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134 一歩も引かない




「婚約者を奪うって……普通、そんなこと考えていなければ、出てこない発言だと思うんだけど。もしかして、その気がステラ嬢にはあるんじゃないの?」

「あるわけないです。ただ、私も最近貴族令嬢になったばかりで……お父様のこともあって、あまり領地から出られないんです。こんな機会滅多になくて。アルベド……アルベド様の同伴としてここに連れてきて貰った身ですから」




 笑顔には、笑顔で返さなければ。私が、清々しくそう言えば、少しだけ面食らったように、でも、ギリッと奥歯を確実にならし、エトワール・ヴィアラッテアは、忌々しそうに私を見ていた。まるで、自分のおもちゃがとられそうになって不機嫌になった子供のようだった。

 私のもの、ではないけれど、私の恋人を奪ったのに、その顔をされて、こっちも腹が立ってきた。だって、アンタのものじゃないから。

 アルベドは、少し強く出た私の背中を優しく叩いた。エトワール・ヴィアラッテアは、私の発言にイラついていたようで気づいていなかったが、もし、気づいたらどうするつもりだったんだと、私は言いたくなった。




「そう……貴方の出自については、後々調べるわ。どんな手を使って、貴族令嬢になったのかも。気になるところだしね」

「そんな、何も出てきませんよ。ただ、魔力があった。それだけのことです」

「魔力」

「はい。でなければ、お父様に認めて貰えさえしません。だって、お父様は、光魔法の中でも、五本の指に入る魔道士ですから」

「フランツ・フィーバス……ブライト・ブリリアント…………に任せた作戦、失敗したっていうの?ほんと使えないわね」

「……」




 私達が目の前にいても、悪態をつける度胸というか、周りを見ていないこの女に私は負けたのかと、こっちまで腹が立ってきた。それとも、私が何も考えないモブだと思っているのか。アルベドも、システム通りにしか動かない人間だと思っているのか。目の前で、ブライトの悪口を……

 というか、ブライトがフィーバス卿の所に来たのは、自身で考えたことじゃなくて、エトワール・ヴィアラッテアにいわれてのことだったのだろうか。まあ、どういうやりとりがあったかは、何も探らないし、作戦が失敗したということは、もう手を出してくることはしないだろう。いや、あの靄のことがあったからまだ油断はできないのだが、今のところ、私がいると分かったのなら、きっと手は出してこないはずだ。




(もし、フィーバス卿が、その作戦とやらに乗ってしまっていたら?私の立場が危うかったってこと?)




 考えれば考えるほど、沼にはまっていくような気持ちになったので、私は一旦そこで考えるのをやめた。エトワール・ヴィアラッテアのつかうそれが、魔法である限り、簡単に、フィーバス卿の防御を突破できるとは思わない。完全回復していない今の彼女の魔法であれば。




「まあいいわ。私もアルベド・レイ公爵子息様とお話したかった所だし、少しぐらい離れても問題ないわよね。リース」

「……俺は、エトワールと一緒にいたいが」

「ありがとう。そんなこと言ってくれるの、リースだけよ。でも、すこーしだけ、そのステラ嬢の相手をしてあげて。田舎娘なんて珍しいでしょ?」

「ああ、そうだな」




 馴れ馴れしく、リースと呼ぶ姿も。やはり、私を見下し、田舎娘とかいう所も彼女の性格の悪さが際立っていた。それに、リースも洗脳なのか、彼女と一緒にいたいと本気で願っているようなそんなかおをしていた。私なんて一切眼中にない。視界の端にすら入れて貰えない存在になっていた。

 唇をギュッと噛むことしかできなくて、悔しさも、悲しさも全部握りしめるしかなくて。でもここでおれてしまうのは、それまでの覚悟なんだ、と私は顔を上げるしかなかった。目の前のカップルが……私の元彼で、恋人だった彼と、嫌いな女がいちゃついていたとしても、それを見て、自分の幸せを取り戻すことで、浄化されると。




「アルベド、ありがとう。ごめん」

「……ほんと、嫌な女だな」

「でも気をつけて。魔力が前よりもなくなったとはいえ、彼女の洗脳魔法は強烈だと思うから」

「分かってる。俺がそんなヘマこくとおもうか?」

「……信頼してるけど、つけいる隙を与えないで。絶対に。アンタまで失ったらきっと何も出来なくなる。それこそ、私は」

「大丈夫。信じてろよ」




と、アルベドは、私の髪を撫でた。それから、耳をこしょりと触り、つけていたオレンジの花のイヤリングに触れる。私をどんな顔で見ていたかは分からなかったけれど、彼も覚悟を決めたのだろう。先を歩くエトワール・ヴィアラッテアに手招きされながら一歩踏み出した。紅蓮の彼が、遠くに行ってしまいそうな、そんな幻覚を見ながらも、私は送り届けるしかなかった。




「いきましょう。アルベド・レイ公爵子息様。外にいい場所があるの」

「聖女様がいうのなら、それはもう素敵な場所なんでしょうね」

「……聖女様はやめて。エトワールでいいわ」

「皇太子殿下がいるのに、名前を呼ばせるんですか?それとも、俺が貴方の特別になれるとでも言うのですか?」

「……嫌ならいいわよ。そうね、私の一番はリースだから」

「では、エトワール様。連れて行ってくください、俺を」




 そんな会話をしながら、彼らは、会場の人混みの中に消えていった。彼女の言ういい場所とはどこなのか。名前を呼ぶやりとりも、何だか不吉だった。エトワール・ヴィアラッテアと、アルベドは真っ向から対立しているようにも思える。エトワール・ヴィアラッテアが、アルベドと話すことを決めたのはきっと洗脳するためだろうけれど。あとは、何故自分の洗脳にかからないのか不思議がっているからだろう。その理由を探るためか。

 何にしても、あとは、アルベドに任せるしかないと思った。私は、今やるべきことをするだけ。彼が作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかなかった。




「皇太子殿下」

「何だ……貴様、名前は」




と、本当に興味なさそうに、ルビーの瞳は私を睨み付けた。なんでさっき挨拶したのに名前を覚えていないのか。もしかしたら、それも魔法で? と色々思ってしまう。まあ、でも、リースというか遥輝だし。興味ない人の名前は覚えていないんだよな、と自分を納得させた。納得させるしかなかった。決めつけてしまうことが、諦めにも繋がってしまうと思ったから。




(やっぱり、好感度は変わってないか……まあ、これだけ興味なければ、分かるわよね……って話だけど)




 変動しない、好感度。見ているだけでも、鬱になりそうだった。そんなふうに私が彼の頭の上を見上げていれば、それに気を悪くしたのか、リースの額に皺が寄った。




「何を見ている?」

「え、何も……」

「俺の頭に何かが乗っているとでも言うのか。それとも、俺に話しかけたくせに、俺に興味はなかったというのか」

「そ、そんなんじゃなくて」

「俺は、エトワールと一緒にいたかったというのに……貴様が、その時間を奪ったのだ。田舎娘」

「ステラです」




 被せるように私は自分の名前を言った。いくら、恋人だからといって、洗脳されているからといって、私も苛立ったから。私が貰った大切な名前……田舎娘でも何でもないし、その言葉は、さっきエトワール・ヴィアラッテアがいったから、彼はきっとそのまま使ったんだろうと、それが分かってしまったから、尚更。




「私は、ステラ・フィーバス。フィーバス辺境伯の娘です」




 アンタの目に、私をもう一度映させてあげる。だから、今は、その反抗的で、冷たい目に、私は怒りをぶつけることにした。自分の思いを、愛を。





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