156 リアルな痛み
ゲームでよく聞く効果音、それの何倍もの大きさの爆発音が黒い黒煙と共に響いた。
(待って、絶対やり過ぎた!)
自分の魔力調節が、どうにも下手で、あの魔物に命中すればいいというていで魔法をぶつけたのだが、確かにあの魔物にはぶつかったし、見事的中爆発したのだが、廻を巻き込みすぎた気がする。村の家屋に被害が出ないように……と思ったのだが、もうそれは無理らしい。
「す、ステラ……」
「や、やり過ぎちゃったけど……と、突撃しようか!」
「……いえ、多分、やってません」
と、グランツは、静かに返すと剣を構えた。あれで倒せていたらよかったが、これもよくある「やったか?」はやっていないので、私も、再び魔力を集め、グランツのように光の剣を作って構えた。黒煙の中から勢いよくあのカメレオンのような魔物が飛び出してきた。翼はないというのに、跳躍力だけでか飛び跳ねて、私達に襲い掛かってきた。その早さは、変えるが飛び跳ねたように一直線に――
ビタン、と大きな音を立てて、魔物は、私達がいた場所を踏みつぶす。重さも相当なようで、魔物が飛び込んできた地面には大きなクレーターができていた。あれに当たっていたら、ぺしゃこんになっていただろう。恐ろしい、と思いつつも、次の攻撃までのラグがあり、私は、剣ではなく、光の弓矢を放ち、攻撃をしてみた。すると、その矢は、また見事命中し、魔物の皮膚に食い込む……が、全くダメージが入っていないようで、はじかれはしないものの、肉の奥までは届いておらず、フンと、身体を振るうと、その矢もすぐに抜け落ちてしまった。
「か、かなり堅いみたいだけど……グランツ、どうする?」
「魔法が効かないわけじゃないので、このまま攻撃を続けるしかないかと」
「れ、冷静だね。でも、確かに、魔法が効かないわけじゃなかったからよかったかも」
もしこれで、魔法が効かなかったら、私は足手まといだなと思った。それはいいのだが、その攻撃も、上手い具合にダメージとして入っていないので、喜んでいいのか、悪いのか。動きが俊敏なわけでもないが、遅いわけでもない。次の攻撃に入るまでの時間が長いだけで、ダメージが入らない。どう攻略するべきか分からなかった。アクションゲームは苦手だし、こうして身体を動かせられているのは、魔法で自分の身体能力を高めているからだ。そうでなければ、こんなふうに動けはしない。
「くるっ」
ぎょろりと動いた目は私達を捉え、長い舌を用いて攻撃を仕掛けてきた。その長さは、五メートル以上のび、私達が隠れていた家屋を粉砕する。
「グランツッ!」
「大丈夫ですから、目を離さないで」
その攻撃によって、グランツと私は違う方向に吹き飛ばされてしまい、私はグランツの安否を確認すべく、彼を見たが、彼は自分の守りを固めろと叫んだ。戦闘になれていないわけではないが、彼のほうが、こういう時は、頼りになる。私は、すぐさま魔物に目を移したが、彼が言ったとおり、目を離すべきではなかった。すぐ目の前に、紫色のカメレオンが接近していたからだ。
「まっ――」
咄嗟に、光の盾を作ってカメレオンの舌の攻撃を防いだが、それでもその風圧によって地面にたたきつけられ、ゴムボールのように身体が跳ねた。痛覚を遮断する魔法もあるが、ダメージをどれだけ喰らっているか分からないのでしなかった。アルベドはしているらしいが、そんな長い時間イメージを固めていられない。
そうして、地面に打ち付けられた私の身体は、悲鳴を上げ、身体の至る所から血が滲んでいた。それでも、何とか、足をつきつつも立ち上がって、魔物の方を見る。魔物は、ギョロ、ギョロリと目を動かして、舌をちろちろと出していた。その行動が腹が立ってまた爆破させてやろうかと思ったが、身体が痛くて動かない。自分には、治癒魔法がかけられないことを思いだし、この痛みをカバーしつつ攻撃しなければならないのかと、苦痛に顔が歪む。
(痛い、痛すぎる……)
こんな痛みを感じるのは久しぶりだと、最近はよく、精神攻撃面でいたいところを疲れていたから、実際に身体に伝わってくる痛みというのは、久しぶりで、人間の身体のもろさについて実感した。私がこんなにいたいのだから、グランツは? と、グランツの方は平気なのかと見ようと思うが、魔物が邪魔でみることすらできなかった。無事でいてくれることを願うしかないのだが、まずはこの魔物をどう対処するか。
「最悪……どこが、乙女ゲームなのよ」
口の中にじんわりと血が滲んでいるような気がした。私は、それを噛み締め、グッと飲み込んで、魔法で、さらに自分の身体を強化する。しかし、光魔法の強化というのは、それほど強いものではなく、一回破壊されれば、難なく破壊され続けるものだと。それはそうとしても……初代の聖女の身体とは家、形は人間そのものなので、喰らうダメージも、人間と同じといったところだろうか。余計な憶測をする暇があるなら、どうにか、今の状況を脱出する方法を探すのが今すべきことだろう。私は、光の剣を杖代わりに立ち上がり、再び魔力を身体に集め始めた。爆破魔法は、効かなかったわけじゃない。でも、内部まで攻撃が届かなかった。それは何故か。この人工魔物は、あの肉塊とは違い、ただの人工魔物だと思っていた。核がない、他の魔物と同じ、でも、肉塊と同じで、内部に核があるというのなら戦い方が変わってくる。
(でも、そんな感じしない……人間をベースに作られている感じはしないし)
詳しく観察してみれば、やはり、その分厚い皮膚が、攻撃を妨げているようだった。あれを突破しないことにはどうしようもないと。
(だったら、フィーバス卿と同じ魔法なら……)
何も倒すことはない。氷付けにすればいいと思った。しかし、私ほどの攻撃だったら、その氷を突破される可能性だってある。しかし、少しの時間でも足止めをできれば。また、魔物の形から、寒さに弱いと思うし……
「グランツ、聞える!?」
私の声に反応したのは、グランツではなく魔物だった。しかし、魔物の中いいが私に向いたその隙を突いて、後ろに回ったグランツの剣が、魔物の前足に食い込み、切断した。ブシャアッと溢れた地は、赤色ではなく、禍々しい紫色で、先ほど魔物が放っていた毒と大差ないような気もしてきた。その血自体が毒なのでは? と思ったが、グランツは、それをのらりくらりと交わし、地面に足をついた。魔物の切断された前足は、ビタンビタンとその場を陸に打ち上げられた魚のように跳ねている。気持ち悪い、なんて思う暇もなく、魔物は暴れに暴れ回り、また、そこら辺の家屋をぺしゃんこに潰していく。
「グランツ、怪我は無い?」
「はい、俺は……でも、ステラは?」
魔物が、錯乱している内に、私とグランツは合流し、互いに、怪我は無いかと確認し合った。彼に、怪我がないことを知って、安心した私は、ほっと胸をなで下ろしたが、彼は私の傷を見て、痛々しそうに目線を落した。
「もしかして、心配してくれてる?」
「心配でしょう。一緒に戦っている相手がそんな怪我を負っていたら……俺が魔法を使えたら、治せるのに」
「大丈夫だって。痛いけど、動けない程度ではないし!それに、毒の魔法に対する対策はばっちりなんだから」
「でも、受けた攻撃……それは、毒ではないでしょう?」
「うっ……でもでも、大丈夫だって。本当に。てか、グランツの攻撃効いたんだね」
「何ですか、俺の攻撃が弱いみたいに」
私は話題を逸らそうと、違う話をしてみたが、あまりに突拍子もないところからいったせいで、グランツの機嫌を損ねてしまった。しまった、と思いつつもグランツの攻撃が入ったのは、紛れもない事実なので、誉めるついでに、これからのことを考えてみる。
(物理攻撃は効いたってことよね……?じゃあ、なんで、魔法攻撃は……)
私が一人考えていると、グランツがその答えを出すように、助言をする。
「多分、あの皮膚、魔法攻撃を吸収する力があるんでしょうね。だから、物理攻撃には弱い。けれど、魔法攻撃は、弾くというより、飲み込む……対魔道士対策用の魔物という感じでしょうか」
「何それ……って、それって、ここに魔道士が来るって分かってるみたいじゃない」
「かも知れませんね、まあ、多分そうでなくとも――ステラ、次、攻撃来ます」
と、グランツは話を切り上げると、剣を構え直し、私の前に立った。目の前に、あの大きな魔物が迫っており、私も光の剣を作り臨戦態勢に入った。




