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87 力になれなさそうで




「それで、ブライトは、どうしてフィーバス辺境伯に来たの?」

「……っ、そうですね。本来の目的を忘れていました。ありがとうございます。ステラ様」




 ぺこりと頭を下げて、ブライトはどことなく涼しげな表情で私を見つめる。よどみない、アメジストの瞳を見るのは、久しぶりな気がする。少しだけ、壁が崩されたのかな? と思うけれど、油断は出来ない。けれど、一歩前進したのは確かだろう。

 私は、ブライトに、ここに来た理由を尋ねた。私も、気になってはいたが、聞けずにいたのだ。エトワール・ヴィアラッテアが関わっているとしたら、尚更、情報が欲しい。それを、ブライトに怪しまれずに聞き出すのが今回私のミッションだと思った。




「フィーバス卿に、災厄の進行を遅らせるための作戦会議に出席して欲しいと頼みに来たのですが……フィーバス卿がこの領地から出られないのは、周知の事実ですし、無理をいうわけにもと思い、ここでその会議を開かせて貰えないか頼みに来たんです」

「災厄のための……」

「はい。まあ、こちらは帝都の方に集まり、会議を開くことは出来るので……フィーバス卿の協力があればもっと……というだけの話で。それと、もう一つは、魔法研究の論文についてですね」

「魔法研究……ええっと、災厄の方が大事じゃないの?」




 魔法研究何て言うものは初めて来いた。学問として、魔法というものは成立しているのだろうが、前の世界ではそんな話を聞いたことがなかった。とすると、ブライトがいった二つは、エトワール・ヴィアラッテアが関わっていなさそうだと。私と出会ってからもブライトはフィーバス卿に頼みにいっていたと。そうに違いないと思った。私は胸をなで下ろしつつ、確かに、フィーバス卿にここからでてきてくれと言うのは無理な話だと思った。だから、ここで会議を開きたいと。でも、フィーバス卿はそれを却下したのだろう。フィーバス卿が会議に加われば、さらに災厄に対しての対策が立てられるだろうし、魔法を使える家門としても強いフィーバス卿が作戦に加われば、いい結果が出るに違いないと。そう思う気持ちはよく分からないわけではなかった。




「魔法は、まだまだ未知なことがあるものですからね。毎年論文の発表をしています。災厄が始まったとしても、その研究をやめることはありません。魔法の研究が役立つことがありますからね」

「ブライトも、その発表を?」

「そうですね。我が家は、聖女様との繋がりが強いので、聖女と魔法についての論文を発表することが多いです。今年は、聖女様が召喚されたので、実際に、インタビューをしつつ……という感じでしょうか」

「聖女……」




 ブライトの目が輝いているように見える。ブライトも、フィーバス卿と同じで魔法が大好きなんだろう。魔法の研究……確かに、未知のことが多いのはその通りだ。魔法が世界を変えることだって出来るわけだし、研究しても、きっと研究しきれないほど、可能性が広いものだと思う。




(聖女……それって、エトワール・ヴィアラッテアのことよね……)




 揚々と語るブライトを見ていると、やはり胸がチクリとする。私がいたポジションだったから、それをねじ曲げられて、今の形にされてしまったことが、何よりも、辛い。そして、それを信じ込んでいるブライトを見るのも。

 私は、この際だからと、ブライトに聞くことにした。もしかしたら、ブライトなら、おかしいことに気づいてくれるかも知れないと思って。




「その、ブライト……」

「何でしょうか。ステラ様」

「その、聖女って……その、ええっと!聖女って聖女の証というか、特徴とかあるんだっけ。ほら、髪の色とか」

「いえ……?いえ、ありませんよ。召喚されたということは聖女様であることに間違いないですし、髪色とか、瞳の色で判別は……はい」




と、ブライトは、何か引っかかるような……といった顔をしつつも、そう答えた。やっぱり、ねじ曲げられていると。本来、黄金の髪に、白い瞳を持ったのが聖女だといわれ、エトワール・ヴィアラッテアの養子は、聖女とかけ離れているからと、疎まれてきた。けれど、この世界では違うようで、容姿は関係無いと。召喚されれば、それは聖女だというのだ。私の時とは大違いに……




(そこまで、する必要がある?いいや、そこが、重要要素なのは分かってるんだけど)




 そこまで、変えられるエトワール・ヴィアラッテアの力に、私は恐怖するしかなかった。根付いていた価値観をガラリと変えてしまうほどの影響力。それを持っているのだ。私なんかが勝ち目、あるのだろうかと、そう思ってしまうほどに。




「ステラ様、どうしました?」

「いいいいえ!何処かの文書で、聖女は、黄金の髪を持って、純白の瞳を持っているものだと……見た気がしたので……そ、そうでしたか、あはは」

「はい」

「その、聖女様っていうのは、銀髪で、夕焼けの瞳を持っている人ですか?」

「はい、その通りです。エトワール・ヴィアラッテア様……エトワール様です。ステラ様は、会ったことがあるのですか?」

「い、いえ、風の噂で」




 私は、すぐに視線を逸らした。自分で彫っておきながらも、この話題は嫌だと感じたから。かつては、その名前で呼んでもらっていたから、違和感があるというか、悔しさだけが膨らんでいく。そんなこと、今のブライトにいっても仕方がないことだろうけれど。




「そうなんですね。一度あってみて欲しいです。といっても、聖女様なので、そう簡単に会える相手ではありませんが」

「そ、そうですよねー!ブライトは、近くで見えていいよね。その、聖女様の近くにいるって!何だか、凄いことじゃん」

「家の仕事でもありますから。でも、僕なんかが教えるものもなくて。魔法の訓練については、一人で行っているようで」




と、ブライトは言って視線を下に落とす。


 本来であれば、ブライトに教えて貰って、そこで好感度を……という感じなのだろうが、エトワール・ヴィアラッテアはそれを拒否しているというのだ。けれども、ブライトはそんな彼女であっても、許せると……本当に洗脳で、恐ろしく思う。

 何とか言ってあげたいのに、何も言えない自分が不甲斐なかった。ブライトは、そのままでもいいのだろうが、モヤモヤしているに違いない。




「そもそも、聖女様なので。僕が教えるほどでもないんですよ。これなら、災厄が来ても大丈夫だと」

「ブライトに教えて貰えるって、ちょーラッキーなことじゃん。それをきょひるってそっちの方がおかしいと思う……思います!」

「す、ステラ様?」




 思わず、口に出てしまった。ブライトは目を丸くして私を見て、パチパチと瞬きをする。そりゃ、いきなりこんなことを言われたらびっくりしてしまうだろう。私は、咳払いをして誤魔化した。




「な、何か、ブライトに教えて貰える聖女様が羨ましいなと思っただけで、嫉妬というか……あはは、醜いですよね」

「ステラ……様」

「は、はい、何ですか」

「ああ、いえ。そんなこと始めていわれました。僕は、教えるのが苦手なので……でも、魔法は好きですから、魔法を通して、相手のことを理解していければなと思っていたんですが。そうですね……本当に始めていわれて、ありがとうございます。ステラ様」

「あああ、いえ、いえ、いえ!私、思ったこと言っちゃっただけなので!聖女様に、失礼かなあとも思って」




と、何となくそれらしい理由をつけてまた誤魔化した。ちょっと良心が痛い。でもこれくらいなら許されるだろう。今すぐにでも、その聖女は酷い奴なんですと言いたいが、それはできない。




「話を戻してもいいですか」

「え、ああ、はい。どうぞです」

「それで、フィーバス卿の協力は仰げそうになくて」

「ああ、お父様の……まあ、そう、ですね……仕方ないかも。私から言っておいてもいいですけど、多分変わらないと思います」

「だと思います」




 苦笑して、ブライトは私の方を見る。彼も彼で苦労しているのに、何も出来ないのが辛かった。かといって、フィーバス卿に無理に頼み込むのも、私がその会議とやらに出席することも出来ないだろうなと。

 ブライトは立ち上がって頭を下げた。




「色々と話してくださってありがとうございました。ステラ様」

「い、いえ。こんな話でよければ、また」

「また?」

「ええっと、また、とかあれば、話したいなと思っているんですけど。その、ブライトと私の仲かなーとかおもっちゃって。あはは、馴れ馴れしいですよね」




 私は、また笑う。距離感が分からなくなってきた。どうせっすればいいのか、けれど、ブライトは何処か嬉しそうに笑う。




「また、ですか。また……そうですね、僕も、ステラ様とまたお話したいです」

「はい!」

「ああ、そう言えば、ステラ様。皇宮でパーティーが行われるのはご存じですか?」

「パーティー?」



 また、違う。前の世界とは違う、パーティーという単語に私は首を傾げるしかなかった。




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