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82 輝く毛玉




(――って!違う!なんで遥輝なの!?)




「ステラ様、一人で何やってるんですか」

「えええ!あ、違うの!ええっと、いい名前思い浮かばないなあと思って!アウローラは……いや、まって私がつける!私の犬だから!」

「誰もそんな取りませんよ……お好きにつければいいじゃないですか」

「そ、そう……」




 一人でテンパっていた所を見られたらしい。恥ずかしすぎる。それよりも恥ずかしいのは、遥輝なんて名前が出てきてしまったことだ。女々しすぎるというか、やっぱり、心の中では彼を求めているというか……ううん、ずっと求めているんだけど。それが、表に出てきてしまったことで、寂しさがグッと込み上げてきた。

 だって、遥輝の髪は金髪じゃないし、瞳だってルビー色じゃない。でも、私の中の遥輝は今や、リースと重なって、彼がリース・グリューエンで。

 私が悶々と考えていれば、心配そうに黄金のポメラニアンが私を見上げていた。犬にまで心配されるようになっちゃった自分が恥ずかしい。犬って人の感情読み取れるんだ、すごーいなんて感心している自分もいる。




「ええっと、今の遥輝っていうのは、アンタの名前じゃなくてね、名前考えてあげるからちょっと待ってね……!」

「……」

「えーっと、リース……とか」

「グウウッゥ」

「え、え、怒ってる!?ごめんって、さすがに、皇太子の名前は不味いよね……えーっと」




 続けざまに失敗してしまって、ポメラニアンの機嫌はさらに悪くなってしまっていた。言語も分かるんだろう。話せないだけで、伝わっているのかも知れない。でも、皇太子の名前を知っている犬って珍しいというか、ここ以外では見かけないんじゃないかと思った。それだけ賢い犬なんだろう。

 まあ、私もリースって言ったお馬鹿さんだから、犬にも見下されているのかも知れないけれど……そうじゃなくて、名前を考えないと。




「えーっとうんと、あ、あ、あ、輝くって意味で、ルーチャットってどう!?」

「……キャン!」




 今度はお気に召したのか、嬉しそうに私の腕の中で、尻尾を振っているポメラニアン……あらため、ルーチャット。さすがに、ポメなんて呼び方はポメラニアンに対して失礼だと思ったので、やめた。私の中にこんないい名前が浮かんでくるなんて思いもしなかったので、ナイスと自分で自分を誉めている。

 ルーチャットと呼べば、キャンと吠えてくれるルーチャット。まるで、可愛い子分が出来たようだった。




「アウローラ、名前決まった。この子の名前決まったよ!」

「そーですか、それはよかったですねー」

「ルーチャットっていうの!覚えてね、アウローラ」

「あーはいはい」




と、面倒くさそうに返されたが、これはいつもの事なので、私はスルーした。何よりも、この腕の中のルーチャットが私を癒やしてくれたから。そんなルーチャットは吠えるけれど、嬉しそうなかおをしないというか、ずっとムスッとしているというか。そういうところも、リースに似ているなあとつくづく思った。いや、どちらかといえば原作の――




「お父様に、報告してこなくちゃ。じゃあ、アウローラまたね!」

「あまり走らないで下さいよー!一応、ステラ様は令嬢で……っていっちゃった。はあ」




 後ろから、アウローラのやれやれみたいなため息が聞えたけれど、私は急いでフィーバス卿の元にむかった。さすがに、犬を追い出せといわれはしないだろう。でももしものことを考えておいた方がいいかもしれないと。

 フィーバス卿の屋敷は静かで冷たい。アウローラの近くが温かいのは、彼女の持っている魔法の属性のおかげだろう。彼女から離れると、少し寒く感じる。でも、着せて貰っているドレスはどれも暖かくて、身体が完全に冷え切ることはない。

 黒い絨毯が敷かれた廊下を走って、フィーバス卿の元にむかう。勢い出来ちゃったけれど、もし仕事をしていたらどうしよう。邪魔になるんじゃないか、そう思いながら、私はノックをする。




「誰だ」

「す、ステラです。お父様にお話があってきました」

「話……?分かった、入れ」




と、内側から、冷たい声が響く。また、恋愛の話だと思っているのだろうか。それはさすがに勘弁して欲しい。私は、行儀が悪いと思いつつも、ルーチャットを抱きかかえながら、方で扉を押し開けて中に入る。


 フィーバス卿は、資料の積まれた机の向こう側に座っていて、仕事中のようだった。一体何の仕事をしているのだろうか気になったが、フィーバス卿は私が入ってくるなり、席を外し、こちらに向かってきた。やっぱり威圧感というか、背筋が伸びる。私は、ルーチャットを抱きしめてフィーバス卿を見上げた。身長差もあるから高圧的。




「その毛玉はどうした」

「あ、あ、このルーチャット……犬を飼って良いかと聞きに来たんです。一応、お父様の許可を取った方がいいかと思いまして」

「俺の許可?」

「はい。お父様が犬嫌いじゃなければ良いんですけど……責任持って育てるのでどうか!」

「……」

「だ、ダメですか」

「いや、そんなこといちいち聞かなくていい。お前の好きにすればいい」

「ほ、本当ですか!やったあ!」

「ステラは幸せだな。いや……俺も、ステラの顔が見えて嬉しい。何でもないことでも良い。話しに来てくれると、俺は嬉しいぞ。ステラ」

「あ、あ、はい」




 臭い台詞、と思いつつも、フィーバス卿なりの気遣いというか、本音というか。少し柔らかい表情になったところで、私は力が抜けた。もし、断られていたらどうしようって思っていたからだ。そうだった場合、ルーチャットを野に放たなければならなかったわけだし。

 私は、許しを得たことで、ルーチャットをお父様にみせた。




「名前、ルーチャットっていいます」

「名前まで付けたのか。早いな。俺の許可を取る前に」

「え、ああ、ごめんなさい。お父様なら許してくれるかなあ……とか思っちゃって。勢いでつけちゃったので」

「そうか、ステラは趣味がいいな。だが、その毛玉は妙な気を感じるな」

「気ですか。何か、アウローラも、敵意を感じるっていってましたけど、私には感じられなくて」

「動物というものは、主には懐くがそれ以外には……というのはよく聞く。その類いかも知れないな。まあ、ステラに害がないなら良い」




 きっと、ここでさっき噛まれました! っていったら、私からヒッペがえして怒るんだろうなと言うことが目に見えていた。だからいわなかったけれど、フィーバス卿もアウローラも妙なことをいうなと思った。もしかして、本当にリース関連だったり……




「この犬が皇族と繋がっている可能性とかあるんでしょうか」

「毛玉がか?あり得ないだろう。さすがに、皇族の血をひく犬などいないだろう」

「そ、そうですか。でも、毛並みが、あまりにもリース……皇太子殿下に似ていたもので」

「ステラは、皇太子殿下と会ったことがあるのか?」

「え、あ……」




 そう言えばその事はいっていない。また、墓穴を掘ったと、私は固まった。まあ、見たことがあるぐらいならいっても良いだろうと、私は口を開く。




「あります。遠くから見た程度ですが、いずれ帝国を背負うお方として、本当に輝かしい……太陽のような人でした。眩い黄金の髪と、ルビーの瞳は……」

「そうか。まあ、あの容姿だ。目立つのは分かる。だが、皇太子はやめておけ」

「ま、またその話ですか!?」

「聖女と婚約しているそうだ。まだ、式は上げていないが、婚約者がいる男性には手を出せないだろう」

「……あ」




 フィーバス卿の言葉を受けて、私は腕が緩んでしまった。ルーチャットはストンと下に落ちたが、怪我はなさそうだった。




(そうだ、リースは……そんな……)




 あまりにも話が早い。でも、エトワール・ヴィアラッテアなら……そう考えると、胸がギュッと締め付けられ、現実に引き戻される。ダメだ、やっぱり。このままじゃいけない。手のひらに爪が食い込んだが、私はフィーバス卿を安心させるために偽物の笑みを作った。




「そうですよね。聖女様と……あはは、お似合いです」





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