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157 厄介極まりない魔物




 奇形の魔物の攻撃は、あまりにトリッキーで、知能ある生物だと言うことが伺える。




「あっぶない……っ」

「ステラは、魔法で注意を引きつけて下さい。その間に、俺が攻撃するので」

「で、でも。魔法攻撃って……!」

「効かないかも知れません。でも、先ほどから魔物の動きを観察していると、魔物は、魔力の多いものに引きつけられているようです」




 魔道士を殺すために作られた魔物であれば、そういうシステムが組み込まれていてもおかしくないな、と私は納得した。グランツの分析もさることながら、彼が私と協力、分担し魔物を倒そうとしてくれていることについて私は喜びを覚えていた。前の世界の彼とは比べものにならないほどの積極性。それは、エトワール・ヴィアラッテアによって植え付けられた思考なのか、それとも、これが本来の彼なのか。




(もしかしたら、彼は、友と呼べる存在が欲しかったのかも知れない。心を許せる。上下関係のない、そんなフラットな関係を築きたかったのかも)




 リース、ブライト、アルベドは、グランツよりも年上だ。同い年であるラヴァインにあたりがキツかったのは、年の近しいものに対しての余裕というか、礼儀をわきまえなくていいというあるいみ自由があったからこそなのかも知れない。もし、ラヴァインが闇魔法の魔道士でなければ、アルベドの弟でなければ、グランツは彼と良い関係を築けたのかも知れないと、今になっては思う。まあ、仲が良かったかと言われれば、全くよくないし、それでも、他の人よりかは心を、素の自分を見せていたんじゃないかと。

 私だって頼られることは普通に嬉しくて、彼が私を信頼して、役割を与えてくれているこの状況には、喜んで指示に従っていた。本来であれば、私がどうにかしなければならないところを、グランツに丸投げしているのでいいとはいえないが。




(まあ、これも一つの戦略でしょ) 




 私は、言われたとおり、魔法をクシシ、光の弓矢を射る。その殆どは、魔物の皮膚に食い込み、そして消えていく。やはり、グランツの言ったとおり魔法攻撃はあまり効かないようだ。それでも、少しずつだけど、魔物の皮膚にダメージが残っていっている気がするのだ。ただ、並の魔道士じゃ、ここまで削るまでに魔力を使い果たしてしまうのだろう。これは、私だからできた芸当なのだ。そう思うと、初代聖女の魔力は本当に偉大だなと思う。疲れてはいるけれど、魔力が減ったという感覚はないのだから。




(とはいえ、耐久線となると、私の体力の方が限界になるかも……)




 一気に決着をつける方法があればいいのだが、この魔物が、どうすれば倒れるかなんて分からないし、やはり、グランツと連携して、隙を見計らって、攻撃をし続けるしかないのだろう。氷付けにして、その隙に……と思うけれど、その魔法を繰り出す隙を与えてくれない。

 光の盾と、弓を交互に出して、攻撃を防ぎ、攻撃をし、と繰り返していくが、逃げ道が塞がれて言っているような気がする。もう、村を守りながら戦うとこは、頭から剥がれ落ちていて、倒すことだけに専念していた。本当だったら、全て守りたいけれど、そんなことで切るほど私は力がなかった。モアンさん達が生きている、生きたここを守れないのは、本当に悔やまれるけど。




「グランツ!」

「ステラ、ありがとうございます。隙を作ってくれて――ッ!」




 ザシュッという何かが弾けたような音とともに、魔物のもう片方の前足が切り落とされた。その事により、魔物は体勢を崩し、前に倒れ込む。また、あの紫色の毒々しい液体を周囲にまき散らし、それと同時に、毒々しい煙を発した。

 まずいと、私は、光の盾でそれらを防いだが、突然だったため、グランツを守るということができず、彼はそれをもろにくらい、片膝をついてしまった。その際、広がっていたあの紫色の液体を踏んでしまう。




(あれが、魔法じゃないっていうなら、グランツの魔法を切る魔法も使えないし、無力化できないじゃん……!)




 完全にやらかした、と私はグランツの元に近寄ろうとしたが、魔物が邪魔ですぐに彼のもとに駆けつけることはできなかった。安否確認をしたいのに、あの煙……が霧のようになって、視界を塞ぐ。なんて厄介な魔物なんだと思いつつも、私は、遠回りをしてようやくグランツの元にたどり着いた。




「グランツ、大丈夫!?怪我……じゃなくて、毒は」

「毒……ですか。大丈夫です。これくらい」

「待って、凄い汗じゃん。どこが大丈夫なの!?」




 先ほど私がしたように、剣を地面に突き刺して、グランツはどうにか立ち上がろうとしていた。しかし、上手く身体に力が入らないようでガクガクと震えている。額には汗が浮かんでおり、亜麻色の髪の毛が額に張り付いている。顔色も心なしか青白い気がするし、完全に毒を喰らったというのが伝わってきた。それも、かなり即効性の猛毒だと。




(本当に、ろくな、魔物じゃない……というか、倒せたのかすら)




 何となく、先ほどの攻撃では、まだ決定打を打てたという感じではない気がしてきた。だからこそ、次の攻撃がくる前に、グランツを移動させなければ危険なのではないかと。しかし、グランツは私よりも大きくて、どう移動させればいいか。




「治癒魔法かけるけど、痛かったら言って」

「痛い、とかあるんですか。俺は、闇魔法じゃないんで」

「ああ、そっか……じゃあ、ヒール」




 久しぶりに、ヒールなんて口にしたなと思った。焦っていたこともあって、魔法がしっかりと発動するようにと詠唱をつけてみたけれど、上手く発動したみたいでよかった。もし、ここで何も魔法が発動しなかったら、グランツの生死は危うかっただろう。この、毒がどれほどのものかまだはっきりと分からないけれど。

 グランツは、私が魔法を発動させている間大人しくジッと私の手を見ていた。見つめられて恥ずかしい気もしたけれど、だんだんグランツの顔色がよくなっていくところを見て、私も少しだけ安心した。毒を中和する魔法については、癪だけど、ベルに聞いた方法を用いた。悪魔だから信用はないけれど、こういう所は嘘をつかないと。




(というかこの毒の魔物って……もしかして、ベルが関わっている?)




 ベル、というよりかは、ラアル・ギフトの魔力が少しだけ感じられた。今は、魔物が襲ってこない状況だから分析できたが、この人工魔物は、ラアル・ギフトが関わっているものだとようやく理解することができた。けれど、ベルが協力したというよりかは、元々、まき戻った世界で既に作られていたものという方が正しいだろう。まあ、何にしても、ベルは楽しみそうな所はあるけれど……




(だから、こんなに厄介なんだ……)




 ラアル・ギフトの魔法が厄介なのはずっと前から知っていたし、身をもって知っていた。辛いし、痛いし、苦しい。もう、負の感情のオンパレードに精神に異常をきたしてしまうもの。あれは一種の精神攻撃なのではないかと思える、そんな魔法の使い手が生み出した人工魔物なら、厄介なのは、理解できた。

 グランツの治癒が終わった所で、彼の顔を見る。先ほどのような汗はかいていないものの、やはり、呼吸が乱れている気がする。完全に取り払うことはできなかった、と自分の非力と、ラアル・ギフトの魔法の厄介さに、顔をしかめることしかできなかった。そんなかおを見てか、グランツはどうしましたか? と首を傾げる。




「この人工魔物を創り出した魔道士のこと知ってるかも……って」

「分析していたんですね。ご苦労なことです。分かったところで、その魔道士を殺せるわけでもないのに」

「確かにそうだし、多分、そいつを殺したところで状況は変わらない。普通の魔物じゃない以上は、簡単に倒せない。でも、グランツがかなり攻撃してくれたおかげで、戦況はよくなったんじゃないかな……?」




と、私は、励ます意味も込めてそう言った。グランツは少しだけ恥ずかしそうに顔を逸らしたが、次の瞬間には冷たい目になって、はあ……とため息をついた。




「本当に、戦況がよくなったのならいいですけど」




 グランツはそう言うと、視線をあの魔物に映し目を細めた。すると次の瞬間、あの霧が立ちこめていた所からもの凄い行き宵で何かが飛躍した。




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