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137 好感度の変動




「遅かったな」

「ちょっと、ルーメンさんと話していて。あはは……」

「笑い事か。皇太子を待たせておいて、笑って誤魔化すとは……フィーバス卿もよくこんな娘を……」

「……本当に、恋人と一緒で、私の父親を侮辱するのが好きですね」




 テラスで待っていた黄金の彼は、不機嫌そうに私を見た。開口一番に、悪口を言われてしまい、私はどう反応するか迷ったけれど、私は大人の対応をして見せた。それに対し、リースは怪訝そうな顔を浮べたが、私とやり合っても何も産まないと思ったのか、私の対応を無視し、彼はもう一度私の方を見た。彼のルビーの瞳には、やはり私はうつっていないように思える。一刻も早く、エトワール・ヴィアラッテアの元に戻りたいというように思えた。ああ、悲しいな。でも、仕方ない、その魔法を解く方法は今分からないけれど、少しでも、彼に興味を持って貰わなければと思った。




「まあ、いいです。先ほども言われたので、もう気にしないことにしますね」

「ああ、そうしてくれると助かるが」

「他人事みたいですね。皇太子殿下」




 私だって、できればこんなふうに喋りたくない。けれど、それが敵わないのだから仕方がないと、私はあくまで他人として振る舞う。距離をつめすぎるのもいけないと思ったから。それに、リースは距離をつめられるのが好きではないと私はそう勝手に認識してる。

 そんな感じで睨み合っていれば、リースの方から声をかけてきた。その目つきは、とても恐ろしくて、見ていられなかった。




「で?話を聞かせて貰おうか。俺のことを、遥輝だといったお前の事を、詳しくな」

「は、はい……勿論です。殿下」




 怖くてろくに話せたものじゃないけれどここは、自分を奮い立たせるしかないと思った。




(本当に、他人になったみたいで嫌だな……)




 でも、仕方がないことだ。私が、前の世界で、どうしようもできなかったから。もっと、早くエトワール・ヴィアラッテアの策略に気づき、止められていたら、リースの前で死ぬなんて無様なことにはならなかったのだろう。だからこそ、私が招いたこの現状を、私が変えなければならないと思ったのだ。




(大丈夫、怖くない。だって、相手はリースでしょ?)




 怖くないって、そう言いきることができないのは、嫌なところだけど。でも、相手はリースだ。そこは変わらない。




「まず、殿下は、その……こっちの人間じゃないんですよね」

「具体的に言え。こっちとはどっちのことを言っているのだ」




 分かってるくせに、面倒くさいなあ、と思いつつも、そこを突っ込んだら怒られるなんて目に見えていたので、私はそうですね、と言葉を紡ぐ。




「こっちの世界……つまりは……その、転生者ってことです。転生……ええっと、説明は」

「それくらい分かる。それで、お前は俺が転生者だと言いたいのか」

「は、はい。そう言うことになりますね……」

「可笑しなヤツだな。そういう、お前も……ということなのか?」




と、リースは私に聞いてきた。まあ普通なら、そういうふうに捉えられてもおかしくないし、こちらからそれを言ったのだから、私も、ということになるだろう。でなければ、何故分かったのだということになるし。心底、面倒だな、厄介だな、と思いつつそれを認めてしまった場合、私という存在が、エトワール・ヴィアラッテアにバレることになるのではないかと思った。それは、避けなければならないことな、と。しかし、ここまで来て、それらを撤回なんてできないだろうなあ、と遠い目でみることしかできなかった。


 本当に、後先考えずに行動するのはやめた方がいいと皆に言いたい。

 というのは、今関係無くて何度ものもやらかしてしまう自分がどうしようもなく、情けないな、と思った。それもまた仕方がない。




(でも、ここで言わないっていう選択肢はない訳よね……)




「殿下は、どうお考えなのですか?」

「質問を質問で返すとは、いい度胸をしているな。だが、俺の名前を知っているということは、お前も、転生者というヤツなのだろう。でなければ、このはなしが出てくるはずがない」

「そう、なりますよね……」

「はっきりしろ。お前は何が言いたいんだ。ステラ・フィーバス辺境伯令嬢」




 そう、問い詰められる始末。私も、どうすれば良いか分からなくなって、泣きたくなってきた。でも泣くことなんて許されていない。彼を前にして、泣くなんてみっともないと思った。

 私は一体、何にむかって喋っているというのだろうか。知っているはずの人が、全く知らない人になったような気分で。




「転生者です。殿下もそうだというのなら、前の世界のことを話、聞かせて頂けませんか」

「何故だ」

「何故って知りたいからです。私も、転生者で……心細いので」

「なら、お前から話してみろ」

「わ、私からですか?殿下の話が聞きたいって言うのに……」

「まず、素性も分からないヤツに、自分の出自を教えると思うか?普通」

「お、教えないと思います……ごめんなさい」

「だが、気になるところではあるな……俺と同じ、転生者というのは……気になるところだ」

「じゃあ、私が話したら、殿下もはなしてくださいね?」

「仕方ない……情報交換だと思えばいいか……」




 リースはこういうのを嫌う傾向にあったけれど、ここまで必死に頼み込めば、きっと彼であっても聞いてくれるだろうと、そんな淡い期待があった。リースは、悩んだ後に、仕方ないな、とでも言わんばかりに、舌打ちを鳴らして、話してみろ、とテラスの縁に背中を預け、私を疑うような目で見ると、そう発言した。一応、恋人だと私は思っているけれど、相手は記憶が無い状態。そんな中で、話さないといけないと言うことが、こんなに苦痛になるとは思わなかったわけで。




(まあいいわよ……取り敢えず、そういうか弱い女性を演じることができたのなら)




 そんなの嫌だけれど、仕方がない。どんな嘘をついても今更だから。




「前世、私は、双馬市に住んでいました。中身は、二十一歳です」

「俺と、同じか……?住んでいた場所も、年齢も」

「そーなんですね。殿下も、同じなんですか。何だか運命って感じがしません?」

「いや、しない」

「そ、そーですか」

「わざとらしいな。もっと、どうにかできないのかそれは」

「それって……仕方ないじゃないですか。こういう性格なんで」




 私に、少しは、興味を持ってくれたようだが、それまでで、彼の好感度は依然として動く気配はなかった。何故だろうか。彼の好感度は何故変わらないのだろうか。興味を持ってくれたのに、何故? そんなふうに、私が考えていれば、すぐに「次の話はないのか?」と追撃をしてきた。気になるには気になるみたいなのだが、表情は何一つ変わっていないのだ。




(何か、おかしい……でも、それが何か分かんないから怖い……)




 好感度が、変化しないことは、これまでなかった。少しでも興味を持てば、悪印象を抱けば、好感度が変わったはずなのに、今はどうだろうか。何も変動がないのだ。好感度が変わらないという現状に、私は、少し恐怖を感じていた。好感度を上げる目的でもあり、ここに来ているのだから、変わらないのでは意味がない。




(リースは、私に興味がないっていうの?)




 それは、困る。けれど、興味を引く方法がこれ以外私には分からなかった。やっと、話せる。興味を持って貰えたと思っていたのに、これじゃあまともに……




「話はそれだけか?」

「それだけって……それだけじゃないです。それだけじゃ……」




 何て言えば良いか分からない。でも、何を言えば良いかも……本当は、人と話すことが苦手だった私には、話題が詰まってしまった。これでもダメなら、他の方法は……




「遥輝は、何も……感じないの?」




 ぼそりと出た言葉は、恋人に縋り付くようなものだった。





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