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90 胡散臭い笑み




「本当にこの毛玉連れてきてよかったんですかあ!?私だけでも大丈夫ですよーステラ様のこと十分守れますって!」

「アウローラを信用していないわけじゃなくて、何となく」

「何となくって何ですか。何となくって」

「一人でも多い方がいいかなあって思って」

「一人じゃなくて、一匹ですよ!もう、ステラ様は!」




 何だかんだ言いつつついてきてくれるところに優しさを感じた。一人でいかせるなんてこと、そもそもフィーバス卿が許さないと思うけれど、アウローラがついてきてくれるだけで、百人びきだった。後は、ルーチャット。

 何故か、アウローラの腕の中では暴れて、私の腕の中では大人しいルーチャットはさっきから臨戦態勢のようで少し毛並みが逆立っているようにも思えた。ルーチャット自身、光魔法の犬なのかも知れないと。光魔法の犬とは何なんだと言われたら、まずそこからなんだけど、警戒しているのは見てすぐに分かった。闇魔法の貴族の領地だからだろうか。

 私も身が引き締まる思いだった。綺麗な藤が風に揺れて、カーテンのように靡いている。けれど、何処か毒々しくて危なっかしい。アルベドの領地は一面ピンクのチューリップだったから、それと比べると、暗いというか。

 ここまで来てしまったら、引き返しようがないのだけど。




「今更なんですけど、罠なんてこと無いですよね」

「さ、さあ……それは分かんないかも」

「さあって!ほんと、ステラ様そういうところですよ!」

「ま、まあ、何とかなるでしょ。いざとなったらアウローラがいるし!」




 不安は不安なんだろうなと思う。私も、不安はある。もし、彼じゃなかった場合、私達が施してきた防御魔法も効くかどうか分からないし。毒の魔法の対策方法は、私には分からない。アウローラも同じだろう。




「ほら、アウローラの爆破魔法なら、毒の魔法にも効果あるんじゃないかなあって思って!アウローラを信じてのことなの!」

「私のこと、信じてくれるのはありがたいですけど、爆破魔法って、そんな必殺技みたいなものじゃないですよ。それに、ギフト卿……伯爵位まで持っている貴族に到底私の魔法が通じるとは思いませんしね」

「やっぱり、爵位によって魔法の強さって違うの?」

「は?」

「あ、いや。そうなんだけど、やっぱりそうなんだーって」




 あはは、何ていって誤魔化したけれど、ごまかし切れた保証がない。まあ、それは良いとして、爵位に魔法が関わってくるのかどうかは確かにそうだなと思う。




「一応爵位って言うのは、貢献度とか色々込みで上がったり、剥奪されたりするんですけど、まあ、何ていうんです?政治的権力と、財力と、魔力、武力とか本当に細かく見ればもっとあるんですけど、わかれてて、どれかが飛び抜けて秀でていればって感じですかね。ステラ様、一応貴方は、フランツ様の娘なんですから、これくらい知っておいて下さいね」

「あ、はい」

「ギフト卿は、その中でも独自の魔法……派生魔法である毒の魔法の研究をしてその功績を残しました。闇魔法も一応人として扱われるわけですから、爵位は与えられます。まあ、闇魔法の連中は、名前が挙がればあがるほど危険人物なんですけどね。ギフト卿はそう」




と、アウローラは心底いやそうに言う。嫌われているんだなと言うことははっきりした。貴族社会ってやっぱりよく分からない。簡単に爵位が与えられるものではないことぐらいは分かるんだけど、それ以上は何とも。


 アウローラの説明で分かった気になったが、全然分かっていないに等しかった。

 アウローラはぷりぷりと怒っているが、私はそれを見ないフリして顎に手を当てて考えてみる。闇魔法で名前が挙がる人は危険と言うことは、アルベドなんてもう相当何じゃないかと思った。モアンさん達の村にいたときも、子爵程度の貴族が恐れおののくほどの存在で。あんなに自由人で、貴族かというくらいの振る舞いをしているというのに。もしかしたら、貴族らしさはあまり関係ないのかも知れないけど。




「ですから、レイ卿も注意が必要なんですよ!」

「は、はあ……でも、アルベドはアルベドだし」

「闇魔法の貴族は気をつけるべき何です!これは、常識!光魔法の天敵は、闇魔法なんですから。逆もしかりですけれど」

「世界の均衡を保つために、光魔法と闇魔法は交わらないようにしてあるって言うのは聞いたことある……かな。反発が起きるんだよね。何度も体験した」

「そ、そうなんですか……まあ、そう言うことなので、あまり気を許しちゃダメですよ!反発が起きるってことは、同等の魔力ってことなので。じゃないと、負けて酷い目に遭わされますから」




 そう言ってアウローラは私に釘を刺した。ラアル・ギフト……伯爵領に軽い気持ちで入ってしまったが、改めて、反発や闇魔法の貴族のことを考えるといささか注意が足りなかったんじゃないかと。

 そんなことを考えていると、いつの間にか目の前にローブを被った男が立っていた。身長と体格からして男。いつの間に? と私とアウローラは飛び退いて、思わず魔力を集めてしまう。




「ああ、そんな警戒しないで下さい。わたしですよ、ラアル・ギフト。貴方方をここに呼びつけた張本人です」

「ラアル・ギフト」

「はい。初めまして。ステラ・フィーバス辺境伯令嬢」

「初めまして……」




 にこりと笑った男は、ローブをとりその顔を見せてきた。胡散臭い笑みは健在のようで、見ているだけでも、ゾワッとする。ネチっこいというか、蛇が身体を這うようなそんな感覚におそわれる。でも、何か違うとすぐに気づいた。

 皮を被っていても、その本人が出てくるものだ。いや、わざと出しているようなものだと思ったのだけど。




「ああ、立ち話も何ですからどうぞ、屋敷の中に入って下さい。おや、まだ警戒しているのですか?」

「警戒しますよ。ギフト卿。それが、客人をもてなす態度ですか」

「おやおや、ステラ嬢。彼女は貴方の侍女ですか」

「え、ええ、そうですけど」

「威勢がよくて……いえ、とても元気な方ですね。主君を守ろうとする気持ちが伝わってきます」




 などと、つらつらと話す男は、やはり何処にも隙がない。のらりくらりとしているのに、その実こちらのことを凝視し、視線を一時も離さないようなそんな感じ。上手く言えないけれど、見られている、というのが嫌と言うほど伝わってきた。

 確かに、屋敷の前で待っていて、何もしなかったこっちもこっちだと、それは謝り、屋敷に案内してくれるならと、ラアル・ギフトを見る。彼はニコニコと笑うばかりで、動こうとしなかった。




「あの、屋敷に入らないんですか」

「そうですね。転移魔法で移動しましょうか」

「な、何故転移魔法なのですか?」

「その方が手っ取り早いからです」




 そういったかと思うと、ラアル・ギフトは指を鳴らし、瞬間私達の身体は光に包まれた。本来なら、魔方陣があらわれてからの移動になるのにあまりにも早すぎる。そんなことを思いながら目を開けば、一瞬にして移動したそこは応接室のような所だった。




「ここでいいですね。ああ、話したいのはステラ嬢の方なので、貴方の方は眠って」

「は?」




 アウローラが何かを言う時間も無く、彼女は横に倒れてしまった。本当に転移から、アウローラに魔法をかけるまで一瞬。そして、その魔法を感じることすら出来なかった。超越した何か。




「あ、アウローラ!」

「眠っているだけなので、ご心配なさらずに……それで、呼びつけて悪いっすけど、覚えてるッスよね。エトワール・ヴィアラッテア……いや、天馬巡ちゃん」

「……ベル」




 フッと笑った彼は、先ほどのネチっこい笑みではなく、悪戯っ子のようなそれでもさらに好きのない研ぎ澄まされた笑顔を私に向けていた。





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