表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

672/1353

74 私にやらせてください!





 追求してくるものだと思ったけれど、アウローラは何も言ってこなかった。

 普通なら、アルベドと、ラヴァインと繋がりがある私にまたぴーぎゃーいってくると思ったけれど、彼女は何故か大人しくなった。もしかしたら、この空間にいて、恐怖が膨らんでそんなこと聞く気にもなれないのかも知れないと。そうだったら、何だか申し訳ないなあと思った。でも、私は信用して貰うために、今は手段を選べない。アウローラは、前の世界では、繋がりがなかったわけだし、だからこそ、新たに信頼を勝ち取るための方法を私なりに模索しなければならなかった。




「ステラ様」

「な、何。アウローラ」

「本当にごめんなさい。なんだか、色々カッとなってて」

「あ、えっと、大丈夫!うん、本当に大丈夫だから!」

「……何だか、さっきとは別人ですね」




と、アウローラはぼそりと言う。確かに、さっきは私もちょっとカッとなってあんな風に言い返したけれど、本当の私はあんなに気が強いタイプじゃない。でも、手段を選んでいられないって分かっているからこそ、前に強くでなければと思ったのだ。それが、あんな形で出てしまっただけで、私はアウローラと違って、陰キャだし。


 ちらりと、アウローラを見たら、何処か不安そうに瞳を揺らしていた。




「もしかして、怖い?」

「こ、こわ!?こわくなんて、ななななな、ないですよー真っ暗で、何か寒いなあー程度にしか思っていないんで」




 嘘が下手だった。私もこんな風に嘘をつくことがあるからよく分かる。やっぱり、暗いのは怖いんだと。

 私が、フフフ、と笑うと、アウローラは笑わないでくださいよ、と怒る。普通に会話できて何だかほっとしたのと同時に、彼女もちゃんと女の子なんだなと思った。いや、陽キャが、女の子じゃないと言わないし、逆に、陽キャの方が女の子らしいというか、ああ、今の時代女の子らしいとか言わない方がいいのかも知れないけど。




(リュシオルとも、ルチェとも全然違うタイプだけど、ちゃんとメイドというか……)




 これまで、私の侍女として働いてくれた二人はどちらかというと静かなタイプで、仕事をそつなくこなすタイプだった。だからこそ、アウローラは、あの二人と違って……リュシオルが長女で、ルチェが次女なら、アウローラは末っ子といったところだろうか。




「怖いのは、私もそう」

「ステラ様が、怖がってどうするんですか!ステラ様しか、倒す方法知らないっていたのに」

「そうだね……まあ、倒すっていうか、核を潰すっていうか」

「本当に、こんな魔物がいるなんて……ヘウンデウン教は何をしたいんだろ」

「ヘウンデウン教……」




 目的は、混沌の復活。でも、混沌は前の世界で眠りについて、今回は強制的に起こされてしまったけれど、彼の意識は前別れたときのままだしヘウンデウン教が望むシナリオには絶対ならない。それが分かったら、ヘウンデウン教はどうするのか、暴動を起こすのか。




(いや、エトワール・ヴィアラッテアが、ヘウンデウン教に関わっている可能性が大きい異常……混沌がいなくても……)




 ファウダーは、そもそも権能が奪われてしまってといっていた。だから、混沌にエトワール・ヴィアラッテアが成り代わる可能性だってあるわけだ。だからこそ、それを食い止めなければ。




(待って、エトワール・ヴィアラッテアを倒したら、その身体はどうなるの!?)




 皆の記憶を呼び戻したとして、どうやって前の世界に戻すのか。今偽りの世界は、偽りだと皆にバレないまま進んでいる。その偽りの世界を覆っている皮膜を壊せば、元の世界に戻るのだろうか。仕組みがそう言えば、よく分からない。もし、方法が、エトワール・ヴィアラッテアを殺すとかだったら、私の身体はどうなるのだろうか。

 そもそも、私が死んで戻っている世界なのだとしたら。




「んー」

「どうしましたか、ステラ様」

「ううん、何でもない!早いところ片付けて帰ろうってはなし!」

「そーですね。で、なんで魔物の中がこんなに寒いんですか」

「アウローラ、寒さに弱いの?」

「弱いというか、まあ、何て言うんです?私の魔力と、寒さが合わないというか……」

「魔力と?」




 私が振返った瞬間だった。ピシピシと地面が割れる音がし、私達の足の間から、氷の柱が飛び出した。




「危ない!」




 咄嗟に、アウローラを庇って地面に倒れるが、想像以上に、地面が冷たくて、身体が冷え切りそうだった。魔物がいる場所によって、魔物の内部が変わるのか、それとも、魔物が環境を取り込んで、その環境を作り出しているのか。




(でも、フィーバス卿の氷と比べたら温かい方……)




「す、ステラ様すみません」

「いや、私もごめん。怪我無い?というか、いきなりの攻撃……まだ、核が近くにあるかも分からないのに」

「その核って何なんですか」

「人の心臓みたいなもの。この魔物を倒すには、その核を潰さなきゃいけないの。っていっても、その核を守る為に、多分何重にも堅いバリケードしてあるんだろうけど」

「とにかく、潰せばいいってことですね。了解です!」

「あ、あ、っさり……いや、でも、ほんと大変だから」

「まっかせてください。私も戦えますよ。この魔物が、氷魔法を使うなら、私は相性がいいと思います」




と、アウローラはえへん、というように胸をはった。アウローラは胸がない方だから、胸をはっても、あってないようなものだった。


 まあ、そんなことよりも、核が近くにあるかも分からないのに、私達に攻撃を仕掛けてきた。核は、分かりやすいものから、分かりにくいものもある。今回は、どっちの方なのか分からない。だから、むやみやたらに行動して、はぐれるのは避けたいところだった。




「勝手に動かないで。ここで、はぐれたら、会えるか分からないし」

「この内部ってそんな危ないんですか?」

「アウローラ聞きたいんだけど、何か、感情がブワッと押し寄せたり、むかむかしたり、めちゃくちゃ怖いとかない?」

「何ですかそれ、ステラ様の言っていることの方が、無茶苦茶です……」

「……」

「って、冗談ですよー!で、何でしたっけ。えーっと、感情?大丈夫……いや、ちょっと、いつも以上に、怖いかもです」




 アウローラは、ヘラヘラとした顔で言ったため、それが本当に怖いのか、怖くないのか分からなかった。でも、いつもの彼女は持っとこう、無鉄砲なんだろう。だから、恐怖を感じても、そこまでその感情が大きくならない。

 災厄と同じ影響を与える、人工魔物の内部。ここに長くいて、正気ではいられない。だからこそ、一刻も早くここから脱出しなければならない。私は、大分体勢がついたけど、アウローラはそうじゃないだろうから。




「何か可笑しかったら言って。あと、この内部、地形が変わるの。だから、はぐれたら一生会えないと思って」

「はーい」




 返事が軽い。

 毎回突っ込むことも疲れるし、どっちかといったら、ツッコミではない気がしたので、私は口を閉じる。今は、核を探すことに集中だ。




(――っていっても、攻撃はくるんだよね)




 また、ピシピシと真っ黒な地面が音を立てる。本当に、氷海が割れるような、氷が割れるような音だ。冷気に包まれて、魔力も溜めづらい。

 足下から突き出た柱を避けながら、私とアウローラは核を探した。すると、キラリと、闇の中で何かが光った。




「あった。アウローラ、前!」

「ほんとですね、人間の心臓みたいです!」




 凍った心臓。いや、氷のような色と質感なだけで、それは確実に脈打っていた。どんな原理で動いているか分からないけれど、確かに氷の心臓は動いている。

 私達が近付こうとすれば、上から氷柱が降ってきた。




(これじゃあ、前に進めない……)




 どうせ、光の弓矢を放ったところで、氷でガードされるに決まっている。光の弓矢の威力は高いけれど、あれだけ堅いものを砕ける自信がない。




「ステラ様」

「な、何、アウローラ」




 にこりと、自信満々に私を見るアウローラ。何か、いい策でも思いついたように私を見つめていた。




「私にやらせてください!氷砕くの大得意なんですよ」




 そう笑ったかと思うと、アウローラは手に集めた魔力をまるで球を投げるように振りかざした。黒い球体が核にむかって飛んでいく、そして――ドカンッ! と大きな音を立てて爆発した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ