表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

752/1357

154 異例、異常事態




「お、落ち着いてください。モアンさん」




 私は、息を切らして入ってきた、モアンさんの肩を抱き、何があったのか、取り敢えず落ち着いて話してもらおうと思った。しかし、モアンさんはよっぽど慌てているのか、逃げないと危険だ、ということしか喋らず、それを永遠と繰り返し口にするばかりで、私達も、状況が飲み込めなかった。ただ、分かることといえば、何かが村を襲ったということくらいだろうか。先ほど感じた嫌な気配は、きっと魔物が出たから感じたものだろうし、それも、普通の魔物じゃなくて、かなり強力な魔物なんじゃないかと、容易に想像がついた。

 グランツを見れば、少し焦ったようなかおをしており、私の方を見てきた。攻略キャラでもそんな顔するんだと、呆けていれば、グランツが、「取り敢えず逃げましょう」といってきたので、私はどこに? と思わず聞き返してしまった。




「村から脱出するのがいいです。そこから、帝都の方にでも」

「遠いじゃん、帝都……というか、ここから逃げるには、森を抜けなきゃいけないけど、そこの所は大丈夫なの?森に魔物がいたりしない?」

「確かに、居るかもですが」

「それに、モアンさんやシラソルさんだけ逃がせばいいって問題じゃない。村の人達全員安全に避難させないといけないじゃん。放っておけないよ」

「ですが、全員ともなると……」




と、グランツはそこで言葉を切った。確かに、全員の移動となれば、時間がかかるし、魔物がどんなタイプかは分からないが、標的になりやすいだろう。そこを考えると、大勢での移動は避けたいところ。しかし、村の人達が、魔物に対する攻撃方法や、防御方法を持っていないため、別れて行動した先で、何処かのグループが狙われたりしたら大変なのではないかと、そう考えた。この村に戦える人達が何人いるか。そもそも、この村は、魔物の被害など受けていなかったはずだ。だから、対抗策などない。


 戦えるのは、私とグランツくらいで、他の人達は、その術を持たない。




(逃げるにしても、どうやって逃げればいいのよ……)




 魔物の大きさ、被害、それらを全て確認しなければ、私も動こうにも動けないと思った。モアンさんもこんな状況だし、まともに会話できないだろう。とにかく情報が欲しかった。魔物の情報さえ手にはいれば、私が倒すことだって。




「いいんですか、ステラ」

「何が?」

「貴方は今、戦いに行こうとしていませんでしたか。魔物の姿が確認できれば、自ら倒しにいけると……そう、一人で行動しようとしていませんか」

「さ、さすがにそんなことはしない……」

「嘘つかなくてもいいです。貴方は危なっかしい……一人で動くのは危険です。逃げるのを優先にした方が」

「でも、戦えるのは私だけなんだよ。グランツも戦えるかもだけど、誰も、村人を守らず戦うことなんて出来ないんじゃん」

「貴方は、魔法が使えることを隠したかったんじゃないんですか?」




 グランツは、そう冷たく、冷静に言い放った。彼の言葉を聞いて、私はハッと思い出した。グランツの方を見れば、こっちも考えているんだといわんばかりに睨み付けてきていた。確かに……と納得しつつ、グランツが、私のことも考えながら動いてくれているんだと知り、情けなさや、申し訳なさを感じ、俯くことしかできなかった。そんなことしている時間は無いのに、私はまた目先のことだけに囚われて、自分一人で行動しようとしていた。解決できること、できないことについて、もっと理解しておくべきなのに。

 グランツは、私の方を見ながら、「ともかく」と、モアンさんの肩を抱いた。




「モアンさん達を、安全な場所まで移動させてから考えましょう」

「その言い方だと、戦うってこと……だよね」

「はい。魔物の被害が出ると、あの方の手を煩わせることになるので」

「エトワール・ヴィアラッテア……」

「エトワール様の手を煩わせるわけにはいきませんし、それに俺が魔物を討伐したと聞いたら、きっとあの方も、俺を認めてくれるはず」




と、グランツは苦しげにいった。まるで、自分は認められていないといわんばかりのその苦々しい表情に、きっと、エトワール・ヴィアラッテアは、騒ぎを聞きつけても、ここに来てくれないんだろうなと言うことが分かった。そもそも彼女が、人の為に行動する人間だとは思えなかったから。私が、思っている以上に、エトワール・ヴィアラッテアは、悪役で、救いようのない人間なのだと――そう思うしかなかった。彼女が幸せになれるというルートがあると、私が信じられなかったのは、彼女のゲーム内での性格や、奇行を知っていたから。やはり、悪役は悪役のままなのかと。




(今はそんなこと考えている場合じゃないのに)




 グランツの言い方からすれば、こんな小さな村には、近衛騎士だけではなく、そもそも騎士が駆けつけてくれるかも分からないと。だから、自分たちで対処しなければならない。誰も助けてくれないから、安全な場所なんてないかも知れない。それでも、助けられる人は助けなければと……グランツの中にもしっかりとした良心があったのだと、私は思いながら、モアンさんを家の外へと連れ出した。グランツは、少し時間を貰うといって、剣を取りに行き、それから、モアンさんを連れて、森付近まで歩いた。既にそこには、大勢の人が避難してきており、泣きわめく子供の声や、悲鳴を上げる女性、戦わなければと農具を構える人達がいた。私達は、その人たちから、どんな魔物が出たのかと情報を聞くことができた。何でも、毒を持つドラゴンのような、爬虫類のような、よく分からない魔物らしい。魔物が吐き出した液体は、酸を含んでいるのか一瞬にして、家をドロドロにとかしてしまったらしい。また、大きな目は、ぎょろりと動き、どの角度から逃げようとしてもすぐに追いかけてきたとか。長い舌を扱い、ブルリと身震いすれば、胞子のような紫色の粉が出てきたとか。それに当たった人間は、痺れて動けなくなったらしい。




(絶対、ドラゴンじゃないじゃん!)




 いや、ドラゴンであってもなくても、魔物は魔物。かなり苦戦を強いられることだけは分かった。しかし、そんな魔物が、こんな場所に出現することなんてあり得るのだろうか。それとも、誰かが意図的に、この村を襲わせたのか。




(あの子爵……いや、そんな力は持っていないはずだし。でも、こんなの、普通はあり得ない事なんでしょ……?)




 確かに、災厄の影響で、魔物が活性化していて、凶暴になっているというけれど、ここまで、変な魔物が現われるような感じではなかった。けれど、現実にはそれが怒っているということで。周りの人を見る感じだと、本当に異常事態のようで、誰も、どうすれば良いか分からなくて困惑しているようだった。私も、グランツも。

 遠くで、黒煙が上がり、異様な……腐敗臭のようなものが漂ってくる。大気汚染……このにおいも、かいだらまずいのでは? と、私は口を塞ぐ。これが、魔法の部類であれば、対処しようがあるのだろうが、そうでなければ……ひとまず、自分に防御魔法をかけ、グランツにも書けようと思ったが、彼は魔法が効かない体質故に、無効だ、と私は魔法をかけるのをやめた。グランツも気がついたようで「意味ないです」といって、このにおいは毒だが、自分は大丈夫だといってサッと立ち上がった。




「ステラ、大丈夫ですか」

「大丈夫って?うん、身体はなんともない……けど、聞く限り、ヤバいヤツじゃない?その魔物……」

「そうみたいですね。魔物の複合体かも知れませんし。意図的に作られた……」




と、グランツがいったところで、人工魔物のことを思い出した。でも、人工的に作られた魔物……それを作っているのは、ヘウンデウン教の奴らで。そいつらが、この村を襲う理由が湧かなかった。いや、彼奴らは、無差別殺人を行う宗教団体だし、あり得なくもない。もし、ヘウンデウン教が絡んでいるのであれば、一刻も早く対処しなければ……そう私は、ここを守ることを決め、魔力を集めた。




「グランツ、いくよ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ