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115 貴方となら踊れる




「なあっ!」

「なあっ、て何だよ。なんでそんな驚いてんだ?普通だろ」

「ふ、普通」

「女性をダンスに誘う貴族男性の典型例」

「典型例」

「で?」

「で?とは」




 私がそう返すと、アルベドはイラついたように、チッと舌打ちを鳴らした。怖い、と私が反射的に身体を震わせれば、アルベドは悪かったと、小さく頭を下げた。まあ、それはいいとして、ダンスに誘われるってこんな気持ちなんだな、と感じながら私はアルベドの方を見る。これは本番じゃないからか、彼の目は揺らいだりしていなかった。前は、少し恥ずかしそうにしていたときがあったから。彼も、貴族らしいことをするのに何処か抵抗があるのかも知れない。慣れていない、っていっていた彼の言葉の意味が理解できた気がした。




(お互い様か……)




 似たもの同士、なのかも知れない。

 そんなことを思いながら、私は、私の手を取ったアルベドの方を見た。私よりも一回り以上大きな手。黒手袋に下に、もうあの傷はないとはいえ、思い出してしまう。彼はこの手で私を何度も救ってくれたと同時に、多くの人を手にかけたことも。それも知っているし、事実で。

 それでも私は彼の手をそっと握り返した。




「喜んで」

「……、エスコートしますよ。ステラ嬢」

「婚約者だから、その、堅くなくていいんじゃない?分かんないけど」

「そーだな。かたっ苦しいよな」




と、アルベドは言うと少し強引に私の手を引いた。それでこそアルベドだな、と思うと同時に、自分でいっておきながらも、今の関係は婚約者であることを思いだした。そういうふうに、みせなければならない。そういうアピールでもあり、光魔法と闇魔法は手を取り合えるという、貴族社会に対するアンチテーゼ。


 アルベドの理想への第一歩。それもあるから、私は諦めることをしなかった。彼の理想は、今の私の理想でもあるから。

 なくならないだろう差別を少しでもなくそうと。できる限りのことをするということ。




「アルベドは、光魔法と闇魔法の差別をなくそうとしているけど、貴族社会についてはどう思っているの?」

「ない方がいいだろうな。つか、多分それを一番思ってるのは俺じゃねえし」

「ああ、グランツ……」




 アルベドに言われて思い出したが、貴族社会について不快憎しみを抱いているのはグランツの方だった。彼は、王族でありながらも王族らしい仕打ちを受けていなかったし、平民……モアンさんたちに育てられたからこそ、貴族のずるがしこさや、非道さを知っている。そして、平民で唯一騎士団に入ることが出来たが、そこでも差別を受けていた。貴族の傲慢さを、驕り高ぶっているその様を近くで見てきたからこそ、その制度を潰そうとしている。彼もまた珍しいタイプだった。アルベドと理想は近いところにあるのだろう。でも、彼は貴族社会よりも、闇魔法の者に対して、それ以上の憎しみと殺意を向けていたわけで。そこはわかり合おうにも、わかり合えなかった。彼はそれを許せないと宣言していた。

 近いところにいるはずなのに、近くないっていう――




「ステラ、俺に合わせろ」

「あ、合わせるってど、どうやって」

「……俺がリードするから、ついてこい。添える感じだ」




 アルベドのステップに合わせてみるが、ステップに合わせるということ自体が困難で、右、左、といわれても、身体がその通りに動かなかった。

 ぎこちなくて見ていられない。自分を客観視しても、そんな感想しか出てこないし、実際にぎこちない私に合わせるせいで、アルベドのステップもおかしくなっていた気がした。アルベドももしかしたら下手なのかも知れない疑惑が浮上する。まあ、そんなことは絶対なくて、私が足を引っ張っているんだけど。




「ほんとへったくそだな」

「じ、自覚してるから言わないの!傷つくから」

「あわせろっていってんのに、俺が合わせてるじゃねえか」

「なら、下手くそ同士でいいんじゃない?」

「俺は下手くそじゃないからな?」




 でも、アルベドのおかげで会話ができる程度には余裕が持てるようになってきた。先ほどまでは、会話なんてしながらダンスなんて踊ることもできなかった。自分の足がどっちに動くのか、そればかりに気を取られて、それどころじゃなかったというのもある。だから、アルベドと踊っていると不格好かもだけど、踊れているかも知れないっていう感覚になって、心に余裕が持てるというか。

 プッと吹き出して、笑いながらダンスを踊る。ステップとかも最悪で、アルベドの足を何度も踏んでしまうけれど、そのたび、嫌なかおをされては、しょうがないなあ、と流してくれて、二人だけの世界ができあがっていくような気がした。誰も、私達のダンスを下手だとか侮辱したりしない。




「つ、疲れたあ……」

「バテるの早えな。そんなんでやってけると思ってんのか?」

「な、何、ヤクザみたいな……」

「ヤクザ?」

「な、何でもない……」




 少し踊っただけでも息が上がる。そんな激しいダンスなわけじゃないのに、夢中でやっていたからか、かなり疲れてしまった。椅子に座って息を切らしていれば、アルベドが後ろにうーんと伸びながら私を見てくる。アルベドはさすがというか、こんなものでは息を切らさないようだった。まあ、男性と女性では体力が違うし、と自分に言い聞かせて、この調子ならどうにかなりそうかな、と安堵の息を漏らす。

 まだまだ不格好だけど、注目されなければそれになりに踊れるのではないかと思った。まあ、注目されたら、それはそれで嫌だし、緊張しちゃうからあれだけど。




「アルベドは、さすが……体力あるね」

「普通だろ」

「羨ましい。なんか、体力が上がる魔法とかない訳?」

「何でもかんでも魔法に頼ろうとするなーつか、そんなものあったら、魔法で上手く踊れるようになるヤツの方がいいだろ」

「た、確かに」




 酸欠で頭が回っていないんだろうなと思った。アルベドの言うとおり、それなら体力向上じゃなくて、踊るのが上手くなる魔法の方が何倍もいいと思った。それはそうと、イメージでどれだけでも凄い魔法を出せるって言うのに、変なところで不便だなと思う。




「魔法って、便利だけど、不便なところもあるよね」

「いきなりどうした」

「何か、日常生活をよりよくするだけのものって感じじゃなくて。いや、腰が痛かったら、腰の痛みを取り除くとかさ。老後を楽にーとか」

「人間の理に反したものはあまり使えないとかだろ。魔法の便利性って、日常生活をよりよくするためだけのものじゃねえし。それに、人に魔法をかけることは、負担になるしな。相手側の」

「そ、そうなんだ。でも治癒魔法とかは?」

「あれもそうだろ。相手が弱っているところに、高圧力の魔力を流したら相手が焼け焦げちまうし、結局は、魔力の多さと、身体の丈夫さが魔法を使う上では必要になってくるんだよ」

「そ、それもそっか……」




 また、何も知らないのがバレる、とこれ以上私は口を挟まないことにした。アルベドの言うとおり、便利面だけじゃないのは確かに出し、身体に負担がかかるのは全くその通り。じゃあ、洗脳系の魔法はどうなのだろうか。あれは、からだじゃなくて、脳の方に直接魔法を流しているから……




「待って」

「どうした?」

「じゃ、じゃあ、洗脳系の魔法はどうなの。あれは、身体に流しているわけじゃないけど、でも、あれって脳に……心にかけるってことなのよね」

「……」

「アルベド!」

「ああ、悪い。そうだな。ステラの言うとおり、脳に……そもそも、心っつうものが心臓付近にあるものじゃねえし、脳と心が同じものだって考えたら、相当だな。治癒魔法よりも厄介なもんだし、そう……お前が心配していることはその通りだな」

「……っ」

「後遺症が残るとか、まあそもそも洗脳魔法はすぐ解けるようなものだ。けど、あの偽物が使っているのは普通の洗脳魔法じゃねえだろうし」

「後遺症……」

「実際、見たことねえからな。でも、魔力が釣り合わなければ……もっと言えば、そいつの心が強くなきゃポキッと折れるぞ。廃人になるとかな」

「……嘘」





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