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89 親子になりきれない




 ブライトとは、それ以上何もなく、彼はあっさりと帰っていった。こちらも、呼び止める理由も何もなかったし、今はその時じゃないと思うようにして彼を見送った。新たな情報も得られたわけで、こちらとしてもよかったのだが。




「ステラ」

「お、お父様何のようですか?」




 ブライトを見送った後、フィーバス卿に呼び止められ、私は申し訳ない程度の笑みを浮べて、フィーバス卿と対峙していた。変なことは言わなかったはずだし、事を荒立てたわけでもないのだが……

 ああ、多分、ブライトとの関係について知りたいんだろうなというのは予想できた。フィーバス卿がそういうのには煩いって分かっていたから。




「ブリリアント卿と何を話した」

「世間話をちょっと」

「ブリリアント卿とか」

「はい、ブライトと」

「もう、呼び捨てをする仲になったのか」

「いいいいいいえ!あっちがそう呼べと……あ」

「ブリリアント卿は、ステラに気があると」

「もう、お父様この話やめましょう……」




 やっぱりこうなった。厄介オタク過ぎて何も言えない。私も、人のことが言えるような性格ではないので、黙っていることにした。追求されると分かっていたからこそ、少し身構えられたのかも知れない。でも、いちいち聞いてくるのは面倒くさいなあと思った。正直に、面倒くさいと言えば良いだろうか。それだと傷付けそうだし……色々と考えていると、それが余計に、フィーバス卿の気をソワソワさせてしまったようで、指をトントンと鳴らしながら私を見ている。




「あの、本当に何もないんです」

「何もないのか?本当に?」

「はい……ああ、でも、前にアルベドと一緒にいたときに帝都に行ったことがあって。その時、変装魔法で正体を隠してたことがあったんですけど、ブライトとあっちゃって。その事を言及されました」

「そうか」




 あれ、意外とあっさり?

 理由がそんなものだったからか、フィーバス卿はふいと、興味をなくしたようだった。こっちも別にこれ以上話すことはないし、とフィーバス卿の隣を通ろうとしたとき、ステラ、とまた名前を呼ばれた。




「皇宮で、パーティーが行われるそうじゃないか」

「は、はい……知っていたんですか」

「いきたいのか?」

「ブライトに聞いたんですか?」

「いや……お前は、この領地から出たいような素振りを時々見せるからな」




と、何処か悲しげに言われる。何処かに行ってしまうとでも思っているのだろうか。いや、実際そうだし、帝都にいきたいには行きたいけれど……




(フィーバス卿がここから出られないのを知って、私が外に出ることって何だか、申し訳ないんだよね……凄く、さ)




 それを、直接いったらまた重荷になってしまう気がして言えない。でも、外に行きたいという気持ちはある。けれど、それをおもてにだそうとは思わなかった。だから、こうやって突っ込まれる結果となってしまったのだろう。




「生憎だが、俺のところには招待状は来ていない。招待状なしに、いくことは難しいだろう」

「で、ですよねえ……全然大丈夫なので!気にしないで下さい!」

「……だが、いきたいんだろ」




 そう、フィーバス卿は聞いてくる。これは、素直になった方が喜ばれるのだろうか。そう考えてしまっている時点で、彼の気持ちをあまり考えていないと思った。家族ってそういうものなのかも知れないけれど、頼ろうと思えないのは、一歩引いているからかも知れない。

 いつか終わってしまう関係だから、このままでいいという思いも、私の中にあるのかも知れないと。それも思ってしまうわけで。




「いきたいです。でも、お父様に迷惑かけられませんし。ぱ、パートナーがいないといけないんですよね。こ、婚約者」

「ああ、そうだな。どんなシステムだという話だが」

「私にはいないので。ブライトには断られちゃったし」

「頼んだのか」

「は、はい……既婚者でも、婚約者がいるわけでも無いので。ああ、でも全然、そういう気持ちがあったわけじゃないですよ。ほら、いくためにはパートナーが必須だったので、私に頼れる人いないわけですし」

「アルベド・レイは」

「アルベド……ですか?」

「いや、何でもない。忘れてくれ」




 フィーバス卿の口から、アルベドの名前が出たのも驚きだったが、どうしてそこでアルベドだったのか。フィーバス卿の仲でも、アルベドは信頼における人間なのかも知れないと。色々考えてしまう。所で彼は何をやっているのかという話になる。本当に、必要なときに……いつもなら来てくれるのに。

 それが不安を募らせる。エトワール・ヴィアラッテアにとか考えちゃう。アルベドに限ってないだろうに。




「アルベド……帰ってこないですけど、何かあったんですかね」

「本人に直接聞けばいいじゃないか。俺よりも、仲がいいのだろう。ステラは」

「え、ええ……いや、でも」

「手紙、気になるなら書くことをオススメする。まあ、あの野生児が手紙一つでくるとは思わないがな」

「あはは……確かに」




 いや、以前手紙が来たと言うことは黙っておこう。此の世界のことじゃないし。でもまあ確かに、手紙を届けたからといってくるようなタイプじゃないとは思う。彼が忙しいのは十分承知の上だから。でも、彼が一番適任だと言うことは、私もフィーバス卿も意見は一緒のようだった。

 肝心なときにいないのだ彼は。




「本当に何やってるんでしょうね。何も知りませんか?」

「彼奴が、べらべらと話すようなタイプか?ステラに言わず、俺に言うことがあれば言うだろうが、何も聞いていない。こんなにステラを心配させるなら、出禁にしてもいいが。領境に警備隊を置いてもいいが」

「い、いえ、それは大丈夫です」




 物騒だ。そんなことされたら、アルベドが悪者になってしまうとおもった。実際、周りの光魔法の人から見たらそうなのかもだけど。




「まあ、気長に待っています。ああ、後、ラアル・ギフト……ギフト伯爵から会いたいという手紙が来ていて、会う予定を立てているのですが」

「そう、だったな。本当にどういった用件で……会いたいと言うだけならこちらにこれば良いものの」

「闇魔法の貴族が、光魔法の貴族の領地に入るのはやっぱり、こう、あれなんじゃないですかね」

「そうだったとしてもだ。お前だけをいかせるわけにはいかないからな」

「アウローラについてきて貰うので大丈夫です」

「確かに、彼奴なら適任だ」




 フィーバス卿の顔が少しだけ明るくなった。この調子なら大丈夫そうだと、私が思っていると、キャンキャンと足下に黄金の毛玉がまとわりついた。




「ルーチャット?」




 足にすり寄ってきたのは、ポメラニアンのルーチャットだった。基本的に放し飼いをしているのだが、どうやってか、私のいくところに出没する機会が増えてきた。まあ、犬は鼻が良いって言うし、分からないわけでもないのだけど。

 私は、ルーチャットを抱き上げて頭を撫でた。少しだけ尻尾が揺れていたから嬉しいんだろうなと言うのが見て取れる。犬のくせにというのもあれだけど、あまり感情を表に出さないようなタイプだなと最近感じている。何というか賢すぎる理性を持ちすぎた犬というか……




「そうだ、ルーチャットも連れて行きます」

「その毛玉をか」

「ルーチャットです」

「ルーチャット」

「はい。アウローラもルーチャットが一緒の方が心強いと思うので」

「どんな発想なんだ……ステラの好きにすればいい。だが気をつけていくんだぞ」

「はい。ありがとうございます。お父様」

「……っ」

「どうしたんですか?」

「いや、何でもない。仕事に戻る。夕食は一緒に取るから、それまで好きにしていなさい」




 フィーバス卿はそう言って身を翻しいってしまった。お父様なんて何度も言っているのに、ありがとうという言葉に胸を打たれたのだろか。それにしても……




「いや、私も、相手に感情とか心を見せるの苦手だから、きっとフィーバス卿もそうなんだろうな……」




 私は、彼の大きく冷たい背中を見送って、反対方向に足を進めた。





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