表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

746/1355

148 不安と安堵




「誰に、とは……?誰かに似ているということか」

「はい。ずっと聞いてみたかったんです。私のこと、娘として迎え入れてくれたじゃないですか。その時、魔力量を量ったと思うんですけど、普通じゃないじゃないですか。私」




 自分でいっていて、恥ずかしくなってきた。普通じゃない。それは、初代聖女の身体だからこその魔力量。魔力量は、身体に宿っていると私は考えている。だから、この身体が、その魔力を引き出してくれているというか。初代聖女の身体だからこそ、あり得ないほどの魔力量を持って、そして、魔法を使うことができると。魔力量があれば、フィーバス卿の娘として、その隣に立っても見劣りしないだろう。勿論、フィーバス卿が、それだけで私を娘だと認めたとは思っていない。ただ、この魔力量は、普通おかしいと思うのではないかと。フィーバス卿じたいが、もの凄い魔力を持っているから、それが普通だと思っているわけでもないだろうし。

 初代の聖女について、周りの人間がどれほど理解しているか。または、それすらも、エトワール・ヴィアラッテアによって、書き換えられ、上書きされ、忘れ去られてしまっているのか、気になったのだ。ずっと気になっていたことを、聞ける機会がやってきたと、私はフィーバス卿に尋ねてみた。彼も、わたしのこの質問には驚いたようで、何でそんなことを聞く? と目を見開いていた。




「確かに、ステラの魔力量は異常だと思っている。俺の推測では、俺以上、アルベド・レイ以上……聖女以上の力だとは思っている。それを、不思議に思ったことはないが」

「な、何故不思議に思ったりしないのですか?」

「さあ。まあ、ステラのような人間は稀であり、ステラ以上に魔力を持った人間に俺は出会ったことがない。だが、魔力を持っていたとして、それを使いこなせていなければ、宝の持ち腐れと同じだ。ステラは、そんなことが聞きたかったのか?」

「い、いえ……」




 今ディスられた? と、フィーバス卿を見る。彼は、傷付けたつもりはないみたいで、しれっとした顔で視線を逸らした。確かに、宝の持ち腐れだとは常々思っているし、フィーバス卿からみても、魔法が使いこなせていないのだと。しかし、魔力量でいえば、フィーバス卿よりも、アルベドよりも、聖女よりもあるというのだ。聖女に会ったことがないといっても、大凡聖女の魔力については把握しているのだろう。伝説に刻まれた過去の聖女たちと同等だと考えているのかも知れない。

 ただ、やはり魔力量があるから凄い、というわけではないようで、この世界は、魔力量があっても、魔法が使いこなせなければ無意味、無価値だというのだ。フィーバス卿はもしかしたら、私のポテンシャルを見抜いて、娘として迎え入れてくれたのかも知れない。これも、私の憶測に過ぎないが。




(初代聖女のことを聞くのは、難しそう……)




 魔力量が全てではない、と分かってから、私が、聖女に似てますよね、と言い辛くなった。フィーバス卿が、今回の聖女についてはいいように思っていないが、これまでの聖女についてはどうか分からない。聖女については、あるいは、聖女という役割や、存在については別に悪いようには思っていない、とのことだろう。

 魔法を使いこなせれば、聖女のようになれるかも知れない……かも。分からないけれど、現在、聖女という存在が、召喚されたその少女、という設定になってしまっている以上、私が聖女だと言われるのは難しいし、認められはしないだろう。また、不敬罪だっていわれるかも知れない。




「それで、ステラ、他に聞きたいことはあるのか」

「聞きたいことですか。いえ、さっきまではあったんですけど、忘れてしまって」

「思い出したら言えば良い。ただ、何を焦っているかは知らないが、焦りは禁物だぞ。その期を狙って、慎重に、待つしかない」

「あ、ありがとうございます。話は戻すんですけど、本当に大丈夫なんですかね」

「大丈夫とは何のことだ?」




 キョトンとした顔で言ってきたフィーバス卿に対し、本当に彼にとってはその程度のことだったのか、と呆れてしまった。私は、手紙のことだと、彼にいうと、フィーバス卿は、今思い出したかのように、そんなこともあったな、と本当に数秒前のことを忘れているようだった。その程度であり、まだ若いのに、認知症!? と失礼なことを思ってしまう。

 やり過ぎた自覚はあるみたいなのだが、聖女には会いたくないと。




「その、ステラから見て、その聖女……エトワール・ヴィアラッテアというのか、は……かなり、積極的なんだな」

「積極的って……まあ、行動力はあるみたいですね。強欲といいますか」

「俺の存在など、ほぼ社交界から忘れられたような物だ。だが、そんな俺に手紙をよこしてきたということは、ステラの存在が大きいらしいな」

「私の……私が、聖女様と会ったから?」

「それ以外考えられないだろう。フィーバス辺境伯の名前を聞けば、皆凍りつく。一種の抑止力だ。皇族と仲が悪いのもあるがな。そして、珍しい……と」

「じ、自分で珍しいって普通いうものですかね」

「それはいいとして、確かに、そんな聖女であれば、ますますここに来るかも知れないな。さっき言ったような、最悪のじたいも考えられる」

「お父様が、手紙を氷付けにして粉々にするから」

「悪かったと思っている。だが、どこの馬の骨かも分からないヤツを、この領地に入れることはできないだろう。一度も会ったことも、俺の方が認知をしている訳でもないのに」

「一応、聖女様なんですけどね。でも、お父様、本当に気をつけて下さい」




 私は、フィーバス卿の目を見た。彼は、エトワール・ヴィアラッテアの脅威を知らない。彼女の洗脳についても、何も知らない。フィーバス卿のためにも遠ざけたいのだが……

 それに、この間発生したあの靄の正体が、エトワール・ヴィアラッテアだと、フィーバス卿も薄々気づいているのではないだろうか。だから、少し警戒していると。そう思っていると、フィーバス卿はまた真剣な面持ちで、こんな話をしてきた。




「ステラ少し聞きたいのだが、あの靄と、何か関わりがあるのではないか」

「そ、そうです。お父様!そうだと思うんです。私の予想では、その靄が、あのエトワール・ヴィアラッテアから……」

「落ち着け。ステラ……そうか、そうなってくるとやはり」




と、フィーバス卿は話を区切ると、立ち上がった。どうしたのだろうかと思っていると、部屋から出て行こうとした。何か用事でもあるのかと、私が立ち上がってみれば、フィーバス卿はこちらを振返った。




「少し、用事ができた。今日は、ここまでにしよう。夕食時には戻ってくるつもりだ」

「お、お父様はどちらに?」

「心配ない」




 そう、フィーバス卿は、理由をいわずにまた、前を向く。何だか嫌な予感しかしずに、私はもやりと、胸の中が不安で埋め尽くされていく。今の話から、フィーバス卿が危険な事をしにいくのではないかという想像をしてしまったからだ。何というか、フィーバス卿はそういう危険な事を一人でしそうな人だと思うから。

 引き止めた方がいいのだろうが、私なんかが引き止められるのだろうかと思った。何を言っても、聞いてもらえないのではないかと、私は、昔の自分に戻りそうになった。胸元でギュッと拳を握ることしかできず、彼を見守るしかないのか。

 明日には、アルベドが尋ねてくる。このはなしをしてしまったことも話した方がいいのかも知れない。度重なる不安と、どうしようもなさに、また辛くなる。前途多難。




「そうですか、お気を付けて」

「ああ」

「……」

「大丈夫だ、ステラ。心配するな。危険な事ではない。少し調べ事をしてくるだけだ」

「本当ですか?」

「ああ、書斎に少し籠もるだけだ。悪かったな、不安にさせたんだな」

「いえ」




 フィーバス卿はもう一度振返り、ふわりと微笑んだ。私の不安を感じ取って笑顔を向けてくれたことが嬉しかった。私は、それだけで安心し、フィーバス卿に手を振った。

 父親との会話ってこんな感じでいいのか、と私はほっと胸をなで下ろした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ