131 やり方は違えど
「ああ、あある、アルベド抑えて。私抑えたじゃん。いいって」
「お言葉ですが、ボルテージ子爵。それは、あまりにも暴論すぎやしませんか?」
「あ、アルベド・レイ公爵子息様。それは、どういうことですか?」
「ステラは、俺が見つけた聖女に匹敵する魔道士だ。だから、婚約を申し込んだ。出自がどうとかいうがな。貴方も、跡継ぎが生れず、最近探していると聞きますが?その点については同お考えで?」
「……ひっ、し、失礼しました。ステラ嬢、アルベド・レイ公爵子息様」
アルベドが睨み付ければ、脱兎のごとく、そのぼる……なんちゃら子息は私達の前から姿を消した。それもあってか、私達の周りにいた貴族たちはスッと私達の周りから離れていった。絡まれなくなったのは嬉しいが、果たしてこれでよかったのだろうか。
ふぅ、とやりきったような表情をしているアルベドを、私は横目で見ながら、咳払いをする。すると、アルベドは、なんだよ、といわんばかりに私の方を見てきた。
「あ、ありがとう。助けてくれて」
「別に」
「で、でもやりすぎだったとおもう。これじゃ、またアルベドの評価が落ちちゃう」
「はじめから気にしてねえよ。俺が、出席できているのは、あの偽物のおこぼれでもあるしな。はじめから、誰にも招かれちゃいねえし」
「そ、それは分かってるんだけど。だからって」
「じゃあ、あのまま言わせておいてもよかったのか?お前の方が、先に手を出しかねない顔してたけどよ?」
「……うう……そ、それもそうなんだけど」
正直、手が出そうになったのは本当だ。色んなこと言われて、カチンときて、そのまま感情に流されそうになった。あっちにそのつもりはないだろうし、そういうふうに育ってきた人だからこそ、そんなふうに私に言ってきたのだろう。女性が、とか、闇魔法の人間が、とか、フィーバス卿があの領地から出られてない理由をしっかりと知っていないからこその、とか。
言い返したかったが、私は養子で、権力もあまり持たない。私の存在を知らしめるためにきたのであって、まだ私のことを知っている人なんていないだろう。ブライトぐらいだ、私に話しかけてきたのは。それで、ようやく注目を集めることができたと思ったのだが、結局この有様。自分でも嫌になる。
「嫌なことばっかりだぞ。現実なんて」
「アンタの苦労分かって気がする。そりゃ、いきたくなくなるかも……」
「だろ?でも、すっきりしたなあ、今のを言い返せたのは」
「言い返したのって……ほんと、もう」
「俺の事嫌なふうにいうのは許せるが、やっぱ、お前の事悪く言われるのは嫌だなあと思ったんだよ。あと、フィーバス卿も、気にしないフリしてるが、動けねえのに叩かれるのは嫌だろうしな」
「それは、そう……お父様は、あの場にいたくているわけじゃ無いのに」
フィーバス卿がここにいないから、さっきの子爵は強く言えたのだろう。きっと、フィーバス卿を前にしたら言えないのに。でも、一つ間違っていることがあるとするのなら、私が、フィーバス卿の娘であるということ。あのフィーバス卿が養子をとったという天地がひっくり返るようなことが怒っているのに、その娘を邪険に扱った。他の貴族女性と同じように、女はこうあるべきだと押しつけてきた。私がそれらを、フィーバス卿に言わないなんていう可能性はないわけじゃないのに。もっとも、パーティーに出席させて貰えるほど、寛大になったと言うのなら、まず、私の前でフィーバス卿を侮辱するのはリスキーだと思うはずだ。そこまで、頭が回っていなかったんだろうなと、何だか可哀相に思えてきた。もっと、色んなことに頭を使って周りを観察するべきだと。
阿呆としていいようがない。救いようがない。
「というか、アルベドはあの貴族について知ってたの?ああ、アルベドは、有名人だから、皆知ってて当たり前とか思っちゃうけど」
「俺が有名人だって誰が言ったよ?」
「ブライト、とか……いや、でも、公爵っていう爵位は一番上なんでしょ?いや、フィーバス卿と並んで……お父様と並んでいるかも知れないけれど、闇魔法の中で一番位が高いって言うか。だから、有名人……皆知っているって」
「まあ、それは認めてやらねえでもねえけど。その通りだしな」
「でしょ?」
「で?」
「で?」
と、そこまで言って、私は言い返す言葉も何もかも考えていなかったため、つんでしまう。有名人だから何だというのだというアルベドの気持ちも分かるし、いきなりこのはなしをされて、脱線して、で? というのは正直、正しい反応であるとは思った。
「ああ、で、それで……あの貴族を何で知っていたかって話。見たかんじ、有名人じゃないっぽいけど……」
「まあ、有名人じゃねえな、中級貴族だしな」
「だから、なんで知ってるかなあって」
「暗殺対象として目をつけてるからか」
「あ、暗殺対象!?」
思わず、声を上げてしまい、アルベドに口を塞がれる。さすがに、こんなパーティーの最中、暗殺とかいう物騒なワードを出せば、皇太子か、聖女か狙っているのではないかと勘違いされるし、普通は、こんなワードが飛び出さないはずなのだ。
「ばっか、お前声でけえんだよ。静かにしてろ」
「わ、分かった。ごめん……で、暗殺対象?ターゲット……なんで?」
「まあ、理由は色々。だが、分かるだろ?俺は、悪人しか殺さねえって」
「そ、そうだけど……」
「まあ、とある闇魔法の貴族と裏で取引してるっていうか。そのお金と情報で、爵位をあげて貰おうとしてるみたいでな。裏金ってやつだ」
「裏金……確かに悪いことかも」
「まあ、こんなの、色んな貴族がやってることだしな、珍しくねえけど」
と、アルベドはいって、肩をすくめた。貴族社会は一体どうなっているんだと思った。でも、これが普通だと、アルベドはいうのだ。自分たちの利益しか考えない、求めない生き物が、貴族なのだという。そうして、貧富の差が広がっていき、辛くなっていくばかりで。革命を起こすような気力も奪い取っているのだろう。なにせ、貴族は魔法が使えるから。
「ああ、だから、アルベドが怖いってあの子爵は逃げていったと」
「知らねえよ。まあ、睨んだが、怖いって感じたのはあっちがそう感じただけだしな。やましいことがあるんだろうな。俺が情報を握ってるとか、思ったに違いない」
「そう……まあ、ほどほどに」
「止めないんだな」
「止めても、アルベドはやりそうだから。それに、悪いことしている人は裁かれるべきだと思う。でも、それは命を奪う、とかそういうやり方じゃなくて。でも、アルベドがやっていることは正しくないけど、正しいと思うよ」
「どっちだよ」
「どっちって、決められないから、かな……まあ、それがアルベドのやり方だって前から知っているから。アルベドのやりたいようにって感じ」
悪い人しか殺さないのは、ゲームの知識だけど。それを、本当に実践しているんだという所は、ちょっと怖いかも知れない。でも、彼はそうやって生きてきたし、貴族たちの考えはすぐに変わるものじゃないから、きっと、アルベドもやり方を変えないだろう。
そんなことを思っていると、二曲目が始まろうとしていた。会場の真ん中に、手をひかれてともに歩く男女。
「もう一曲踊るか?」
「もうへとへと……というか、リースたちは」
そう思い、辺りを見渡していれば、きゃあ、と黄色い歓声があがった。
「皇太子殿下と、聖女様よ」
(リースと、エトワール・ヴィアラッテア?)
ふと、顔を上げれば、眩い黄金がふわりと、私の視界いっぱいに入ってきた。
 




