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126 招かれざる客




「ギフト卿……?」

「お久しぶりですねッス。ブリリアント卿」

「……べ、ら、ラアル・ギフト伯爵がど、どうしてここに?」




 藤色の髪は忘れるはずがない。しかし、元々のラアル・ギフトの面影はなく、完全にベルが乗り移った後の、ラアル・ギフト。ベルル・ギフトなんじゃないかと思うくらい彼は変わっていた。そして、本来なら、闇魔法の魔道士で、呼ばれるはずのない彼がここにいるという異例の事態に、私は困惑して動けなかった。

 彼の中身があくまであると知っているのは、私だけだろうし、ブライトがそれに気付けるかどうかも。




(気付いてないよね……てか、ブライトも驚いてるけど、若返ったとか、そっちに驚いているんじゃなくて、ここにベルがいることに驚いてるって感じだし)




 招かれざる客といわれれば、それまでで、ブライトが困惑する理由も分からないでもなかった。というか、分かりすぎて、私もブライト側だ。

 ベルは、私の頬をむにむにと確認するように触り、挑発的な笑みを浮べ、ブライトを見ていた。ブライトはどのような表情で返せば良いか分からず、私と、ベルの方を見ているばかりで、何か言ってくることはなかった。また、カオスな状況を作っている、そう分かっていても、多分ベルの魔法だろうが、周りの人は私達を気に留める様子はなかった。悪魔の魔法は偉大だな、と思考を放棄するように考えていた。




「先客って、誰もアンタと話そうと思ってないんだけど」

「ええ、酷いっすよ。一緒にパーティー来てっていったじゃないっすか」

「来てって言ってないし。それに、私はパートなーいるんですけど!?」




 ブライトに誤解されないように声を張り上げれば、それすらも面白いというように、ベルは笑っている。本当に、どうしてきたのか。この間は大丈夫といってその場を切り抜けたはずなのに。やはり、彼は信用しちゃいけなかったのかと思った。私に興味があって、手伝ってはくれるが、気まぐれで、それは自分の好奇心や欲求を満たすためだと。

 それにしては、大がかりな魔法を使ってきたと思った。

 だって、ここに来るまでに、招待状の偽装や、ラアル・ギフトという存在そのものを書き換える必要があったと思うから。まあ悪魔だから、そんなこと造作でもないのかも知れないけれど、私達では考えられないような莫大な魔力を使っていることだろうと。




「で、本当は何しに来たのよ」




 ブライトに聞えないように私はコソッと彼に話した。皇宮で魔法を使うことは、難しいし、リスキーだからしない。ベルのように、この世の法則を無視できないからという理由もある。ベルが魔法を使ってくれれば問題ないんだけど、気まぐれ悪魔に何を言っても無駄だろうと思う。ブライト目の前に無視する形で悪いけれど、私はベルにそう尋ねた。ベルはいつにも増して、楽しそうな顔で私を見ている。本来の彼の姿がどうかは分からないけれど、ラアル・ギフトの成分が残っている顔で笑われても恐怖でしかないのだ。

 ラアル・ギフトという男の毒に、どれだけ悩まされてきたか。前の世界のことを、ベルは知っているんだろうけど、話したいぐらいだった。それも、今この世界では、ベル、エトワール・ヴィアラッテアによってその記憶は書き換えられて、全く別物になってしまっているみたいだけど。




「何って、ステラちゃんを見に来ただけッスよ」

「ちゃん付けやめて」

「じゃあ、ステラで。うん。で、ステラを見に来たわけッス。だって、貴族社会とか、貴族の暮らしとか飽きちゃって」

「飽きちゃって……って、アンタね」

「しょうがないじゃないっすか。悪魔って、基本、何にも縛られない生き物なんで」




 聞けば聞くほど頭が痛いな、と思いながら私はベルの言い分を聞いていた。本当に、ブライトを目の前にして、無視してしまって悪いとは思っているんだけど。




「あの、ステラ様」

「ああ、ごめん。ブライト。少し話し込んじゃって」

「ステラ様は、ラアル・ギフト卿とも仲がいいんですか?」

「仲がいいって……」

「これはこれは……ブライト・ブリリアント侯爵様お久しぶりです。さきに挨拶を申し上げるべきでしたね」

「いえ……大丈夫です。こちらこそ、久しぶりになるんですかね、ラアル・ギフト卿」




 ブライトは明らかに警戒した様子でそう答えた。それから、私の方をちらりと見て、疑わしげなアメジストの瞳を向けた。確かに、私の周りではイレギュラーが起こりすぎているというか、闇魔法の魔道士と仲がいい、光魔法の魔道士……それも、養子、自分の理解の外にいるものと思われても仕方ないなと思った。

 そもそも、私自身が転生者であり、転生した身体は本人に怒られて奪われて、この身体だって、現世にはもういない幻の……初代聖女の身体なのだから。物語が崩れすぎているのは分かる。普通、追加コンテンツってもう少し上手く物語に組み込むものだとは思うし、これじゃあIFストーリーと思われても仕方なくない。まあ、それを理解しているのは私だけなんだけど。




(……前世の記憶がどこまで訂正されるか分からないけれど、リュシオルは、この世界のことを知っているわけだし、彼女に会ってその違和感について聞くしかないんだろうけど……)




 彼女が今どこにいるかも分からなければ、私のことを覚えているかも分からない。そんな状態のままあいにいってことが上手く進むはずもない。




「ステラ様は、ギフト卿といつ知りあったんですか?」

「ええっと、少し前……かな。私も、よく分からなくて。ほら、仲がいいというか、みてよ。これ絶対一方的じゃん!」




 私はささっとブライトの方に移動して、ベルを指さした。ベルは驚いた顔をしたけれど、すぐにその顔を取り繕ってニコニコと「そーですね」とブライトと私に笑みを向ける。その笑みは、ベルの笑みと、身体の主であったラアル・ギフトのねっとりした含みのある笑みが混ざって気持ち悪かった。ある意味、ベルがラアル・ギフトの身体を宿主としたのはあっていたのかも知れないと。悪魔は、自分の本来の身体の方がきっと魔力は上手く扱えるだろうけれど、今のベルは、自分の力と、ラアル・ギフトの毒の魔法が使える。絶対に敵に回さない方がいいのはその通りなのだが。




「その、ブライトは何か、違和感……感じたりしないの?」

「違和感、ですか?」




 この際だから、ベルのことについて聞いてみようと、思い切ってみたが、やはり、ブライトは違和感を全く覚えていないようで、聞いても無駄なようだった。やっぱりそうなのか……と、ベルを見れば、今度はムフフと笑っている。




『スーテラ』

『うわっ、びっくりした。いきなり、テレパシーとかやめてくれない?てか、何?』

『悪魔の魔法は、理を超越してるからさあ。あんまり気にしちゃダメッスよ。だから、俺とお話しないッス?』

『全然、前後と話が噛み合ってないんだけど』




「……ブライト、ごめん。私、ラアル・ギフト卿……と話すことがあって」

「そうなんですか。ですが、気をつけて下さいね」

「気をつけるも何も……まあ」

「……彼は、毒魔法の使い手ですから。さすがに、皇宮で何かやらかすとは思いませんが、しっかりと軽快しておいた方が」

「あ、ありがとう」




 ブライトのアメジストの瞳が鋭く尖る。やはり、誰から見ても、彼は危険人物なんだろう、と、ブライトはぺこりと頭を下げて、離れていった。本当はもう少し話していたかったんだけど仕方ない。




「で、話……聞くけど、てか、こっちも聞きたいことあるんだけど。場所変えない?」

「了解ッス」





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