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101 情けは必要ない




 間違えるはずがなかった。

 未だに私達の足下に漂う冷気は、去ることもなく、そして先ほどまで感じていたアルベドの魔力はだんだんとか細いものになっていく。




「まって、アウローラ。お父様は、ユニーク魔法なんて使わないよね。このままじゃ、アルベドが死んじゃうじゃない!」

「え、え、といわれましても。ええ、使わないと思いますが……」




 私が肩を揺すれば、アウローラはぐわんぐわんと頭を揺らすばかりで全く受け答えになっていない答えを返す。フィーバス卿のそれは、ユニーク魔法を使う動作であると、瞬時に見抜き、私は、フィーバス卿にむかって叫ぼうかと思った。

 けれど、フィーバス卿のユニーク魔法は、自分にも反動がくる。ここが、領地内だからといって安心できるものでもなければ、そこまでフィーバス卿がアルベドに対して魔法をぶつける理由も分からなかった。ただ、もし仮にユニーク魔法を使えば、アルベドは逃げることが出来ない。

 そして、発動条件である、恐怖や負の感情を抱く、という点では、アルベドは当てはまってしまっているのだろう。でなければ、フィーバス卿の魔法がアルベドに通用するわけがないのだから。




(うそうそ、嘘!このままじゃ、不味いって)




 覚悟、というものは、フィーバス卿にも含まれていたのかとか色々考えてしまう。何にしても、このままではアルベドが危険なのだ。魔法が完封されている今、アルベドに出来ることは果たしてあるのか。そう考えながら、私はただ二人の行く末を見守るしかない。




「た、確かに、ユニーク魔法を使うって妙ですよね。フランツ様にも反動がくるものなので……何か試してるんじゃないですかね」

「試すって何を」

「それがわかれば、私も苦労しないです!」

「……」

「ひー!ステラ様が焦っているのは分かるんですけど、ね、ね……あの、ね!」




と、アウローラは焦ったように私に弁解した。別にその言葉を待っていたわけではないので、私は一旦落ち着くようにだけいって考えてみる。フィーバス卿がユニーク魔法を使う理由が何かあるはずだと。けれど、さっぱり分からなくて、頭の中が混乱するだけだった。その内にも、アルベドを取り巻いていた魔力が徐々に減っていっているのを感じ、私は自分の下唇を盛大に噛む。




「今すぐ止めなきゃ……お父様にいう」

「まって下さいよ。ステラ様。気持ちは分かりますけど、フランツ様には考えがあると思います。それに、この防御魔法……どうやって壊す気なんですか」

「どうにかぶつければ壊れるでしょ」

「やめましょうよ、ステラ様!」




 確かに、アウローラのいうとおり、フィーバス卿の魔法結界を壊せる自信はない。けれど、アルベドの動きが鈍く、魔力の波動が感じられなくなっていくこの状況が怖くて仕方がなかった。ダメだと分かっていても、かせんしたくなる……早く止めなきゃって思いばかりが募っていくのだ。でも、これは、アルベドとフィーバス卿の真剣勝負で。私の為に戦ってくれているアルベドを助けたら、それは彼の気持ちを裏切ってしまうことになるんじゃ無いかって思って。

 焦れったい。何も出来ない。もう決着がついたのと同じだろうなんて言われたくない。ここからの起死回生があると思っている。アルベドなら……そう、アルベドなら!




「何故動かない。アルベド・レイ」

「はあ?動かないんじゃねえよ、動けねえんだよ。テメェ、自分の魔法のこと理解してねえのかよ」

「それだけ喋ることが出来るなら問題ないな」

「……ぐっ」




 フィーバス卿はフッと見下すように笑い、その手を握り込む動作をすれば、アルベドはさらにうずくまって、心臓を抑える。

 アルベドのいうように、動かないんじゃなくて、動けないのだろう。それほど、フィーバス卿の魔法が強力であるということ。多分、動いたら、心臓に負荷がかかるんじゃないかと。だから、動きたくても動けないというのが正しいのだと。




「フィーバス卿も、安易にそのユニーク魔法使っていいのかよ。それも、こんな寸止め……テメェにも、負荷がかかってんだろう?」

「……」

「殺す気がないのなら、やめちまえよ。脅しにもなってねえよ」




 ハッ、と吐き捨ててアルベドは笑う。しかし、それが癪に障ったのか、フィーバス卿は握る手に力を入れる。アルベドの心臓はもはや、フィーバス卿が握っているも同然で、アルベドは、ハッ、ハッ、と息を切らしている。何故挑発をしたのか。挑発した理由があるのではないかと感くぐってしまう。しかし、辛いことには変わりないはずなのに、アルベドはどうして。




「俺がいつ殺さないと言った」

「俺を殺しちまったら、ステラが悲しむからな」

「それが理由であれば、全くの見当違いだ。いい父親を演じるためだけに、手を抜くと思うか?貴様は、戦場に出たことがないから言えるのだろうが、戦いにおいて、情けは不要だろう」

「……知らねえよ、テメェの武勇伝何かよお」




 アルベドは、片足をつきつつも、どうにか這い上がろうと、足に力を込めているようだった。しかし、彼の身体は冷え切っているようで、なかなか思うように動かせていないように見えた。フィーバス卿が、隙を与えるとは思いにくく、アルベドは追い詰められている。

 そんな中で、かれはあえて挑発に出て……




(フィーバス卿は……帝国のために戦争に出向いていたんだろうな……それも、この呪いを一人で請け負う前に……)




 彼がいつからこの地に束縛されているか分からない。でも、妻を亡くしてからは、先代の辺境伯を亡くしてからは、フィーバス卿はこの領土から出られなくなって。

 戦場にいた頃も今も、フィーバス卿の地獄は続いているんだろう。そして、戦争で彼が受けた傷は深いように見えた。精神的な傷が。

 アルベドとはまた違う、人を殺して生計を立てていた頃のフィーバス卿。だから、それをアルベドに問うているんだろう。でも、それとこの決闘が何の関係があるのか分からない。ただの八つ当たりにも見えてしまう。




「貴様が本気でないのなら、殺すのもありだと考えているが。どうなんだ、アルベド・レイ。俺が情けをかけると思って手を抜いていたのなら、今すぐにでも考えを改めろ。でなければ、貴様は俺に勝てない」

「……ハッ、はじめから全力に決まってんだろうが。クソ老害。テメェの魂胆は分かってるんだよ……俺から、ユニーク魔法を聞き出す。それが、テメェの目的だろ?」

「……ッ」




 フィーバス卿の目が見開かれた。私もその言葉は予想外で、アルベドはその隙を突いて凍える身体を動かし、フィーバス卿に詰め寄る。少し、反応が遅れたフィーバス卿はすぐに後ろへ下がろうとするも、アルベドは素早く、その手を掴む。




「捕まえたぜ」

「……姑息な真似をする……」

「へ、不意打ちでも仕掛けなきゃアンタには勝てねえよ。ただ殴るだけじゃテメェを倒せないってのは分かってる。……でもなあ!殴り勝てるもんもあるッ!」




と、叫ぶと同時にアルベドは見えないほどの速さで下からフィーバス卿に拳を突き出す。視認して避けるのは困難なそれを、フィーバス卿防御魔法で防いだようだった。




「残念だったな。アルベド・レイ。そんな単純な攻撃、俺には通用しない」

「ハッ、無鉄砲だって分かっての攻撃だよ。オラッ!」

「……ッ!?」




 アルベドが叫んだ瞬間、バチバチっと白と黒の何かがスパークする。それが何であるか理解するまでに時間はかからなかった。

 光魔法と闇魔法のぶつかる反発。

 自分にもダメージが入ると理解した上で、アルベドは自分の魔力をフィーバス卿に注ぎ込んだのだ。彼が手を掴んだ理由はそれだろう。フィーバス卿は振り払おうとするが、アルベドの魔力に反発しているから振り払えない。フィーバス卿の中の魔力が、アルベドのぶつかってくる魔力を押し返そうとしてるため、上手く魔力を制御出来ないのだろう。




「ッ、貴様……っ!」

「テメェの、防御はかてえよ……だからこその作戦だよ。力技しか出来なくてなあ!」




 バチバチっと白と黒は瞬きながら二人を包んでいく。フィーバス卿を巻き込んで彼の魔力を流し込むつもりでいるようで、本当に命知らずな行為だ。しかし、それほどまでに勝機を感じたのか。ここでなら勝機があったと思いたかったのかと、私はまばゆい光を放つ二人をみる。

 しかし、フィーバス卿はこれ以上はまずいと思ったのか、アルベドを蹴っ飛ばして、捕まれた方の腕をもう一方の手で握って、どうにかアルベドの魔力から振り解いた。そして、一度距離を取る。




「……ハッ、怖くなって逃げたのかよ」

「……貴様は、そんな手しか使えないのか」




 フィーバス卿の魔法結界は強固だ。でも、今までのぶつかり合いで、二人の身体にも負荷がかかっているのだろう。アルベドの身体は所々凍っていたし、フィーバス卿の腕も火傷をしているように赤くなっている。

 そんな中で、まだ二人は立っているのだから凄まじいのだが……これが続けばどうなるか分からない。




「すごい……」




 私じゃ達せない領域にいる二人。魔法の奥深さと恐ろしさをひしひしと感じられる戦いだ。そんな戦いに魅入っていれば、廊下の影から何かが揺らめきこちらに向かってくるのが分かった。




「ステラ様、避けて下さい!」

「……えっ」




 トンッと身体を押される。その場に倒れ込み、上に乗っかったアウローラを見て、私は視線を襲ってきた何かに向ける。しかし、それは形がない影のような存在だった。




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