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111 先入観は抜けない




「アルベド、大丈夫――そ」

「いててて、こいつ、暴力メイドだろ。変えろ!」

「ひぃぃい!もう暴れないでください。治療できません。このままだと、しんじゃいますよ!私は別にいいですけどね!」

「ああ!?誰にむかって口利いてんだ!?」

「……あはは、元気そうで何より」




 アルベドの魔力を辿っていけば、とある部屋についた。そこは、確かに医務室のような場所であり、ベッドに腰掛けたアルベドがアウローラの治療を受けていたのだが、アルベドは暴れていて、アウローラもぐるぐると包帯が絡まっている状況だった。治療されるのが嫌な公子と、治療が下手なメイドがそこにいるというカオス空間に、そっと扉を閉めようかと思った。

 後単純にアルベドの口の悪さが露見していて、いつも思うが、全く貴族に見えないのだ。

 そんなアルベドは私に気がつくと、大丈夫だ、みたいな顔してみてきたため、私は安堵のため息が漏れた。




「その様子なら大丈夫そうだね」

「あれぐらいで死ぬかよ。まあ、ちょっとばかし、体調は悪いが、動けねほどでもねえし。あと、このメイドの態度が悪くて、治療して貰う気にもなれねえ。お前がやるか?」

「え、いや、私も同じだと思う……下手だと思うから遠慮しておく」




 進められて、私は断ってしまった。

 アウローラの専門はどっちかっていったら戦闘のような気もするし、こういうのは苦手なんだろう。それにしても、態度が悪いとはどういうことだろうか。




(いや、アウローラのことだし、いつも通り……)




「やっぱり怖いんですよ!男性と関わるのも苦手ですし、何より闇魔法の魔道士が!」

「……」

「あ、アウローラ」




 完全に禁句だと思った。口を滑らせるにもほどがある。思わず殴ってしまいそうな拳をどうにかしまい込んで、私はアウローラの方を見た。その拍子に腕の中からルーチャットが逃げ出し、アルベドの方へ歩いて行く。

 アルベドの前で、差別発言をするなんて何を考えているのだろうか。それも、一応爵位の高い貴族にむかって、一メイドが。




「あ、アルベド、気を悪くしないで」

「減ったクソなフォローだな。別に気にしてねえよ。よくあることだろ。それに、怖いのは自覚してるからな」

「で、でも……ちょっと、アウローラ!」




 どっちの味方というわけでもないけれど、アルベドの理想を知っている身からして、これはダメだと、私はアウローラにいおうと思った。アウローラはすっかり萎縮してしまってへにゃへにゃへにゃとなっているため、言う気も失せる。




「すすっすすっすみませんって!」

「……アルベドに謝って」

「だから、俺はいいっつったろ」




 アルベドは面倒くさいと言わんばかりに顔をしかめていた。それでも、私のメイドとして、彼に無礼を働いたのだから謝ってもらわなきゃと思った。そうじゃないと、またやらかす可能性があったから。ルチェだったら、こんなことにはなっていなかったのかも知れない。まあそもそも彼女が、闇魔法の魔道士であるからそう思うのかも知れないが、アウローラはリュシオルや、ルチェとはまたタイプが違うから。 

 アウローラは、ひぇ、なんて声を漏らして、震えていた。その震えは、私が怒ったからか、アルベドが怒ったからなのか分からない。わたしだったら、二人に責められた時点で魂が抜けてしまうほど怖いけど……だからといって同情するかと言われたら違う。




「アウローラ、なんでアルベドにあんなこと言ったのよ」

「あんなって!い、いいいいちおう、アルベド・レイ公爵子息様は、闇魔法の魔道士ですし」

「だから、闇魔法とか関係無くて、爵位はお父様と同列ぐらいなんだから。あまり邪険にあつかったらダメだと思うけど……それに、魔法の属性で、人を差別するのは悪いと思うから」

「す、ステラ様は慣れているからいいかもしれませんけど、闇魔法の魔道士は野蛮なんです。私も、貴族だった頃は闇魔法の魔道士に攫われそうなことがあって。本当に野蛮なんです。危険なんです!ステラ様は、そんな経験ないから分からないでしょうけど!」




と、アウローラは叫んだ。


 ない、といわれたらない……わけではないし、アルベドと再会して間もない頃……というか、合流する前に、一度闇魔法の魔道士と対峙したことがあった。たしかに、貴族の権力を濫用するし、やり方が汚いし、平民のことを考えない。女子供関係なしに手を挙げるような人だったけれど。それでも、アルベドがそれに当て……はまるとは限らない。 

 私はちらりとアルベドの方を見た。アルベドは、ばつが悪そうに頭を掻いている。




「アウローラのいっていることは分からないわけじゃないけれど、闇魔法の魔道士が皆そうとは限らないじゃん。だから、そんな風に扱わないで欲しいというか。少なくともアルベドは、違うから」

「……それでも怖いんですよ!ステラ様みたいに、反発が起きないわけじゃないでしょうし。あれなんて、奇跡ですし、紛れですから」

「……」

「ステラ、その辺でいい」

「アルベド」




 肩を叩かれ、私は振返る。そこには、諭すような顔で首を横に振るアルベドがいた。いわれて苦しいのは本人なのに、本人以上に熱くなっている自分がいた。きっとそれは、アルベドじゃなくても、私に関わる人の悪口を言われたら、私はこうなってしまうんだろうと思った。リースとか……グランツも、ブライトも。皆そんな風に言われたらいやだ。

 何で伝わらないのだろうか。




「まあ、野蛮なヤツが多いのも事実だ。そこのメイドは、俺の事が信用ならねえわけだ。仕方ねえよ。そういうやつもいる」

「あああ、アルベド・レイ公爵子息様!」




 アウローラは怒られると思ったのか、声を上げたが、アルベドはニヤリと笑うだけでそれ以上は何も言わなかった。あ、ちょっと意地悪なこと考えているときの顔だ、と私は思いつつ、アルベドがこの後どう出るか考えた。しかし、アルベドはそれ以上何もいわなかった。相手をするのも面倒くさいと思ったのだろう。

 彼もつかれているし、この辺でいいかと、私は思いながら、アルベドの方を見た。




「もう、身体の方は大丈夫なの?」

「さっきも言ったが、身体は重い。上手くいったと思ったんだがなあ」

「私も……お父様が言うには、魔力が釣り合っていなかったらしくて」

「お前のその身体、エトワールの時と一緒……それ以上の魔力を持っているように感じたからな。それが原因だろ」

「え、分かるの?」

「そりゃあ、魔力が流れ込んでこれば誰だって分かるだろ」




と、アルベドは説明した。まあ、アルベドとの付き合いは長いし、そういう感覚が彼の身体に残っているのも納得がいくというか。


 けれど、聖女と似ている、といったのはアルベドが初めてかもしれない。この身体については言えない事だらけだし、私も知り得ないことが多いわけだけど。

 そんなことを思っていると、トントンと部屋がノックされた。誰だろうと思っていれば、アウローラがいち早く動き、その扉を開けた。となると、その主は自ずと誰か想像がつく。




「アルベド・レイ。体調は回復したか」

「ちぇっ……テメェに心配されるほど落ちぶれてねえよ」

「ちょっと、アルベド……」




 何でそんな態度しか取れないのか。いや、フィーバス卿限定でその態度なのかも知れない。注意しても治りそうになさそうなので、私は宥めるだけにして、フィーバス卿の方を見た。先ほど後から追いかけるといって結構時間がかかったみたいだけど、庭を直すのに時間がかかったんだろうか。

 そう、フィーバス卿を見ていれば、がちっと目があい、私は思わず逸らしてしまった。何か、不味いことでもしたかな? とドキドキしていれば、今度はアルベドの方に視線を戻した。そして、その重い口を開け、少し呆れたようにフィーバス卿は続ける。




「その様子なら大丈夫そうだな。だが、その減らず口は治せ。今後付合っていく中で、またそんな口の利き方をしたら、今度は本気で凍らせるからな」

「それって……っ」




 フィーバス卿のいい方を受けて、私は察しがついた。心なしか穏やかな空気感も、それを表しているのかも知れない。アルベドは、少し驚いていたが、勝利を確信した笑みでフィーバス卿を見ていた。




「アルベド・レイ。貴様を認めよう……我が娘、ステラの婚約者として」





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