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170 甘えたいお年頃




(星……か、導く、星……)




 すっかりいつもの調子の彼は、調子のいいことを口にする。まあ、それが別に嘘っぽいとか、こっちの気分をどうこうするためにいった言葉ではないことは分かっている。切り替えの良さは、ラヴァインの一つの才能だな、思う。

 彼が私のことを導く星……いえば、一等星のようにいってくれたことが、何だか嬉しかった。ステラという名前も、エトワールという名前も星になぞらえた、星そのものだと。だからこそ、そういって貰えることで、ここにいる、ステラも、エトワールも私なんだと思える。

 ラヴァインと、ステラとして関わった時間は少なかったけれど、彼は、エトワールだと私を確認しつつも、しっかりとこの世界でのステラ、という人間として扱ってくれるところに好感度がもてた。というか、私をエトワールといったら、またややこしい話に発展しそうだから、ステラと呼んでくれているのかも知れないけれど、まあどちらでもいい。




「しっかし、本当に、凄いことするよね……偽物様。この世界の全員の記憶を上書きした上に、ふたしたんでしょ?どんだけ、魔力消費すれば良いって話じゃんねえ」

「確かに、それはそう……だけど。私が一回死んだじゃん……自分でいうのも何だけど。その時に生れた魔力?とかで、禁忌の魔法を使って……それに、一応聖女だから、魔力量は本当に多いんだと思う」

「そういえば、ステラの魔力も、凄いよね?」

「……あの、二人とも聞きたかったんだけど。私のこと、どんなふうに思っている?」




 私が聞くと、それまでそっぽを向いていたアルベドもこっちを見て、ラヴァインと同じタイミングで首を傾げた。なんかそういうタイミングが揃うのって、兄弟っぽい! と感動しながら、私は二人の答えを待った。

 ラヴァインが、私の魔力が凄いといったのは、勿論この身体が、初代聖女のものを借りているからであって、普通の人間でここまで魔力を持っている人間なんていないだろう。いたら、それは聖女か、悪魔か……そういった上位存在になってしまうのではないかと思った。それに、そんな存在がわんさかいるとか考えたくないし、そこら辺は、ベタな話、ゲームの設定上、あり得ないようにしてあるはずだから、考えにくい。だから、私……と、バランスが悪いけれど、エトワール・ヴィアラッテア、トワイライトの三人の聖女がこの特異な魔力量を持っている人間、として扱われるんだと思う。まあ、聖女が三人いる時点で、それもどうなんだという話になるんだけど。

 だからこそ、ラヴァインや、アルベドが、私のこれをそのまま受け入れず、どんな存在なのか、とか気になってくれないと、少し困った。というか、二人は、前の世界の常識を知っているのだから、私のようなイレギュラーな存在は、私だったから、イレギュラーだよね? で住まして欲しくないのだ。ちょっと、横暴かも知れないけれど。


 二人は顔を見合わせて、何? 分かんないな? みたいな顔を私に向けてくる。二人は、初代聖女について知らないのだろうか。確かに、初代聖女っていう存在は、もう何百年前の昔、それこそ伝説上の――として知られる存在だから、情報が残っていないのかも知れない。私は、知らないならいいと、話を戻すことにした。

 ラヴァインを味方につけられたことは、私達にとって大きな力になる。けれど、ラヴァインをそのまま陣営に引き込むにはいくつか問題があり、その問題の一つとしてフィーバス卿のことがあげられるだろう。アルベドは、婚約者だからいいかもしれないけれど、この時代の、ラヴァインは、ヘウンデウン教の幹部として知られているわけで、改心しましたーで、フィーバス卿が警戒を解くはずがないのだ。となると、ラヴァインには表だって動いて貰うことは出来ないし、協力していることが知られれば、それを逆手にとって、私やフィーバス卿まで、ダメージを受けてしまう気がする。




「その、取り敢えずは、ありがとう。思い出してくれて……すごく、嬉しい」

「ううん、こっちこそ、忘れててごめん。ステラ。なんで、出会った時気づかなかったんだろう……」

「だって、姿形は違うワケだから。それに、私も、なんか制約として、前の世界の記憶のこと、あまり話せないっぽくて……」

「ふーん、確かに、そういうのはつきものかも知れないね。こっちもこっちで、気になることがありまくりだし、一つずつひもといていければいいんだけど……」

「いいんだけど?」




と、ラヴァインは一旦そこで話を区切ると、目を輝かせて、私に飛びついてきた。それはもう、飼い主が帰ってきたことを喜ぶ犬のごとく。タックルされ、そのまま床に頭を打ち付ける……と思いきや、頭だけは守ってくれたようで、多少背中に痛みが走りつつも、彼に引っ付かれる形で、その場に倒れ込んだ。




「ちょ、ちょっと、何!?」

「はあ~落ち着く。ずっとこのままー」

「おい、愚弟。また、そうやって、ステラにくっつきやがって……なんでも許されると思うなよ」

「それ、ブーメラン。兄さんにも刺さるんじゃない?」

「俺は、何もステラにしてないだろうが!」

「た、確かに!」

「同調するな!」




 倒れ込んだ私達を、仁王立ちでアルベドが見下ろしている。立ち上がりたいのだが、ラヴァインに押さえつけられていることもあって上手く立ち上がれなかった。確かここは、ラヴァインが創り出した空間といっていたから、レイ公爵邸のなかではあるけれど、界外から遮断された空間……ラヴァインの魔法も謎であるが、家を壊さないための最良の方法といえば、これなのだろう。いくら暴れても良いのか分からないが、空間を作り出せる魔法というのは重宝されるに違いない。そういえば、前誘拐されたとき、ラヴァインが使用していた魔法は、これだったのかと、遠い昔のことを思い出していた。




「というか、重い!」

「確かに、俺のステラへの愛は重いかもね」

「う、うざ……何その言い方……意味分かんないし。記憶取り戻したばっかだから、まだ頭の中こんがらがってるの?」

「うーん、そうかも。だから、もうちょっと優しくして?俺のこと甘やかして?」




 うりうりと、頭をこすりつけてくるラヴァンに、私はこれ以上強く言うことはできなかった。とはいえ、こんな風にずっとすり寄られるのもどうかな、と思い、でも、私にはラヴァインをどかすほどの力はなかったため、うーんと、唸ることしか出なかった。子犬みたいな、ラヴァインの仕草に、可愛さは感じないわけではなかったが、ここまでベタベタされるとは思ってもいなくていい加減離れて欲しかった。




(まあ、まだ混乱してるってことにして、大目に見てあげなくもない……けど……)




 いや、ラヴァインを甘やかして、いいことがあったかといえば、一回もなかった気がするので、彼を甘やかすのは辞めようとも思った。そもそも、甘やかしが必要な年だとは思わないし……




「ら、ラヴィ、ちょーっと離れて欲しいかも」

「やだー」

「やだーって子供じゃないんだし……ほら、アルベド睨んでるから、そろそろ離れた方が」

「俺、思った以上に傷ついてるんだよ?ステラのこと、悪いようにいっちゃったのもそうだし、大切な記憶を上書きされて……さ。悲しくないわけないよね。俺の気持ち、分かってくれるっていうなら、少しぐらい、甘えさせてよ」

「……う」




 そう言われると、私も、どうしようもなくなってしまう。ラヴァインのいうとおりではあったから。しかし、それを許容できるほど、私の懐は広くないわけで。それに、アルベドが睨み付けている状況、私の胃はキリキリとなりっぱなしだった。




(どこまで、本気か知らないけど……でも、ラヴァインがそこまで言うってことは、本当に辛かったんだろうな)




 彼にそんな感情があるのかどうか、といってしまいそうになったが、彼の感情の増幅は、災厄によるものだった。もしかしたら繊細なのかも知れない。




(い、いや、繊細ではないよね。その、人殺しは普通に行えるわけだし)




 彼の子供のような顔を見つつ、彼がやってきたことをふと思い出し、私は、アルベドに助けを求めた。




「や、やっぱり、ラヴィ、引き剥がして」




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