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122 お変わりないようで




 煌びやかなシャンデリア、赤い絨毯。軽快かつ優雅なワルツの音楽。おかれている食べ物も全て宝石のようにキラキラと輝いていた。何度かきたことがあるはずなのに、そこは全く知らない景色が広がっているようで、少し怖くもあり、しかし、懐かしい感じもした。

 ただ、やっぱりこういう空気感は苦手で、背筋が曲がってしまう。




「んなおどおどしてたら、皇太子殿下に見つけて貰えねえぞ?」

「み、見つけて貰おうとはしてないから。というか、アルベドは大丈夫なの?」

「大丈夫って何がだよ」

「話し掛けてくれる人いない……とか」




 紅蓮の髪は何処にいても目立つ。しかし、彼に声をかけてくる人はおらず、私達は孤立していた。かといって、目が合って無視されるとかそう言うのではなく、単純に視界に入っていないような感じだった。もしかしたら、魔法でもかけてあるのかと思ったが、そんなこと皇宮でして良いのかという話にもなる。

 アルベドは、「単純に気配を消してるだけだ」と斜め上をいく答えを出して前を向いた。そんなことができるのは暗殺者であるアルベドぐらいだろう。じゃあ、私は何で話し掛けてこないのか。




(ああ、そうだ。まずそんな知名度がないんだ……)




 アルベドとくっついて歩いているというのもあるけれど、私の知名度は低い。何せ、これが初めての社交界になるのだから。背筋をできるだけ伸して、堂々としてなければフィーバス卿の株を下げかねない……というのは分かっているのだが、それでも尻すぼみしてしまう。

 あれだけ啖呵を切っておいて恥ずかしいところではあるが、仕方がない。性格というのは後天性だが、すぐに治るものじゃないから。

 そんなふうに、眩しいシャンデリアの光を浴び続け、私の気持ちはかなりナイーブになっていた。アルベドは、ちょっと行ってくるといって私をおいて何処かに行ってしまった。




「お困りのようですね。ステラ様」

「の、ノチェ!」

「はい。ノチェです。ノチェブランカです」




 ヌッと後ろから生えた彼女は、そう自分の名前をいうと、私の前までやってきて頭を下げる。本当に一つ一つの動きに無駄のないノチェを見ていると、いいところの育ちなだろうなあ……ともの凄くしょうもない感想を抱くメイド服じゃないノチェもやっぱりよくて、闇魔法の人が出席していないのにもかかわらず堂々としていられるその強さに心を奪われた。凄い。




「ノチェ、さっきも言ったけど久しぶり。あの、聞きたいことがあるんだけど……って、久しぶりに会って何言っているんだって!思ったら無視してくれても」

「いいえ。ステラ様を無視することなんて出来ません。それに、私も、個人としてステラ様に興味があるので」




と、ノチェは言うとうっすらと笑った気がした。ああ、ノチェも、顔に感情が出ないタイプか、と思いながらも、嫌われていないようで安心した。結構な時間離れていたと思っていたけれど、ノチェにとってはその程度の時間だったのだろう。覚えていてくれたことや、私を未だ主として思ってくれていることに感動すら感じた。


 私に興味なんて持っても面白くないのに……そう思いながらも、これまで出会ってきた人はそう言ってくれたから、それは一つの自信として思っていてもいいのではないかと思った。ノチェも、アウローラもなんだかんだ上手くいっている。前の世界では出会わなかった二人だからこそ、どんなふうに仲良くなれば良いか分からなかったけれど、その心配はしなくても言いようだった。

 ただ気になることと言えば、アルバとか、リュシオルとか、ヒカリとか……前の世界で出会った人達にはまだ会えていないと言うことだろうか。会いたいけれど、あまり表だって動くのは危険すぎる。もう少し、様子を見なければ。




「それで、ステラ様、聞きたいこととは何でしょうか」

「あ、えっとね。アルベドのことなんだけど」

「はい」

「一週間で帰ってくって言ったのに、帰ってこなかったときがあって。その時何していたのかなあって。いや、あ、ね、あああ!」




 自分でいっていて、恥ずかしくなったため、思わず大きな声を出してしまった。ちらりとこちらを見たけれど、皆それほど私に関心がないようですぐに顔を逸らしてしまう。こういう所を直していかなければな、と思いながら、私はノチェの方を見る。ノチェは何も変わりないようで私をじっと見ていた。そんなふうに見られたら恥ずかしいんだけどなあ……と思いながらも、私はこっそりとノチェに耳打ちする。ノチェはうんうん、と聞いてくれた。

 アルベドと、婚約者になってからそこまで時間は経っていないはずなのだが、その、なるまでに、アルベドが一時期私の元を離れていたときがあった。心の準備が必要にしては、一週間以上現われなかったことに、疑問が浮かぶし、他に理由があったのではないかと、それをノチェに聞こうと思っていたのだ。ノチェは、ふむ、と頷いた後、思い出したように口を開いた。




「先に申し上げておくべきでした……ステラ様、アルベド様の婚約者になったのですね。おめでとうございます」

「お、おめでとうなのかな……そんな、当選みたいに」

「これで、レイ公爵家は安泰です」

「あ、あはは……」




 顔には出ていなかったものの、嬉しいという感情が伝わってきたせいもあって、何だか申し訳なかった。アルベドはどう思っているか分からないけれど、少なくも自分の使用人も騙していることになるのだ。前の世界に戻ったら私達の関係はなくなるわけだし。

 そんなことを思っていると知られないために私は表情を取り繕って、もう一度笑った。ノチェは何も言ってこなかったので、一応これでいいのだろう。




「あの期間の話ですね……そうですね、特に変わった様子もなく、いつも通りだと思いましたけど。ただ、ラヴァイン様のことで少し」

「ラヴィの?」




 アルベドが一週間以上帰ってこなかった理由が、弟を構っていた……弟のことで、という理由に驚きつつも、そういう場合はあるわけだよな、と自分で自分を納得させつつ、私はノチェを見た。彼女は、特に、ともう一度変わったことがないと念を押した上で、話を続けた。




「勿論……話は聞いているかも知れませんが、アルベド様も、それなりの覚悟を持って、婚約を申し込んだはずです。いつも以上に、魔力の鍛錬に撃ち込んでいましたから。フィーバス卿と決闘になるというのは分かっていたからでしょうね。そのために」

「お、お父様強いから」

「ステラ様も、フィーバス卿の養子になられて……なんだか、遠い存在になってしまったと感じています」

「そんなことないよ。ノチェが私のメイドだったらって、何回も考えたし。でも、ノチェは、レイ公爵家に仕えるメイドだから」

「そうですね……別に、異動の話をしてもよかったのですが、何せ、光魔法と闇魔法ですから。その壁は厚いでしょう」




と、ノチェは目を伏せた。


 ノチェは、闇魔法の魔道士だから、そもそも光魔法の家門である、フィーバス卿の所にくることはできなかっただろう。アウローラも闇魔法を嫌っているし、そもそも、入れなかったのではと。未だに、その障害は大きく付きまとっていて、光魔法の領地に踏み入れるだけでも、闇魔法はその効力を失うわけだし。抱えている困難は、そう簡単に解決できないわけで。




「そうだよね。何か無理言っちゃったかも」

「いいえ。事実ですから。それと、なんですけど、ステラ様。あのメイド――」

「ステラ様!」




 キンと、耳を裂くような声が聞え、私は、あ、と声のする方向を見た。ノチェに関しては、滅茶苦茶嫌そうなかおをしていたし、また、水と油が……と、胃がキリキリし始めた。人の波を掻き分けてきたのは、勿論、アウローラで、私の隣のノチェを見るなり、うえっと顔をあからさまに歪めた。




「ステラ様、なんで、その怪力女と一緒にいるんですか」

「か、怪力……」

「それも、闇魔法のメイド」

「アウローラだから、そう言うのは」




 私がそう言って、彼女を制止しようとすると、私の前にノチェがたちはだかり、バッと手を横に広げた。




「それ以上近付かないで下さい、爆竹女」




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