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176 挟まれて胃痛




「……ちえっ、もうちょっとだったのに」

「あ、アルベド!?」

「いいから、今すぐステラから離れろ。愚弟……っ!」

「だってさ、ステラ。でも、俺ステラと離れたくなーい」




 ぎゅ! と、ラヴァインは私に抱き着いてきた。身長差はあるので、彼の胸にすっぽりとはまる形になってしまい、さらに、火に油を注いだ形で、アルベドを激昂させる。まあ、何も知らない人から見たら、婚約者を弟に寝取られた哀れな男に見えるのかもしれない。




(――って、寝取られてはないんですけどね!?)




 そもそも、私が好きなのはリースだし、アルベドとは政略婚……利害の一致で今の関係に落ち着いているだけだし。でも、ラヴァインよりも、アルベドの方が信用があって、長い時間いた、今じゃ半身……とまではいかずとも、そういう関係なので、弟に、手を出されて怒らないわけがない、とは思った。

 ようやく、頭が冴えてきて、この状況がまずいと思う頃には、ラヴァインにホールドされて動けなくなっているし、アルベドの機嫌はますます悪くなるし……




(思ったんだけど、何でアルベドも寝室入って来てるのよ……)




 問題はそこなのである。倫理観というか、そういう人のこと気遣うみたいな精神はこの兄弟置いてきてしまったのだろう。もう、仕方がないことだから……と思いたくないのだが、たぶん、だけど、さっきバン、じゃなくてバリ! みたいな音聞こえたから、ラヴァインは、ピッキングで鍵を開けた? 上に、他人が入ってこれないように、結界魔法をして、私と話していた。そして、その結果魔法をぶっ壊して、アルベドが入ってきたというところだろう。そうじゃなくても、怖いのだが、当たり前に、魔法を使って、魔法を破壊してを繰り返すこの兄弟には恐怖心を抱かずにはいられなかった。

 よく、この紅蓮の兄弟に挟まれて、命があるなあ、なんて……生きているだけでも、幸せ! と感動しておくべきなのだろうか。




(にしても、ラヴァインの魔法だし、高度な魔法……なんだよね。でも、それを一発の蹴りで蹴散らせるアルベドって……)




 敵に回しちゃ怖いのは、魔導士殺しのグランツだけじゃなくて、闇魔法を極めているこの二人もなのではないかと思った。アルベドの方が強いにしても、ラヴァインが、敵として私たちの前に立ちふさがることは、かなり痛手だし。




「あ、あの、二人とも私を挟まないでいただきたい……かも」

「ステラが、こいつの侵入を許したのが悪いんじゃねえか」

「なんで私に責任擦り付けられなきゃいけないのよ!?てか、魔法を発動させつつ寝るって、それ、もう寝れないじゃない!」




 アルベドはできるのだろうが、私は安心しきっていたこともあって、魔法を発動させたまま寝る、ということが出来なかった。もしできていれば、ラヴァインの侵入は防げたのだろうが、ラヴァインがまさかこんなことしてくるとは思っていなかったため、油断していた。味方ばかりだからと、安心しきっていたのは事実であるので、アルベドの注意しろという言葉は全く持ってその通りなのだ。

 しかし、アルベドほど、毎日毎秒周囲に気を付けることなんて不可能だし、それを今すぐにやれと言われてもできない話なのだ。彼は慣れすぎている。まあ、それがいいことなのかと言われたら、常に敵がいる、周りは敵だらけと思いながら暗闇の中走るような感じだし、辛いんだろうなとは思うけれど。




「ああ、そうだよ。ここにいる間は、防御魔法で、自分の身を守っておくのが正解だ。そいつに寝込み襲われたくなかったらなおさらな」




と、アルベドは、ラヴァインを指さした。ラヴァインは、べーと舌を出して、私を抱きしめると、渡さないと、首を横に振った。まるで、駄々っ子だ。でも、こんなに大きな子供はいらない。




「襲われるって。てか、助けてよ。私、このままじゃ動けないんだけど!」

「やだ、俺ステラから離れたくないんだけど」

「いい加減離れろ、愚弟。その手を切り落とされたくなければな」

「えーでも、今この状況で、兄さんが魔法発動したら、ステラも巻き添え食らうけど?」

「……今すぐ離れろ」

「それしか言えなくなっちゃった。ねーステラ、俺と二度寝しよう?」

「いやだし……本当に、離れてほしいんだけど。というか、二人ともなんで入って来てるのよ!一応、私女の子なんだけど!?寝起きの顔とか見られたくないんだけど!?」

「可愛かった」

「俺は、見たかった」

「話にならない!」




 ラヴァインはそりゃもう、直視していたというか、唇すれすれのところで見てましたからね! というか、アルベドも何さらっと「見たかった」とか言ってるの? そういうタイプだったけ!?

 もしかしたら、まだ夢の中にいるのかもしれないと、自分の手をつねってみたが、普通に痛かったため、これは夢じゃないと認識した。にしても、アルベド……

 さすがに、離れないラヴァインを私もどうにかしなければと思い、抵抗してみるものの、力差があって彼の腕の中から抜け出すことはできなかった。それどころか、ほほまで摺り寄せてくるので、もう恐ろしい!




「あ、アルベド、助けて」

「……嫌がられてるぞ。お前。それ以上嫌われたくなかったら、今すぐ離れるんだな」

「痛い、痛いよ。兄さん。引っ張らないでー」




 アルベドも、魔法じゃどうしようもできないと悟ったのか、ラヴァインを強制的にはがそうと、力づくで引っ張り始めた。首がしまるほど、彼の服の襟が伸びていて、これはこれでかわいそうだな、と思いつつも、自業自得だ、彼が離れてくれるのを待つ。けど、かなりしぶとく私に抱きついて離れようとしなかった。本当に子供じゃないんだから、やめてほしい。私の服まで伸びる始末……




「ラヴィ、離れないと嫌いになっちゃうかも……なんて」

「ええ!それは、いやだ。絶対いや!」

「じゃあ、離れて」




 こんな言葉で動くとは思っていなかったけれど、ラヴァインはそれは嫌だと抗議の声を上げ、私から手を離した。そのすきに、彼の腕から逃れようとしたが、待って、と腕を引っ張られた。まだ何かあるのかと、振り返れば、ふにっと温かく柔らかい何かがほほに触れた。




「え?」

「今日はこの辺で~これ以上何かすると、兄さんに殺されそうだから。じゃあね、また、後で!ステラ!」




 ひらひらと、手を振ってラヴァインは逃げるように部屋を出ていった。いったい何をされたのか理解できず、頬に触れていれば、その手をアルベドに掴まれた。ミシッと骨が鳴るくらい掴まれて、顔を歪ませれば、「わりぃ」と一言いうと、先ほどラヴァインの何か触れたところを、ハンカチのようなもので拭き始めた。




「ちょちょちょ、痛いって」

「はあーあの、愚弟……今度変なことしたら殺す」

「ええっと……」

「何だよ」

「すごい熱心に拭いてるけど、私、何されたの?」

「はあ!?」




 アルベドは信じられないと手を止め私をの顔を見た。本当に何されたか分かっていないのか? と顔をのぞき込まれ、本当に分からないんです! と目をつむれば、大きなはあああ~~~~とかいうため息が聞こえてきた。

 そんなに? と思って目を開ければ、アルベドの顔が間近にあって、どきんと心臓が打ち換える。




「あ、ある……」

「じゃあ、俺も、ラヴィと一緒のことしていいか?」

「い、一緒の事って?」




 なんとなく何をされるか分かった。と同時に、ラヴァインはそんなことを!? と問い詰めて殴りたい気持ちでいっぱいになった。でも、それよりも、顎を掴まれて身動き取れなくなったため、考える頭がショートした。




「拒まねえってことはいいんだな?」

「……い、い――!




 近づいてくる気配に、また思わず目を閉じてしまう。けれど、瞼の裏側に映ったあの黄金が、それを阻止するように、私の身体は勝手に動いていた。




「だ、だめ。やっぱりだめ」



 

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