179 きのこみたいに生えないで※
「……はあ~どうなることかと思ったけど、何とか話はできたし、後は結果を待つだけかな」
フィーバス卿と話をけることが出来、あとは、ブライトの返事次第というところまでもっていくことが出来た。フィーバス卿が、私に対して甘いところを利用してしまった気がしたので、なんだかそこは申し訳ないと思いつつ、私も、アルベドやラヴァインばかりに頼ってはいられないので、自分でできることを進めなければと思った。それに、ブライトとの交流だったら、あの二人よりも私の方が適任だし、私しか、彼らの記憶を取り戻せないのだから、自分から動かずしてどうするという話なのである。
「でも、ブライトは、エトワール・ヴィアラッテアのことで忙しいかな……」
一応、聖女の魔法を見る役割を担っているわけで、それがあるから今は教えられないと言われたらそれまでだし。優先すべきは、引きこもり辺境伯令嬢じゃなくて、世界を救う聖女様の法だろう。優先順位は、私の方が明らかに下だ。それに、災厄のこともあって、ブリリアント家自体が仕事に追われているだろうし、フィーバス卿からの頼みであっても受け入れてくれる可能性は極めて低いわけで。
(まあ、声かけるのが大切だもんね!大丈夫!)
ほかのキャラと関わる方法がそれしか分からないため、今ある権力をフル活用するという形でやっているが、果たしてこれでうまくいくのかは分からない。
(てか、ブライト……自分は、聖女に教えられるようなことは何もないって、悲しんでたような気がするんだけど……)
エトワール・ヴィアラッテアとブライトの関係が、私とブライトの関係であれば、魔法の師匠と弟子になるのだが、エトワール・ヴィアラッテアが人から教わることを良しとするだろうか。誰よりもプライドが高そうな彼女が、ブライトに教わるなんてことするのか。でも、そうしなければ、ブライトとのかかわりなんてもてないわけで、ブライトの内側に入り込むには、彼と魔法でつながるしかない。けれど、前話を聞く限り、エトワール・ヴィアラッテアは、教えなくても魔法に優れた存在だみたいな話をしていたから、もしかしたら、もう教えていなくて、そばにいて支えているとかいうあいまいな関係なのかもしれない。
まあそれでも、災厄の対抗策を考え表立って動くのはブリリアント家であり、聖女との関係は切っても切れない。エトワール・ヴィアラッテアその関係を利用しているのかもしれない。
(リースにばかり気を取られていて、他の攻略キャラの洗脳が上手くいっていない?それとも他のキャラは捨て駒とか思ってる?)
グランツは性格上、初めて優しくされた相手になつく感じで、心酔したら戻ってこれないようなずぶずぶな沼みたいな性格だし、ブライトも、彼の秘密を知っていれば、それを共有し、見捨てなければ関係を築けないこともない。アルベドに関しても似たようなものだが、彼のパーソナルスペースに入ること自体難しいので時間がかかる。ラヴァインは眼中になくて、あの双子は?
(ルクスとルフレのこともあるし……ほんと、先が不安)
そういえば星流祭のことはどうなったのだろうか。まだ、始まっていないと聞くが、その準備も着々と進んでいるだろうし……
「アウローラ……」
「はーい、ここに!」
「うわあっ!?本当に呼んだら来た」
漫画だったらよんだらすぐにくるよなあ……なんて、口にしてみたけれど、まさか本当にその場から生えてくるように出てくるとは思いもよらなかった。そのせいもあって、うわああ!? なんて自分の侍女に対して叫んでしまい、アウローラはうるさいと耳をふさぐ。
「ひどいですよ。呼んだくせに」
「ご、ごめん……いきなり生えてきたから」
「そんなきのこみたいに言わないでくださいよ。侍女なんですから、主の声がかかればすぐにその場に向かいますって」
「え、ええ……そういうもの?」
「信じてませんね!?」
「信じていないっていうか……その、意識高いな!って思って」
「馬鹿にしてます!?」
アウローラはぴぎゃあ! と怒ると、私を睨みつけてきた。侍女なんですから、と言った人が、主人を睨みつけるなんて普通は考えられないのだが、まあアウローラだし、と私は彼女のコロコロ変わる表情を楽しんでいた。もしかしたら、私もアルベドやラヴァインにこんな風にみられているのかもしれないと思うと、陰キャバージョンのアウローラが私と言ったところなのかもしれない。
それにしても、本当にどこから現れたんだってくらいいきなり来たけど、ずっと付きまとっていたわけではないんだよね? とアウローラの方を見ている。
「転移魔法とか使った?」
「ええ!?そんな高度な魔法使えるわけないじゃないですか。ものすごく準備いりますし、というか、屋敷の中で転移魔法を使う理由がわかんないです」
「ま、まあ確かにそっか。アルベドがめちゃくちゃ利用するから、簡単なのかなあって思っちゃうけど……そうだった。あれ、高度な魔法だった」
「アルベド・レイ公爵子息様と同じにしないでください。ステラ様の婚約者様は、それはもう魔法にたけたお方なんです!あまり言いたくないですけど」
と、アウローラは、闇魔法の魔導士を褒めることはしたくないけど、というように言うと、ぷいとそっぽを向いてしまった。まあ、それが普通の反応なだけで、アルベドの魔法が……魔力量も常人では考えられないものなのだ。
光魔法の転移魔法と、闇魔法の転移魔法ではまた違ってくるし、その違いでもあるだろう。
「そ、そうだよね……ほんとびっくりしたあ……」
「生えたわけじゃなくて、たまたま、ステラ様の近くにいただけです。なので、転移したわけじゃないですよ。私も忙しいし、一人しかいないので」
「アウローラがいっぱいいるとか考えたくないけど」
「ひどくないですか!?」
「あ、ああ、そういう意味じゃなくてね!アウローラは一人で十分だってこと!そんな、何人もいて、みんな別々に仕事してるって思ったら、アウローラの負担になるかなあって」
「そういっているところが怪しんですけど……まあいいです。主を疑うのはよくないですしね」
「ま、まあ……そういうことにしておいて」
どっちが上の立場なのか弾に分からなくなる。でも、この年の近い感じが、私とアウローラの距離であり、私はこれに満足している。初めは話しにくいし、フィーバス卿大好きマンで、私の事なんて……という感じだったけど、今は軽い口を叩ける仲にはなった。それが、主人と従者という関係に当てはまっているかどうかは分からないんだけど。
「というか、ステラ様、またフランツ様に何か頼み事したんじゃないですか」
「え、聞いてたの!?」
「盗み聞きは禁止されているので、盗み聞いたわけじゃないですけど、ステラ様が出てきた後に、フランツ様が出てきたので、何かあったのかなあと。フランツ様忙しいんですから、あまりおねだりしちゃいけません!」
「おねだりっていうか、まあ、ちょっと頼み事はしたけど……もちろん、負担になるようだったら、っていうのは、お父様気づいていると思うし」
「それで、何をはなしたんですか?」
「あれ、聞いちゃうパターンなの?」
「そこまで言ったら、聞きたくなりますけど。普通」
「そ、そう……まあ、えっと、お父様みたいになりたいから、魔法をもっと扱えるようになりたいから……ブリリアント卿のもとに行かせてほしいって、そんなお願いなんだけど」
「確かに、ブリリアント卿なら……って、ステラ様、浮気ですか!?」
と、アウローラは少し考えてからそう口にした。キーンと耳に響いた声は、長い廊下にこだましていった。




