172 取り戻そう
(――本当に便利な魔法)
空間を自由自在に作り出す魔法というのが、ラヴァインのユニーク魔法なのだろうか。そう思ったが、これを多用しているところを見ると、ただたんに彼の得意な魔法であって、彼のユニーク魔法ではないのだろうと思った。能ある鷹は爪を隠す……じゃないけど、まずユニーク魔法……グランツのような、バレていても問題がない、寧ろ口にしておいた方が抑止力になるというユニーク魔法も少なからず存在するんだろう。しかし、アルベドと、ラヴァインはそれらには含まれない。ということは、バレたら注意される可能性があるということだ。とつまり、ラヴァインのこれは、得意な魔法であってユニーク魔法ではない。
「ステラ、そんな見つめて……俺のこと好きになっちゃった?」
「なんでそうなるのよ!そ、そうじゃなくて……アンタのその魔法……めちゃくちゃ便利だなあと思って」
「そうでしょ?監禁とか、拷問部屋とか、そういうのに役に立つんだ」
「こ、怖い……聞かなきゃよかった」
しれっと恐ろしいことを口にしたラヴァインは、やはり善悪のつかない子供のようにも思え、けれど、明らかに分かってて私をおちょくっているんだと。本当にたちが悪い。それも、レベルの高すぎる悪さなので、もう手のつけようがない。
どういう教育したらこうなるんだといいたくなったが、彼らに教育の云々は通じない気がして考えるのを放棄した。アルベドもそうだけど、光魔法の貴族が貴族貴族しているのに対し、闇魔法の貴族は、貴族の一般常識はあってもそれを適用していない人が多いような気がしてきたのだ。そういう生き方をしている、というふうに見ればそれまでなんだけど、それにしても……と。
「まあ、今のは半分冗談で、半分本当。ステラが聞きたかったのは、俺のこの魔法が何かって話でしょ?」
「あ……ああ、分かってたんだ」
「まあ、付き合いは、兄さんより短いかもだけど、人の顔見てたら何となくいいたいこととか察せちゃうし。てか、ステラは顔に出やすいから」
あはは、と笑われてしまい、全くその通りなんだけど、口にはされたくなかったなあとラヴァインを見る。顔に出やすいのはいわれるまでもなく、これが悪いほうにいかなければいいと願うしかなかった。というか、私が気をつけなければならない。
「オリジナルじゃないけど、一応、自分で編み出した魔法ではあるね。ほら、魔法って、イメージでどこまでも強くなれるし、可能性がある分野じゃん?まあ、そのイメージを形作るには、それなりの魔力が必要だし、頭が固い人間には無理だけどね。でも、オリジナルで作るのってかなり根気がいるんだよ。これだって、簡単にできたわけじゃなかった」
「空間を作り出す魔法……」
「そう、名前を付けるとしたらそんな感じだね。この空間魔法ってのも、結構魔力使うから、兄さんが解けっていったの……気遣ってくれて嬉しかったなあ。ね、兄さん」
「……空間事ひねり潰されたらこっちも困るからな。お前の魔力量が多いのは知ってるが、俺ほどじゃない。それに、一つの魔法を使いながら複数の魔法を使うのは、そりゃもう、沢山の魔力を消費する。公爵邸が完全に安全ってわけじゃねえけど、俺と、ラヴァインがいれば……まあ、大丈夫だろうって」
と、アルベドはいうと、庭にあったベンチに座り足を組んだ。長い足だなあ……と眺めながら、空間魔法が解除されたので辺りを見渡してみた。本当に魔法って不思議なもので、ラヴァインの使った魔法がいかに難易度が高いものか分からされる。
何もないところに空間をポンと作り出すことの難しさって相当なもので、大きさとかも考えて彼は設計しているのだろう。私にはきっと同じことができない。魔力はあってもまねごとがどこまで通用するか、という話しになってくるだろうし。
「アンタの魔法が凄いってのは分かった。でも、本当に大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
「だから、魔力……魔力の消耗の話」
「うーん、まあさっきまで兄さんとバチバチにやり合っていたっていうのもあって疲れてるのは事実だよ。でも、これからのこと話し合えないほど疲れてるわけじゃないから大丈夫!」
ラヴァインはそういってグッとサインを私に送った。本当に大丈夫か、と彼を疑いつつ、彼が言うならそういうことにしておくか、と私もそれ以上言及しないようにした。
「話あい……」
「そー、必要なのは話し合いでしょ?これからどうしていくかって」
「……グランツの記憶を取り戻すことが最優先になってくると思う……彼が敵にいるのは、こっちが動く上で一番の障害になるし。かといって、外側から攻めすぎて、変にエトワール・ヴィアラッテアに勘付かれたくもないし……それに、私が一番記憶を取り戻して欲しいのが」
「皇太子殿下、でしょ?」
「そう……でも、一番彼が彼女の洗脳にかかってると思うから。一番後回しになっちゃうかも」
懸念すべきは、長引いたせいで、本当に彼の記憶から私が消えて、思い出して貰うということができなくなってしまうことだろう。これだけは、絶対に回避しなきゃいけないことだ。
リースに一番記憶を取り戻して星って思っていても、一番難易度が高い。そこから攻めていくのはリスキーすぎるのだ。それは、ラアヴァンも分かってくれているようで、大丈夫だよ、と返してくれる。アルベドに関しても、異論はないと頷いていた。
「それで、ラヴィには……これまで通り、ヘウンデウン教に潜伏して欲しいっていうか、スパイとして情報を流して欲しいって思ってるんだけど……だめ、かな」
「ん?大丈夫だよ。記憶が戻ったから、はい抜けます!ってのもあれだと思っていたし、そっちの方が自然だしね」
「辛くない?」
「嘘をつくのは大得意!それにステラのためだったら頑張れるし。こっちもこっちで、気になることがあるからね。調べ物もあるから」
「そ、そう……辛かったら、全然……いってくれても大丈夫だからね!」
私が心配でそう言うと、それを見透かしたように「しんぱいしょー」とラヴァインは笑った。
スパイだらけ……ではないけれど、幹部にラヴァイン、そしてらラアル・ギフトこと、ベルが。某探偵漫画みたいだなあ、なんて馬鹿な事を思いつつも、バレたときのこともしっかり考えなくちゃ、と気持ちを切り替える。彼がこくじゃない、といっているのは元はそっち側だったからだろう。嘘をつくのは大得意なんて誉められたことじゃないし。
(けどこれは……ラヴァインにしか頼めないことだから。頼らせてもらう……)
一人、また一人と、頼れる人間が増えていき、こっちとしても心強い。元の状態に戻りつつある、という言い方が正しいのかもだけど、本当に彼の記憶が戻ったことは幸いで。少しずつ兆しが見えてきて、私もほっと胸をなで下ろせた。まだ、油断はできないけど。
「ありがとう……ラヴィ、本当に、ありがとう」
「いいって。それに、さっきも言ったけど、ステラに頼られるのは嬉しいよ?君の力になれてるって思ったら、頑張れるし。それにそれに、まだ感謝の言葉を言うのは早いと思う。作戦の目途が立った……っていう状態なだけで、まだまだ先は長いでしょ?」
「た、確かに……まだ、やることとか、やらないといけない事ばっかり、だから……いわれれば、そう」
「でしょ?だから頑張ろう。俺も、全部なかったことになっちゃったこの世界のこと、すっごく嫌いだから。元通りにしよう。そのために、頑張るよ。ステラのためにも」
「ラヴィ……」
彼は、ギュッと私の手を掴んだ。温かい……しっかりと体温の伝わってくるそれに、私は涙が出そうになった。彼との関わりは他のキャラと比べて少ないけれど、確かに思い出としてはそこに存在している。だからこそ、彼が私の力になりたいといってくれたその言葉だけでも救われたのだ。
(うん、必ず…… 取り戻してみせる)
彼の記憶も……他の大切な人達の記憶も。必ず。
私はそう言う意味も込めて、彼の手を握り返した。




