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106 大丈夫なんかじゃないよ





「アルベド……」

「まーバレちまったもんはしゃーねーよ。あーほんと、墓場まで持ってくつもりだったんだがなあ」

「なんでアンタそんなに軽いのよ」




 アルベドは、ニヤニヤと軽そうに笑って私を見ている。私はそんな気分になれないし、

そんなかおをしていれば私が元気になると思っているのだろうか。だったらそれは誤算だ。全然むり。気分が最悪だった。

 アルベドはいつもそんな風にどうでもイイ、大丈夫みたいにいうから。




「大丈夫みたいな顔しないで」

「……」

「大丈夫じゃないの。大丈夫じゃないんだよ。これは……」




 私は顔を上げられなかった。また下を向いて、アルベドのことを悲観する。泣きたいのはあっちだろうし、あっちにしか、その辛さも苦しさも分からない。でも考えれば考えるほど辛くて苦しくて、どうしようもない。きっとアルベドはこれが初めてじゃないからだろう。ずっと昔から辛いこと、苦しいことを経験してきたからこそ、その感覚が麻痺している。だから彼は大丈夫だって言うんだ。


 私は血が滲むほど唇を噛んだ。

 私は私が寂しい存在だと思っていた。親に愛されず、虐めを受けて……人間不信で。オタクで、これといった特技もなくて。それでも別にそんな私なんて死んじゃえとか思っていない。でも、自分の人生の何処かは諦めていたんだと思う。諦めていたからこその絶望というか。まあ、そうなるよね、とか、もうどうでもいいじゃん、とかそういう気持ちがあった。心の何処かで、悲劇のヒロインを演じていたのかも知れない。でも実際は、私なんて悲劇もひの字もないのかもと。そりゃ、苦しいとか辛いとかは人それぞれだと思うけれど、それでも、私が出会ってきた中で、一番この人は強くて悲しい人だと思った。

 顔を上げればそこに真っ赤な星がある。でも、それを直視出来なくて、私は目を閉じる。無理、やめて欲しい。




「大丈夫なんていわないで」

「ステラ」

「大丈夫じゃないの。アンタ分かってるの?それって大丈夫っていわないの。笑わないで。アンタはアンタのこと大事にしなきゃダメ。アンタは……アンタは……」

「自分を大事にしなきゃ……か」

「アンタがどんな風に生きてきたか、知ったフリしていたかも。でも、アンタのこと分かんないって前もいった。だけどアンタは私が思った以上に酷い人だと思う」





 酷いってそういう意味じゃないけれど、と付け足す勇気もなくて、気力もなくて。

 ぶつけるこの言葉すらも彼にとっては棘かも知れないけれど、どうでもいいのかも知れなくて。分からなくなる。このぶつけている気持ちは、私に執着しないでっていっているものなのか、それとももっと別の。




「ステラ……」

「大丈夫なフリしないで。アンタは全然大丈夫じゃないの」

「……」

「傷ついているなら、傷ついているっていいなさいよ。馬鹿」




 堪えていた涙が決壊した。あふれ出してボロボロとそこに落ちていく。その涙が星の結晶みたいになって光って落ちていく。綺麗だなとか思う暇もないくらいに消えて。

 泣かないつもりで、私が傷つかないつもりだった。けれど、どうしようもないくらいに彼に感情移入している。それが、好きとか嫌いとか、愛しているとか愛していないとかそう言う次元じゃないくらいに、私にとってアルベドはもっと大きな存在だと思った。恋愛対象ではない、もうその域は越えてしまった。




「俺が傷ついてる?」

「そう、そうだよ。アルベド……アンタは気づいてないかもだけど、傷ついてるの。それが分からないくらいになっちゃってる」

「……そうか」

「アンタが私の為にって、私を忘れたくないからやった事だって分かった。見た、感じた、痛かった。だから、もう二度としないで」

「……じゃなきゃ、お前を忘れたかも知れねえだろうが」

「……分かってる、よ、そんなこと。でも、私は許せない」

「だから、勝手にやったっていってるだろ」

「失敗したらどうするつもりだったの」

「そんときは、そんときだろ。お前だって、なんでこの世界に戻ってこれた?戻ってこれないこともあったかも知れねえじゃねえか」

「かも、だけど……でも、アンタは」




 私とは違うでしょ?


 そう言いかけたけど、やめた。話がややこしくなる。

 アルベドは、ことの重大さに気づいていない。傷ついたことも気づいていないような人。その人に何を言っても無駄なのかも知れない。でも、彼が傷ついたとき、こうやって感情的になってくれる人がいなかったのかも知れない、とか……色々考えてしまう。知ることから始める。

 もうこれ以上、私の周りの人が自分を傷付けないですむように。そんな世界になる事を私はずっと祈っている。




「アルベド」

「何だよ。まだ何か言いてえのかよ」




 不機嫌そうな声が頭の飢えに追ってくる。何だか拗ねた子供みたいだった。私も、親に誉められたくてやった事が、全然誉められなくて嫌がられたり、無視されたりしたことがあった。あれと同じなのかも知れないと、何だかそんな気がしてきた。

 一緒じゃないけれど、一緒の所もあって。

 ぶつけるだけじゃダメだし、訂正できないなら、導く。導くなんて大層な言葉使えるような存在じゃないかも知れないけれど、彼をこのままにはしておけなかった。




「アルベド、ううん、違う。もう何か言うのやめる。アンタが私の為にしてくれたことが、無意味だったって……アンタはそう、攻められているみたいだって思ったんでしょ」

「ちげえよ」

「そう。まあ、いいや……うん、大丈夫」

「は?」

「助けてくれてありがとう。アルベド。アンタの覚悟、私はしっかり受け取ったから」

「お、おう……」




 アルベドは少し戸惑ったように私の顔を見た。不安なかおをさせているのに申し訳なくて、私は彼の顔を引っ張った。彼が私に不細工だって言ったけれど、今は彼のほうが不細工だろう。確かに笑えてくる。あの笑いは、ただ本当に不細工だったからに違いない。でも、それも考えると失礼な話なのである。




「大丈夫、アルベド。アンタも大丈夫だから」

「だから、さっきから何言ってんだよ。壊れたのか?」

「壊れてない。修復したって言う方が正しいかも」

「余計にわかんねえよ。まあ、いつものステラに戻ったんなら、もう心配はいらねえかもな」




と、アルベドは損した、といわんばかりに頭の後ろで手を組んでいた。


 そんな彼を見つめながら、私はここから脱出する方法を考える。肉塊の中のように、無限に空間が広がっているのかも知れない。でも、ここには核がないだろう。だって、ここはエトワール・ヴィアラッテアの怨念が創り出した空間なのだろうから。

 怨念は、私達を飲み込むまでまとわりつくかも知れない。そうすると、私達はどこへ逃げればいいのかわらかなくなる。ううん、逃げ場なんてない。

 あとは、強い気持ちを持つだけだろうと思った。




「アルベド、力を貸して欲しいの」

「改まって何だよ。ここから出るにはそれしか方法がねえんじゃねえか。といっても、緊急事態だからな。なにをすりゃあいいか、さっぱりだ」




 珍しく彼がお手上げだというので、私は方法が一つだけあるじゃないかと、彼の方を見る。彼は私の意図がくみ取れないようで首を傾げた。




「強い意思があればここから出られるのよ」

「強い意思って何だよ、アバウトすぎんだろ」




 アルベドはさらに混乱したように、私をじっと見つめてきた。

 確かに、主語も述語もない。意思疎通の取れない言葉を言われたら誰だってそういう風に思うだろう。私も同じ立場だったらそんな反応をしていたと思う。だからこそ、ここで彼にその方法を教えるのだ。




「でも、そうなの。私の考えた方法聞いてくれる?」




 私はアルベドの方を見てにこりと笑った。




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