表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

684/1352

86 しっくりこない




「アルベド・レイ公爵子息……レイ卿……」

「はい。ブライト様もご存じだと思いますが、アルベド・レイ公爵子息様……闇魔法の家門、問題児、異端児の公子」

「……存じております。レイ卿のことは、よく」

「ということです。まあ、そこから色々あってフィーバス卿……お父様の娘になったわけですが」

「その、色々とは?」

「私が話せるのはここまでなんですよーあとは、ご想像にお任せします」

「……」

「――って事じゃダメですか?」

「そうですね、ステラ嬢にも話したくないこととかあるでしょうし」




 ブライトは、ここは引くしかないと思ったのだろう。押し黙って私の方を見る。

 こちらが線を引けば入ってこないところがいいなと思った。自分もそうだからというのがあるのだろう。ここまで、いえば、きっと彼はその後を想像して、自分なりに答えを出してくるはずだと。なので、今度は、こっちが答える番だと、私はブライトに微笑みかけた。あっちがその気なら、こっちもその気にならなければならない。覚えていないのだから。

 けれど、私は彼の事情も、弟……ファウダーのことも何もかも知っている。だからこそ、下手にまた言わないように気をつける。それしか出来ることは無かった。




「それで、どうぞ。ブライト様」

「……ステラ嬢は」

「はい」

「何故、そんなに壁を作るのですか?」

「はい?」




 ドンとこい、と構えていたからだけ会って、その質問を投げられ、私は一瞬固まってしまった。彼は今何を言ったか。私が壁を作っているといった。でも、それは、そう……ブライトがやっているから真似したのであって。




(もしかして……?)




 彼の好感度が少し揺れていた。3%と刻まれたそれは、南京錠のマークが表示されている。記憶が戻りつつある証拠だった。けれど、これも下手に喋るわけにはいかなかった。いたって冷静に慎重に。そうでなければ――




「壁を作っているとは?よく分かりません。それに、初対面の人に、全てを明かせるほど、その人と距離が近いわけじゃないですよ?ブライト様」

「……っ、そうですか」

「そうです」

「何だか、慣れないというか。こうじゃなかったような気がしたので」




と、ブライトは頭を抱えていた。もしかしたら、彼への洗脳はそこまで深いものじゃないのかも知れない。いくら、エトワール・ヴィアラッテアがもの凄い魔力を持っていたとしても、イメージが継続できなければ、その魔法は途切れてしまう。それに、多分、洗脳の魔法を継続して、続けているのはリースだろうから。でも、自分のものにしたいという気持ちは、あるのだろう。攻略キャラは自分のものだと、そう言わんばかりに。


 話してしまえば、どれほど楽だろうと思う。でも、それはできない。だからこそ、ゆっくりと彼との壁を壊していければいいと思う。私が壁を作っているのは、彼が壁を作っているから。それに、彼はその内気づくだろうし。チャンスが来たのは確かだが、焦らずに距離を縮めていかないといけない。焦ったら、また彼との距離が出来てしまう。がっつきたいのは、本当に山々だけど。




「ステラ嬢……僕と、何処かであったことはありませんか」

「それは、質問ですか?」

「はい……いえ。これは…………あの時、助けてくれたのは、ステラ嬢で間違いない……それは、さっき言ったとおりですよね」

「はい。そうです。貴方の、弟が誘拐されそうだったので」

「フィーバス卿の養子になる前は、レイ卿の元にいて……貴方の側にいたのは、レイ公爵家の使用人ですか?」

「そう、ですね……」




 ルチェのことだろう。久しぶりに会いたい気持ちもあるが何となく、ルチェに会いにいくのに、アウローラを連れて行ったらダメそうだということは想像できる。あまりにも、タイプが違いすぎるから。

 それで、まだ、ブライトは混乱しているようで、言葉を探すように私に質問を投げてきていた。本当なら、もっと突っ込みたいところだけれど、今は聞き手にまわった方が良さそうだと。




「ヘウンデウン教との繋がりは」

「それもさっき言いましたけど、ないです。個人的に、ヘウンデウン教のことは調べていますよ」

「何故?」

「何故って、危ないからです。災厄を引き起こす混沌を目覚めさせようとしている団体だから……それに、非人道的な実験も行っていると噂に聞きますしね」

「混沌……」




 ちらりと、ブライトが見る。多分、ファウダーのことを気にしてのことだろう。それを私が知っているかどうか探りを入れてきているに違いない。変な沈黙が続きながら、それを少し壊しては壁の中に戻って行くブライトとの話が続いた。




「その、ステラ嬢は大丈夫なんですか?」

「何がですか?」

「……ファウ……弟は、病気を持っているんです。触れると、移ってしまう不治の病に冒されていて……ステラ嬢は、弟に触れていらっしゃったので。その、とても心配でした。守ってくれたのは、本当に嬉しいです。ですが、貴方に何かあったかと思うと」

「私は大丈夫です。弟さん、大変ですね」

「え、ああ、はい……」




 それも知っている。初めて会ったときについた嘘とそのままだった。ファウダーを他人から引き離そうとするためのどうしようもない嘘。でも、ファウダーの手を握ったら、触れたら、気持ちが落ち込んでしまうというのは、彼が混沌だからだろう。正体がばれないため、そして、周りが傷つかないために配慮してくれていたブライトのことは、今でも凄いと思っているし、尊敬している。けれど、混沌であり、でも弟であるとその間で揺れて、どっちも守れなかったブライトのことを……そして、ファウダーのことを、この世界ではどうにかしてあげたいと思った。例え、前の世界に戻るとしても。

 私は、ブライトの方を見た。ソワソワとしている彼に何て声をかければ良いか分からなかった。でも、安心させてあげたかった。




「本当に、私はなんともないので。でも、本当に弟さん大変そうなので、私に出来ることがあれば、言って下さいね」

「ステラ嬢に?」

「はい!こうして、顔見知りになったわけですし、お父様に頼み込めば、領地からも出ることは出来るでしょうから。ブライト様の所に行くことも出来ますよ」

「そんな、申し訳ないです……」




 ブライトはそういって視線を外した。あまり、好ましく思わないのだろう。彼の好感度が上がらないのは、そのせいかもしれない。まだ、何処か他人行儀で。

(分かってる。元から、上がりにくいタイプだったじゃん) 

 こうして、素っ気なくされるのが本当は辛いんだと胸がチクチクとした。大丈夫だって話し掛けたけれど、全然大丈夫じゃなくて。本当のことを話してしまいそうになる。そしたら、分かってくれるかも知れないって。




「ステラ嬢」

「何ですか、ブライト様」

「その……変かも知れませんけれど、僕のこと、ブライトって呼んでくれませんか」

「え?」

「ああ、やっぱり変ですよね。でも、何だか……貴方に、ブライト様なんて様付けされるのが気持ち悪くて……ああ、いえ、その変な意味ではなく、傷付けたのならすみません。ですが、やっぱり、しっくりこないのです」




 ブライトは私の方を見た。何かを探ろうとするでも、真っ直ぐとした瞳。私に、ファウダーのことを打ち明けてくれたときの瞳と似ている気がした。輝くアメジストは。




「ブライト」

「はい」

「ブライト、これでいいですか」

「はい、ありがとうございます。ステラ様」




 ステラ様、と何かが吹っ切れたように、ブライトは柔らかい笑みを私に向けた。彼の頭上の好感度は、8%に上昇した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ