181 私がやらなくてもいいこと
(ちょ、ちょーっと、いきりすぎたかも)
反省! と、頭の中で小さい私が叫ぶ。アウローラは心配していってくれているのに、私は大丈夫、大丈夫と、これでは自分の力に酔いしれている人間に見えるのではないかと少し怖くなった。自分でいうのもなんだが、魔力量は申し分ないし、その使い方さえ正しく、イメージできれば、誰よりも強い自信がある。そりゃ、経験の多いアルベドやラヴァイン、リースには勝てなくとも、普通の魔導士よりは強いのは確実で。
「あ、アウローラ……?」
「それでも、フランツ様が心配するので、まず、いうのもあれかと思います。ステラ様が強いのは分かるんですけど、聖女様の役目だと思うので」
と、アウローラはいって視線を落とす。
その聖女も、女の子なんだけど、そこのところはどうなんだろうか、と私はちょっと思ってしまった。
まあ、でも、聖女の役割が災厄を退けることである以上、前戦に立たないというわけにはいかないだろうし、そのために召喚されたんだから、仕事をしてくれなきゃ困るのだろう。ただの乙女ゲームとして見れなくなった以上は、本当に、女性男性問わず、酷なことを要求されているんだなと感じる。それでも誰かがやらなきゃこの現実は、どうにもならないわけだし、災厄が完全に訪れてしまえば、多くの人が死ぬことになる。
じゃあ、今のエトワール・ヴィアラッテアは、その責務を十分に果たしているのだろうか。彼女の目的は愛されることだから、災厄なんて二の次なのではないか。そもそも、災厄を助長しているヘウンデウン教とつながっている時点で、世界がどうなろうが関係ないと思っている人間なのではないかとも思う。もはや、心は人間とは言えない境地に達している彼女だからこそ、それを知らずに、助けを求めている人たちがかわいそうに思えてくるのだ。
「そう、だね……聖女の役割。でも、聖女だけに押し付けられないじゃん。一人でって、さすがに無理じゃない?」
「そう、ですけど……でも、ステラ様がおもてにたって戦うことなくても」
「うーん、そこは相談になるけどね。でも、この領地のことが、お父様やアウローラのことが好きだから、大切な人を守る程度の力は欲しいなって思ったの。魔法はいざというとき使えないと不便でしょ?」
「確かに!さすがステラ様!」
と、ころりと、彼女は表情を変えて、手を叩いた。半分本当で、半分は嘘なのだが、個々のいる人たちを守りたいという気持ちは本物だ。だからこそ、今のままではいけないと思う。どうにかして、魔法をもっとうまく扱えるようにならないと。
フィーバス卿に頼りっぱなりではいけないし、アルベドにも頼りっぱなしではいけない。そもそも、アルベドとは属性が違うので、光魔法と闇魔法の勝手は変わってくるだろうし、だからこそ、ブライトなのだ。そして、もう一度教えてもらいながら、彼の記憶を取り戻す。それが今できるベストな選択。
「でも、ステラ様はすごいですね」
「何が?」
「災厄をどうこうしようって思う心があることですよ。普通の人は、どうにもならないって、諦めてしまいますし、災厄をどうこうできるのは、聖女だけだと思っているので。私も実際、そうですし……でも、何もやらなければ、最悪の事態が訪れることも知っているんです。聖女だけにしかどうにかできないことを、ステラ様はやろうとしている。それだけで、凄いんじゃないですか?」
「そう……なのかな」
私は、もともと聖女という立場だったから、そうは思わなかったけれど、周りから見たら、そう見えるんだ、とまあ、至極当たり前の感情を前に、少しだけ戸惑った。
私の普通が、普通じゃないこと。
やはり、記憶がある人間とない人間との差は大きいことなど、上書きされた世界の中で、外れた道で私は走っているのだと実感させられる。でも、今はその道に、何人もの仲間がいて、迷ったら、手をつないでくれる。それは、喜ばしいことだと。
「そうですよ。ステラ様は、それだけで胸張ってもいいと思います。胸ないですけど!」
「余計なこと言わないでよ!今、感動していたのに、台無し!」
「私も胸がないので一緒です!」
と、一緒にされても嬉しくないことをいわれ、私はがくんと肩を落とす。こういうところは、アウローラだよなあ、なんて思いながら彼女を見る。彼女の顔には笑顔が戻っており、先ほどまで暗い話をしていた人間とは思えないほど爽やかな笑みを私に向けていた。こういう切り替えの良さはアウローラのいいところだし、彼女の人間としてよくできていることだろう。しっかりと状況を飲み込んで、そのうえで、今できることをする。侍女として、慌てふためかない、動揺しない、とでも教育されたのかもしれない。
「まあ、胸がないのは……はあ、そうだけど。この話はいったんおいておいて、もしもに備えて私は魔法を勉強する。大切なものを、守れるように」
「ステラ様を応援してます!それに、ステラ様、社交の場に出ないですもんね。これは、引きこもり――」
「た、確かに引きこもりの自覚はあるけど!しゃ、社交界って、呼ばれなきゃ参加できないんだよね」
「ステラ様呼ばれませんね……」
「な、何で……?」
「知名度がないのと、どういった経緯で辺境伯令嬢になったのか分からないから怖いんじゃないでしょうか」
「そういうのって、噂とか、逆に気になるーとかなるんじゃないの?」
「そうなんですけどね……フランツ様自体が、ここから動けなくて、高貴な身分、魔法の才能に恵まれた魔導士、ということしか多分、今時の貴族は知らないんじゃないですかね。私としては、知ってくれー!フランツ様は最強で、最高なんだー!って言いたいんですけど」
「アウローラのそれは、推しを応援するそれだけど、確かに、知らないから、噂になってないってのも、納得できないわけじゃないかも。社交の場にはやっぱり顔出した方がいいの?」
「そりゃもちろんです!でも、ステラ様には、すでに婚約者がいますからねー相手を探す必要ないですし。家門の良さをアピールしに行くというか、そういう場でもありますから私としても、行ってほしいところですけど、招待されてないんじゃ」
「そう、問題はそこ」
思わず同調してしまう。
まあ、やることも多いし、招待されていなかったら、そのまま放置でもいいだろうと思った。フィーバス卿も進めてこないわけで、私としても、人と関わるのが苦手だから、ありがたいと言えばありがたくて。
「そういえば、あの闇魔法のメイド……ええっと、ノチェブランカ。少し苦戦しているようですよ」
「ノチェ?」
私が聞き返せば、アウローラは意地悪気にこくりと頷いた。ああ、これは、馬鹿にしている顔だな、と感じつつもいちいち反応しては意味がないと、抑える。最も、彼女のために怒るのが彼女にとって、彼女の一時の主人だった私の仕事なのだろうけれど、アウローラはここに関しては、まったく反省もしないので、本人がガツンと言われるまで反応しないようにしようと思った。
(そうだった、ノチェ……今、ここで働けるようにって、勉強しているんだっけ)
闇魔法の魔導士であるノチェからしたら、光魔法の家門に使えるのは初めての事であり、それこそ、前代未聞の事だろう。アルベドと私た婚約したように。でも、不可能じゃないとわかっているからこそ、彼女は、挑戦し続けるのではないだろうか。
それが、アルベドの命令ではなく、自分で決めたこととして。
(ノチェならできるよね。ここで、応援してるから)
誰が何をいおうと、ノチェは投げ出したりしない。そんな安心感もありつつ、私は胸の中で、彼女にエールを送った。




