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70 辺境伯領周辺の異変




 辺境伯領の外は吹雪いていた。




(中でも、あんなに寒いのに外ってさらに寒いんだ……一応、火の魔法を掛けてきたけど、それでも寒い、かも……)




 あそこが温かかったのは、人がいるのもそうだが、フィーバス卿の魔力が流れているおかげもあって温かいのだろうと気づいた。屋敷の中はもっと温かいし。何故、こんなに寒いかは分からないけれど。




(寒いのは、魔力と関係しているかも知れないんだよね……) 




 本当に分からない。魔力とか魔法とか、奥深すぎて。きっと、前世の文明の進化のように、魔法も進化して、研究が続けられて。でも、解明されないんだろうなあ、なんて思いながら、うっすらと雪の積もった大地を踏みしめる。




「それで、魔物って何処にいるの?」

「えーそんなの、自分で見つけるんですよ。もしかして、魔力感知も出来ないんですか?」

「できるし……いちいち、突っ込まないと、気が済まないの!?」

「あー怒った。怖いです、ステラ様―」




 相手にするだけ無駄だったと思った。彼女は、メイド服の上にもこもことした上着を着ている。上質な素材で出来ているから、給料で買ったんだろう。フィーバス卿に使えていたんだし、いい給料が貰えて当然か、と思いながら、彼女は自分に火の魔法を掛けていないのかと思った。たんに寒がりなだけかも知れないけど。




「アウローラって、寒がりなの?」

「へ!?なわけないじゃないですか!これは、フランツ様から貰った初給料で買ったものなんですー肌に離さず持っていて悪いですか!?」

「いや、だからそこまで言ってないって」

「もしかして、寒いんですか?あげませんからね!」

「はいはい……」




 ちょっと前までは、きっと私がアウローラと同じ立場だっただろう。ギャンギャン騒いで、聖女らしくないっていわれて。でも、それがいつの間にか、落ち着いたというか。今でも、オタクが出てしまうこともあるけれど、それよりも、怒りとか殺意とか……エトワール・ヴィアラッテアに対する感情のせいで、一周まわって冷静になったと言うか。




(あの頃の、私がリース……好きっていってくれたのになあ)




 今の私を見たら幻滅するかなあ、なんて想像したくもないことが頭をよぎる。変わっていく私のことも好いていてくれた彼だ。でも、この変容は違う。今の私は、身体を取り戻すことだけ考えているから……きっと、冷徹な人間なんだろう。それを、よく知っていて、間近で見ているのはアルベドだろう。でも、彼は私のことを肯定し続けてくれている。それが、申し訳なくて、今の私を本当に、人間として好いてくれているのだろうかと不安になる。

 今考えても仕方ないことだけど。




「いいね。初給料」

「な、なんでか、いきなり!?やっぱり寒いんでしょ!?」

「大丈夫だし。火の魔法かけてるから。もしかして、アウローラかけてないの?」

「えっ!?いや、なわけないって、ないでしょ!?」

「寒いならいえば良いのに」




 魔力を感じない。羽織り物からは、微量の魔力を感じるけれど、彼女が自分に魔法を掛けた痕跡はなかった。そりゃ、寒いに決まっている。魔力量が多ければ、基本体温は高いはずなんだけど、フィーバス卿は違うし。アウローラがどうかは知らないけれど、寒いなら強がらなければいいのに、と私は彼女に火の魔法を掛けた。一瞬彼女は驚いたものの、自分に掛けられた魔法が何か瞬時に理解し、私の方を向いた。




「お、恩を売ろうっていうんですかあ!?」

「いや、だから、寒そうだから。寒そうな、人……ほっとけないでしょ」

「や、やっぱり、偽善者」

「……」

「…………こういうところが、フランツ様、好きなんだろうな」

「何か言った?」

「いーえ、なーにも、寒いのでちゃっちゃと、魔物見つけて倒しちゃって下さいよ」

「倒すって、それが目的じゃないでしょ」

「辺境伯領周辺の治安維持も、フィーバス家の令嬢としてのつとめなんですー」




 初めて聞いたし、実体違う、そういいたかったけど、いうのも疲れたし、と私は魔力感知をしてみる。確かに魔物がぽつぽつといるし、モアンさん達が住む村の近くにいた魔物とは比べものにならないほどの強さだ。まあ、気を抜かなければ死ぬことはないだろうし、別に、心配はないけれど。

 ちらりと、私はアウローラの方を見た。彼女は強いっていうことはさっきの会話で分かった。あれがハッタリだとは思わない。じゃないと、フィーバス卿が彼女に信用を寄せる理由が分からないから。だから、彼女を守って戦う必要はない。足手まといがいないなら、自由に動ける。それに、彼女のいったとおり、人間じゃなければ、少しは罪悪感が取っ払われて、魔力をぶつけやすくなるかも知れない。




(……でも、なんか嫌な胸騒ぎ)




 風向きとか、天気とか気にしたことなかったけど、何というか、辺境伯領の外はどんよりとしていて、何が出てきてもおかしくないなと思った。そういえば、何故辺境伯領周辺の魔物は、辺境伯領外部にはいってこようとしているのか。人間を喰らうためか、それとも、結界が邪魔だからたんに破壊しようとしているだけか。




「アウローラ聞いていい?」

「何ですか。無駄口叩いていてないで、早くして下さいよ。で、何ですか」




 あ、ちゃんと聞くんだ、と私は拍子抜けしながらも、彼女に聞いてみた。私よりもここに長くいる彼女なら何か分かるかも知れないと。




「辺境伯領には、魔物が入ってこないようになってるじゃん」

「勿論ですよ。フランツ様の魔力は偉大なので!」

「その結界って、魔物の侵入を防ぐ以外に、何か効果ある?例えば、寄せ付けないとか」

「何でですか。それ、今関係あります?」

「関係あるから聞いてるの。いいから、答えて、大事なこと」




 私がそう言えば、ムッとしたように、アウローラは口を尖らせた。




「寄せ付けない効果はありました。前までは。でも、最近それをかいくぐって結界近くまでくる魔物がいるんですよ。何か、まえ赤いぶよぶよしたのいましたし」

「待って、今、何て言った!?」




 思わず、アウローラの肩を掴んでしまった。何!? と、アウローラは目を丸くする。今の言葉が間違いでなければ、それは魔物だけど魔物じゃなくて……




(いや、さすがに、あれの存在、知るわけないよね……あれが、出てきたのって、結構あとだし……)




 忘れもしないグロテスクな塊。星流祭の後だったか、あれを見たのは。何度か見たことがあるし、あれを魔物というにはおぞましすぎるというか。けれど、あの実験を知っているのは、あそこに始めていったからであって、アルベドがあの正体について言及してくれたからであって。だから、普通は知らないのだ。というか、知りたくもないだろうし、ヘウンデウン教もそれを隠している。生物兵器みたいなものだったし。




「そ、それで、何なんですか。ステラ様!」

「それ、魔物じゃないかも」

「はい!?」

「ま、魔物かも知れないけど、その赤いぶよぶよしたやつ。それ、一体だけ?もう少しいた?」

「さあ、前に騎士団にちょろーと話し聞いただけで、今はいないんじゃ無いですか?動きが遅かったら、他の魔物に食われているかもだし!」




 いや、そんなはずない。というか、あれは、他の魔物さえ食って強くなるような感じじゃなかったかと、記憶の端っこにあるものを持ってきた。未知な部分がおおいのは全くそうで、倒すのもやっと。それに、あれは、純粋な魔物じゃないから、結界の近くに集まってくるのかも知れない。人間を取り込もうとしているから……

 結界に穴が開いてしまったのもそのせいかもしれない。だったら、ヘウンデウン教がこの間襲撃してきたことも繋がるかも。

 そう思っていると、バサバサ! と、木々からカラスが飛び立つ音が聞えた。そして、近くの茂みが揺れる。暗い林の中から顔を出したのは、三匹の黒い狼だった。




(凶暴化した、魔物……これくらいなら、倒せる、大丈夫。いける)




 アウローラは後ろで高みの見物といわんばかり笑ってる。すぐに倒して、フィーバス卿に報告もしたい。こんな所で、足止めを喰らっている場合ではない。

 私はそう思い、いつもより早く手に魔力を集め、光の剣を生成した。




「アウローラ、下がってて」

「いわれなくても。ご武運を、ステラ様」




 私は、地面を蹴って駆けだした。





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