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151 里帰り




「まあ、まあ。久しぶりだねえ。ステラ」

「ご無沙汰しております。モアンさん、シラソルさん」

「よく帰ってきたねえ。元気にしていたかい?体調は……まあ、前よりも色っぽくなって」

「あ、あはは……」




 帰ってくるといきなりギュッと苦しいほどのハグをされた。全く嫌な気はしなかったが、おばあさんなのに、とても力があるな、と私は苦笑いを浮べ、再会は嬉しいけど、離して欲しいなということを訴えた。けれど、離して貰えたのは、本当に後で、ハグをしながら、モアンさんは、私に色んなことを聞いてきた。

 フィーバス卿は調べ物を、アルベドも、何かやることがあるらしくまた席を外すといって、辺境伯領内でやることもなく、ならば、自分から動いてできることをしようと、モアンさん達の家帰ってきた。本当は、ただ会いたかったという理由なのだが、そうすると、外出理由とは不十分だと思い、フィーバス卿に許して貰える理由をつけて帰ってきた。私の恩人の所へ少し出かけたいというもの。アウローラについてきて貰おうかと考えたが、もしかしたら彼もいるかも知れないし、大丈夫だと、一人でここまで来た。勿論、一人でここに来るまでには、フィーバス卿と一悶着あったのだが、私なら大丈夫だということで、丸め込んで外出にまで繋げることができた。本来ならば、護衛や、侍女の一人を連れて行くのが普通らしいが、私はない分普通ではないので、この形でいいだろうと、一人納得してここまで来た。

 とはいったものの、彼、がいなければ全く意味がないことなのだが。




「モアンさん達も元気そうで何よりです」

「ありがとう。ステラ。その言葉が聞けただけで私はねえ、もう……」

「あはは、泣かないで下さいよ。たまには帰ってきます。心配かけてすみませんでした」

「それにしても、本当に見違えるくらい綺麗になったね。元々綺麗だったのに。恋人でも出来たかのかい?」

「恋人というか……立ち話も何ですから、中に入れて貰っていいですか」

「ああ、そうだったね。ごめんねえ、ステラが帰ってきたことがうれしくてうれしくて」

「ありがとうございます」




 その一言で、ギュッと心が締め付けられた。帰ってきて欲しいと願っている人がいることに気づかなかったのもそうだが、帰る場所があるのに、私はそこに帰っていないんだなと。彼女も彼女で、私のことを、家族のように思ってくれている。そして、娘のように……孫のように思ってくれているモアンさんにとって、私がこの家から出て行ったことは、悲しいことなのだろう。つい、この間の事だと思っていたけれど、かなり時間が空いてしまったらしい。たまには顔を見せにいきたいけれど、そう言うわけにも行かない。私にもやることがあるから。

 モアンさんは、涙を拭いつつ、私を家に入れにあげてくれた。この家に帰ってくるのも久しぶりで、何も変わっていないなと感じつつも、懐かしさと、もう過去には戻れないんだなという寂しさがある。過去に戻れないんなんて、大げさかも知れないけれど、ここでの平穏を捨てて私は、貴族になった訳だし、今更ここが懐かしい、帰りたいとは思えないし、思わない。

 それに、モアンさん達にも危険が及ぶ可能性がある以上は、あまり関わりを持ってはいけない。ただ、グランツがいるから危険ではないだろうけれど……でも、グランツはどちらを天秤にかけるのだろうか。




(いや、さすがのグランツも、小さい頃から一緒にいた人を見捨てるような薄情な人間じゃないよね……大丈夫だと思いたいけど)




 確証はないけれど、さすがのグランツも、天秤にエトワール・ヴィアラッテアをかけたとして、守るべきものをはき違えて欲しくなかった。

 家の中に入り、モアンさんの入れてくれる温かいココアを飲みながら、私は、これまでに起きた出来事について話した。アルベドの話や、そこから、フィーバス卿の養子になったこと。この間開かれたパーティーに出席してきたことなど。大凡、流れだけは、モアンさんに伝えた。何故、養子になったのか、その詳しい理由は伝えていないし、混乱を招くだけなのでいわなかった。モアンさんは驚きつつも、全て受け入れてくれて、うんうん、大変だったけど、元気そうで何よりだよ、と笑ってくれた。私が、貴族になったことを、嫉んでいるのではないか、と一瞬だけ思ってしまったが、グランツではないので、大出世だね、といってくれるだけで、私のことを何とも思っていないようだった。




「ステラは、凄いねえ」

「凄いですか。魔力があったこと……隠しててすみません」

「いや、いや。いいんだよ。魔力があるって事は、その魔力を利用しようとする輩が出てくるわけだしね。奴隷なんか……魔力があるってだけで人攫いに会うことだってあるんだよ」

「そう、何ですか。それは……」

「ステラは美人だからね、そっちも狙われないか心配だったんだよ。でも、あのアルベド・レイ公爵子息様が守ってくれるだろうしね」

「ああ、はい」

「それで、アルベド様は?」

「今日は一緒じゃない……です。ああ、喧嘩したわけじゃなくて、ただ用事があるって」




 アルベドと、婚約者になったことはいわなかった。パーティーに出席できる条件について詳しく説明していないので、パーティーに行ったのだ、といことしかモアンさんは知らない。アルベドと、婚約者になったと言う話は、また混乱する一つの要因になり得るからだ。




「アルベド様と、仲がいいように思ったからねえ。もしかしたら、恋人になったりして、と思ったのよ。違ったかしら」

「あーええ、そんなんじゃないですよ~仲がいいのは、まあ事実ですけど」

「ほほーん。それは、それは」




と、モアンさんは、楽しそうに私を見てきた。多分誤解されただろうが、私は気にしないことにした。貴族令嬢になったから、アルベドとの結婚はできる訳だが……(貴族じゃなくても、貴族と結婚できるかは、私は知らないからあれだけど)、光魔法と闇魔法という壁がある以上簡単じゃないと、モアンさんであっても分かるだろう。だから、想像して楽しむ程度に、彼女は、私とアルベドがくっつけば良いのではないかと考えている。


 私は、それに話を合わせる形にしたが、心に決めた人がいるので、それは叶うことないと、否定しながら話を続けることにした。説明するのがかなりややこしいので。

「まあ、ステラが好きな人と結ばれるべきだね。アルベド様でもいいし、他の人でもいい。でも、結婚するときは教えて贈れよ。ご祝儀一杯持っていくからね」




「ありがとうございます。でも、今のところよていないので」

「貴族の暮らしはどんな感じかい?」

「貴族の暮らしといっても、私全然貴族らしくなくて。なんか、浮いちゃってるなあという感じで。まだまだ、慣れていないので」

「そうなのかい。ステラだったら、何でもそつなくこなすと思っていたんだけどねえ。ステラにも、苦手なことの一つや二つ、あるんだねえ」

「ありますよ。人間ですから」




 そんなふうに思われていたのか、と驚きつつも、少し期待を裏切ってしまったかなという悲しさもあった。期待されることは、プレッシャーだ、とリースがいっていたように、来たいというものはされればいいというものでもないらしい。

 モアンさんは、別にそんなこと気にしているわけじゃないだろうし、期待をかけていたわけでもないだろう。無意識に期待、というところはあったのかも知れないが。




「そうだね。でも、本当にステラが帰ってきてくれてよかったよ。会いたいと思っていた頃だしね。それに、ちょうど、あの子も帰ってくる予定だったからさあ」

「グランツですね」




 モアンさんの表情からするに、グランツが帰ってくるらしい。孫か、子供か帰ってくるのを喜ぶ母親の顔がそこにあり、何だか微笑ましくなってきた。モアンさんは、偶然に重なったと思っているのだろうが、私は事前に調べて貰って、わざとグランツが帰ってくる日を会わせたのだ。やるべきこと、それは、グランツに会って彼の好感度を上げることだ。




「……ステラ?」




 キィ、と開けられた扉。私の名前を呼ぶ声。さすがに、ここまでタイミングを見計らったわけではないけれど、振返ると翡翠の瞳を揺らした彼がいた。




「久しぶり、グランツ。元気にしてた?」




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