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166 復興困難




「――グランツ、どうだった?」

「……村の人は全員避難できていたようです。帝国の騎士団と連絡がついたみたいで……一応、保護……何があったかの事情徴収を」

「ぐ、グランツはいかなくていいの?」

「後々いく予定です。それよりも、ステラが戻ってこないので……心配に」

「心配してくれたんだ。ありがとう。うん、私は大丈夫」




 ラヴァインとは、あの後、何もなく、彼は宣言通りアルベドにちょっかいをかけにいったようだった。止めることもできたのかも知れないが、あっちはあっちに任せよう。アルベドが、ラヴァインに負けるはずもないし、少しだけ穏やかになったラヴァインは、脅威とはいえないだろうから。

 それにしても、ほんとうに村の人達は一人もいなくて、移動……避難したのだと、対処の早さに驚いた。もしかしたら、この襲撃は――と考えたが、グランツがいる前でその話はできなかった。エトワール・ヴィアラッテアが、ヘウンデウン教と繋がっていたということは、そう言うこともあり得るだろうから。




(でも、魔力探知に引っかからないってことは、そもそも、来ていないってことよね。ラヴァインが、ここを訪れたってことは、彼にその役目を押しつけたってことかも知れないし)




 考えられる線として、グランツが済んでいた村が襲われる。それを、聖女として助けることで、グランツを依存させ、自分への寵愛を、村の人達からの信頼を勝ち取ろうとしていたのかも知れない。そのためだったら、多少犠牲が出ても良いし、ヘウンデウン教のことだって手駒として使うだろう。あのエトワール・ヴィアラッテアのことなら考えられる。

 そこまでして、自演で得られる信頼というのは、本当に信頼と呼べるものなのだろうか。どこまでも、虚像に虚構に創り上げて、彼女は偽物のお城で、この日々が続けばいいと幸せに浸っている。でも、その幸せがいつまで続くか分からないと、怯えているのではないだろうか。偽物が、本物に勝てるわけがない。洗脳が解けさえすれば、エトワール・ヴィアラッテアは錘だろうし。

 ただ、今回、グランツが私のことを心配してくれたのは、予想外だったというか、まわりがみえなくなることで定評のあるグランツが、私のことを……ということは、私に対しての信頼度も少し上がったということではないだろうか。




(好感度、32%……やっぱり、上がりやすい)




 他と比べてはいけないと思うが、グランツの好感度の上がり方は以上だった。しかし、エトワール・ヴィアラッテアという好感度100%ぐらいの相手がいるのに、上がるものなんだと驚いたが、こっちとしても上がってくれるなら全く問題ないので、彼の好感度の上昇に、鼻歌を歌いたいくらいだった。まあ、攻略キャラ含め私にしかいえないものなので、幽霊を見ているような気分ではあるんだけども。




「モアンさん達が無事でよかった。村の方は、もう……その……いいようがないけど、命だけでも助かったなら、きっと復興できるよね?」

「そう、ですね……でも、国から援助をもらえるわけでもないでしょうし」

「え!?魔物によって、半壊したのに、何も手助けして貰えないの!?」

「今は災厄の対策で手一杯で、そこまで人員と金を割けないと思います。なので、小さな村に関しては、何処かに住まわせて貰うか、借金をするかで」

「ひ、酷い……」

「俺にもっと力があれば、村も守りながら戦えたんでしょうけど」




 ぼそりと呟いたグランツの言葉を私は聞き逃すことはなかった。しかし、そうはいっても、あの状況でどう戦えというのだ。グランツであっても、私であっても……アルベドであっても、確実に村の一部は損傷したに違いない。全て守りながら戦うなんて現実的に不可能だ。確かに、初めて相手する魔物で、勝手が分からなかったから、被害は大きくなったのだろうが、それでも、仕方がないことだった。

 命が助かればいいと思っていたが、たんにそうとはいえず、国から援助も受けられないとなると、どう生活していけばいいのか、分からなくなる。私だって、お金があるわけじゃないし、かといって、フィーバス卿に頼むことも――




(お父様なら……でも、辺境伯領外の人全員とかなると、それはそれで大変だろうし)




 そもそも、あそこは寒い地域だから、そこになれていない人達をいきなりその場所に連れ込むというのも難しいのではないかと思った。私にできることは何もない。モアンさん達の家も潰れてしまっているだろうし、復興といっても、どれほど時間がかかるのか。それに、グランツのいうとおり、災厄がまだ収まっていない現在、復興しても、また魔物によって壊される可能性だってあるわけで。復興を進めることが、帰って無意味なことに繋がるのではないかと。今回のはイレギュラーだとしても。




「でも、ステラも無事でよかったです」

「あ、ああ、私?私は大丈夫だよ。ラヴィ……ラヴァインは、そんなに悪いやつじゃないから」

「悪いやつですよ。ヘウンデウン教が、今回の件からんでいたみたいじゃないですか。彼らのせいでこうなった。彼奴らを、恨まずして、誰を恨めばいいっていうんですか。それとも、災害だってそう片付ければ……」

「グランツ!」

「す、すみません……そこまで言うつもりはなかったんですけど。災厄のせいにするのもあれですから、俺が勝手に怒ったってことで……本当にすみません」




 グランツは頭を下げつつ、シュンと耳を垂れさせる。彼とて生きてきた場所を壊される恐怖や、絶望というのは感じているだろう。私だって、ここに全く思い入れがなかったわけじゃない。グランツほどではないにしても、災害を受けた人達の気持ちには寄り添いたいし、かするような当事者であっても、最も被害を受けた当事者の気持ちを深く受け止めなければならない。最も、人を守ったといえど、村を守れなかった私は――




「いいよ、事実だし、災厄によって、人の人格や、感情が歪められるのは、事実だから。グランツが悪いってことじゃないよ」

「……すみません」




と、グランツは、本当に申し訳なさそうに謝った。


 考えなければならないことは、もっと沢山あった。災厄のこともそうだし、なによりその原因である混沌……ファウダーの立ち位置も、この世界では違うワケで、どう動くかがさらに分からなくなっている状況に、私も混乱しているわけで。どうにかしなければならないけれど、どうにもできない状況に、腹立たしくもなってきた。自分がもっと力がある人間であればって何度思ったかも分からない。復興に協力して貰えないということは、自らの意思でどうにかしていかなければならないということ。けれど、魔法も何も使えない村の人達がそう簡単にできる作業でもないわけで。




(衣食住の住のところは、大きいのよね……)




「グランツは、これからどうするの?ここの村の復興に手を貸すの?」

「そう、ですね……俺なんかが頼んでも動いてくれるか分かりませんが、あの方に……エトワール様に縋るかも知れません。俺の生きた村が、こんな形になってしまって」

「縋る……か。確かに、聖女様ならどうにかしてくれそうだよね。村の復興、家を建て直すとか、魔法で」

「……簡単ではないでしょうから。エトワール様の手を煩わせるわけにはと思いつつも……はい」




 グランツは、気乗りしないようにいって、もう一度村の方に目を向けた。煙が上がっているところを見ると、火が出ているのでは? と思ってしまう。実際には、焼け焦げた匂いがしないため、ただの砂埃なのかも知れない。これ以上、被害が広がる恐れはないにしても、本当に――

 そう思っていると、ツキンと、胸と頭に同じような痛みが走り、私はその場で片膝をついた。グランツの大丈夫ですか!? と驚いたような声が遠くに聞えたと同時に、グランツがハッとしたように前を向いた。私も、その魔力を感じ取った。




「えと……わーる、様?」




 姿は見えなかったが、そこにいる、そんな魔力を感じ、私の胸はさらに激しく打ち出した。





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