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69 認めさせるには




「へえ、ステラ様ってそんな顔出来るんですね。以外です」

「……」

「私に押されて、おどおどしていたので、それがデフォなのかなあと思いまして」




 デフォなんて、今時の子でも使わない。何でも略せばいいってもんじゃないのに。私は、視線を逸らすことなく、じっと彼女を見つめる。それで、ようやく、先ほどまでの私と違うと思ったのか、彼女はずんと顔を暗くした。感情がすぐ顔に表れるタイプは楽でいい。グランツみたいに、何考えているか分からないタイプの方が面倒くさい。この犬っこちゃんは、私がどうにか手懐けてみせる。




(――って、犬じゃないし!動物好きだけど、懐かないんだよねえ!グランツは懐いたけどそうじゃないし!)




 いや、あれも懐いたか微妙なラインだと思う。信仰心が強いし、独占欲というか、嫉妬の固まりで……

 ああ、じゃあ、アウローラも同じタイプだ、と私は思ってもう一度彼女の方を見た。そう思えば、グランツと同じだと思えばいいのかも知れない。よくない、けど、いや、本当にグランツが二匹……二人いるのも辛いけど、でも――




(蔑みも、いじめも、もうヘでもないから!嫌だけど、でも、大勢から向けられる、侮辱の、差別の目よりかまし)




「確かに、出自不明で、記憶喪失なんて……どっかのスパイって思われるかも知れないけど。本当に覚えていないの。どこから来たとか」

「それにしては、綺麗な容姿ですねえ。何処かのご令嬢だったんじゃないですか?それとも、捨てられちゃったとか?」

「……」

「あー気にしないで下さい。わたしも一緒なので。元々、子爵家の生まれだったんですけど、捨てられちゃって。昔の家、お兄様より強い女はいらないって、酷いでしょ。で、捨てられたんです。そこで、フランツ様に出会って、拾って貰って」

「だから?」

「は?」




 確かに、その境遇は悲しいものだろう。そんな悲劇にあらわれたフィーバス卿は、救世主といって良い。彼女が、フィーバス卿に心酔する理由は分かった。でも、私に敵意を向けていいわけじゃないと思う。それを、フィーバス卿が望まないと思うから。そんなこと、盾にはしたくないけれど、それでも、私が貴族令嬢になった証として、その権力は正しく振るわないといけないと思った。この、礼儀知らずな侍女に。

 それに、どこの貴族もまあ、いらなくなったら子供を捨てるのは変わらないようだった。ノチェもそうだったし。だから、珍しくないって言ったら怒られるけど私が知る限り二人目……




(なんて、言えればいいんだけど、実際怖くて何も言えないんだよねえ……)




 立ってられるのもやっとだと思った。でも、フィーバス卿のこと、これまで見てきた貴族のこと。それらを踏まえて、私がここで頭を下げることも、謝罪することも何か違うと思った。私がおかしいのか。いや、勝手にいちゃもんつけてきあっちが悪い。というか、本当にフィーバス卿は何故彼女を私につけたのか、そこが不思議でたまらなかった。アウローラのこのはつらつとした性格に絆されているからか、騙されているからか。でも、フィーバス卿が騙されるとは考えにくい。多分、何か考えがあるのだろう。




「わたしにとって!フランツ様は救世主そのものなの!アンタこそ、フランツ様に取り入って……誑かして、養子になったとかじゃないの!?」

「……何を言っても無駄?」

「無駄!」

「……」




 子供と話しているみたいだと思った。私も、実際子供らしい一面があるから、人のこと言えたような立場じゃないんだけど、それでも、周りが見えなくなっているのはいけないと思う。一応、私は主人なわけだし……




「そんなに私が気にくわないの?」

「だって、分からないじゃん。よく分かんないんですよ!ステラ様のこと!フランツ様も、いきなりわたしに押しつけてきて。気があうと思って!気、全然合わないです!」

「私もそう思う」

「じゃあ、侍女変えますか!?」

「ううん、このままでいい」

「はあ!?」




 もう、これ以上キャンキャン騒がないで欲しい。耳が痛い。そんなこと彼女にいったら、また逆上しそうなので、言わないでおくけれど。一応、貴族だったんなら教養とかそういうのを身につけているはずなんだけどなあ、と溜息が出そうになる。

 まあ、とにかく、私が気に入らないってことは変わらないみたいだった。フィーバス卿も本当に、よく彼女をよこしたと。




「それで、私に出ていって欲しいの?」

「べっつにーそこまで言ってませんけど?ステラ様が、フランツ様の娘の座につくだけの、実力が分かればいいんですよ」

「実力」

「だって、フランツ様は、最高の魔道士!あのブリリアント卿も、その魔法を学びにくるほどの大魔道士!そーんな、フランツ様の娘は、勿論、フランツ様には及ばずとも!フランツ様を守れるくらいの魔法は使えるんですよね、ね!」

「……」

「どうにかいったらどうなんですか!」




 いや、もう相手にしたくない。何これ、何の茶番? 彼女は知らないだろうけれど、この身体は初代の聖女のものだ。確かに、フィーバス卿が魔法を使い慣れているからといって、多分、この身体を使いこなせたら、私の方が強いことは確実だろう。それは、経験の差。私が最大限に魔力を発揮できないのは、何処かで自分を抑えているから。それがなければ、きっと、私は魔法を……

 無い物ねだりをしても仕方がない。いまできることしか、私には出来ないのだから。高望みは悪いことじゃない。向上心さえあればどうにかなる。でも、アウローラはそれで満足するだろうか。また、何か言ってきそうだ。




「私が、魔法を使えたらそれでいいの?」

「フランツ様ぐらい使えないと認めません!」

「アウローラは、お父様の娘になりたかったの?」

「……それは、別に。フランツ様とは……今でも十分幸せなんですよ!なのに、フランツ様のお世話係から外されて!」




(あーそれが理由なのね)




 嫌う理由としては、まあ十分かも知れない。推しに近づけたと思ったら引き剥がされて、出禁になるみたいな。私はなかったけど、そういう人いっぱいいたし、推しに絡みにいきすぎてSNSの利用停止になった人とかみたしその類いだろう。でも、推し……好きな人から引き剥がされるのは、これ以上ないほどの絶望。その気持ちは分かってあげたい。




「じゃあ、どうしたら認めてくれるの?」

「どうしたら、ですか?うーん、そうですね。取り敢えず、わたしより強いってこと証明して下さい」

「戦うってこと?」

「はい!あ、でも、ステラ様、人に対してはストップかかっちゃうタイプなんですよね」

「なんで知ってるの?」

「フランツ様が、ステラ様はやさしーって一杯誉めてましたから!誉めてましたからね!?」

「……それで、どうすればいいの」

「えーそうですね~辺境伯領から出てみましょうか」

「それって、魔物と戦えってこと?」




 私が言うと、彼女はにこりと笑った。あー嫌になる。こういうタイプ嫌だあ、私嫌い! って心の中で叫んだけど、いっても仕方がない。侍女か、エスコートしてくれる人がいなきゃ、社交界に出たとき変だし、そういう意味では、アウローラを説得して、どうにか、侍女として私の側にいて貰わないと。

 思考回路がぐちゃぐちゃだった。これでいいのかとか、この方法で合っているのだとか。本当にもう分からない。でも、実力を見せつけるだけでいいのなら簡単だと思った。今の私は、魔力が無限。体力さえ削られなければ、無限に魔法が打てる状態。

 けど、一つ気になるとすれば、辺境伯領外の魔物の強さだろう。




(フィーバス卿の魔法によって頑丈に領地は守られているけれど、その外って、凄く危ないっていってたよね……)




 さすがに、レヴィアタンほどの魔物は出てこないだろうけど、束になってこられたら困るなあとは思う。




「怖じ気づいたんですか?」

「まさか。ちょっと、外に出たかったから。ちょうどよかったと思って」

「そ、そうですかあ……」

「アウローラ、連れて行ってくれる?」




 私は、余裕たっぷりに彼女に微笑みかけた。




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