胸が締め付けられる。

 元の世界に戻れば――なんてのは、ただの幻想かもしれないと、きっとこの世界での行いという物は残るわけで。




「ステラ様、本日はどうしますか?」

「ど、どうって?」

「ここから辺境伯領まで、かなり距離があるので……時間も時間ですし今から帰るとなると……」

「た、確かに!」




 部屋を移動しながら、ブライトに質問され、そこらへんが全くのノープランだったことを思い出した。本当に計画性がない。言われなかったら全く気付かなかった。そこが、一番今日の重要なところではないかと。




(教えてもらうことで精いっぱいだった。だから、アウローラと、フィーバス卿に変な顔されたんだ!?)




 お見送りの時、妙に心配そうな顔をしているなあ、と思ったけれど、ようやくその理由が分かった。本当に馬鹿だ。自分の失態だというのに、ものすごく頭がいたい。周りが見えなくなる癖は、直さなければならないのに。




(転移魔法も、簡単に使えないし……もう、絶対泊めてもらうしかないじゃん、こんなの)




 かといって、そんな友達のお泊り会じゃないんだから、泊めて! いいよ! なんていうフラットな関係ではないだろう。まして、婚約者のいる貴族令嬢が、こんなのでいいのかと。前世の世界とは勝手が違うのだから、こっち慣れなければならないのに、どうしても、あっちの世界の基準で考えてしまう。そりゃ、生きてきた年数が違うからそうなっても仕方がないのだが、ブライトを困らせてしまうだろうし。




「転移魔法は……」

「使えますけど、つかえたとしても、準備が必要なので明日……ですかね」

「マジで……う」

「ああ、あの、別に泊めないというわけでもないですし。そこは、お気になさらず。人は誰しも完ぺきではないので」




 あたふたと、ブライトはそれっぽいフォローを入れてくれるが、まったくフォローになっていなかった。むしろ気を使わせてしまっているとわかって、申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。

 でも、そうするしかないよなあーなんてブライトを見れば、彼は、眉を下げつつにこりと笑った。もう、完全にお転婆令嬢になっている。




「部屋を準備させますね――あ」

「どうしたのブライト?」

「いえ、一つだけ、問題があり」

「問題?」




 私が聞き返すと、ブライトは、言いにくそうに、視線を漂わせた。何かと思ったが、私も、重大なことを一つ見落としており、すぐに彼が何を問題視しているか分かってしまった。




「――弟の事?」

「……っ、そう、です。なぜわかったんですか?」




 隠しきれない。ここまで自分で言ってしまったのだから、それ相応の嘘をついて誤魔化さなければと頭がグルグルと回転する。ブライトとの思い出の中で、一番印象深いものだったから。




「う、噂で聞いたことがあったから。ブライトが、その……ブラコン……じゃなかった。弟思いで、弟が病弱だって」

「……はい。その通りです」




 このころのブライトは、弟・ファウダーが混沌であると隠していて、それがバレないよう、弟想い(実際そうではあるので、説明が難しいけど)……という噂を広めていた。私も、初めはそれを信じていたけれど、後々それが嘘だと判明し、そこで亀裂が入ってしまった。でも、ブライトは正直に話してくれたし、それもあって、協力し、彼の信頼を、双方に得ることが出来た。

 今回は、ちょっと変わってくるけれど、私が敵じゃない、秘密を共有できる仲になれば、彼も信頼して、記憶を取り戻してくれるだろう。




「その、一回会いたい……合わせてほしい。ブライトの弟に」




 ――なら、私が出る作戦は一つ!




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