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66 黒い手紙




「はあ……」




 何でこんなことになったんだろう。

 フィーバス卿が私の恋路……じゃなかった、婚約とか、結婚に首をあそこまで突っ込んでくるとは思わなかった。いや、何も言っていないし、勝手に勘違いされているだけなんだけど。




「うーん、なんか!なんかこんなものなの!?」




 やっぱり、家族ってよく分からない。娘おもいのいいお父さんだとは思うけれど、慣れなくて、私もどう対応すれば良いか分からなかった。婚約とか、そんなの考えたこともなかった。

 ううん、違う。リースとは考えていた。エトワール・ヴィアラッテアが介入してこなければ、私達は結婚していたと思う。トワイライトにも、他の攻略キャラにも祝福されて、悪役だっていわれていたけれど、それも拭って……




(いや、それも違う。拭いきれてはない)




 私が、災厄をどうにかしたけれど、その手柄は何故かトワイライトに渡っていたし、災厄が過ぎ去ってからも、私を偽物呼ばわりする人は後を耐えなかった。それが、現実で、変えられなかったこと。だから、自分を大切にしてくれる人に縋って、そこだけをみて幸せになろうとした。でも、それが祟ったのか、あんな結末に。

 今更考えても、現状がこうなのだから仕方がない。そう思うことにして、私は、寝転がっていたベッドから降りた。

 やることは今日もない。護衛をつけて、辺境伯領をまわったりしたけれど、とくに変わった様子もなく、外に出たら寒いだけということに気づいたので屋敷の中に居ることにした。アルベドは一週間経っても帰ってこなかった。そして、つい先ほど手紙がと届き、あと二週間はかかるという連絡があったのだ。




「嘘つき……」




 誰とも話せない、こんな退屈で仕方ない毎日を過ごすのは辛かった。早く、エトワール・ヴィアラッテアを何とかしなければならないのに、動けない状況で。フィーバス卿に頼めるわけでもなく。でも、変わったことといえば、正式にフィーバス辺境伯の養子になったと言うことだろうか。まあ、一通も、お茶会とか誘われたことないんだけど。

 自分から売り出さなきゃ、やっぱり変わらないのかなあ、なんて思いながら、私は部屋を出ようと歩いた。すると、部屋がゆっくりと開かれ、見慣れた白銀が姿を現す。




「お、お父様!?」

「ステラ。すまない」

「ええッと、ノックはして欲しかったです」




 あってそうそう、こんなことを言って良いのか分からなかったが、口から出てしまったものは、訂正しようがなく、私はぺこりと頭を下げた。何のために来たのだろうか。相変わらず、フィーバス卿の行動が分からない。私の為、というのが根本にあるのだろうけれど、そこが、私とすれ違っているせいで空まわっているというか。




(お父様にそう言うこと思うのやめたいんだけど!)




 心の中ではそう叫んでいる。でも、それが表に出たら、また変な人だと思われかねないので、口を閉じておいた。私は、にこりと笑って、フィーバス卿の方を見る。




「それで、お父様何のご用でしたか」

「顔を見に来ただけだ」

「それだけですか?」

「……はあ。お前宛に手紙だ」

「私宛に?アルベドからは、さっききて……」




と、私が言いかけると、フィーバス卿はジッと私の方を見てきた。何か、怪しむようなそんな目で。またなんかしてしまったかと、固まっていれば、フィーバス卿は懐から、一通の手紙を取りだした。黒い封筒に、紫色の封蝋がおしてある。何処の家紋かよく分からないけれど、貴族からなのは確かだ。もしかして、お茶のお誘いかと思ったが、フィーバス卿の態度を見る限り、絶対にあり得ないと思った。


 なら、誰が私に手紙を送り付けてきたのだろうか。私が顔を合わせたのは、グランツと、ブライトと……アルベドくらいで。色合てきにはブライトを思い出したけど、ブライトの手紙って白にアメジストだった気がするし、こんな毒々しく……




(毒々しい?)




「え、あの、あのー」

「誰か分かるのか?」

「いや、分かんないですけど。なんか、その手紙嫌です」

「俺も嫌だ。はあ、全く何で、こんな奴から……破り捨ててやってもいいが」

「中身は?」

「確認するわけないだろう。仮にも、お前宛のものを」




 ですよね。さすがに、フィーバス卿もそんなことしませんよね! と、私は、あけていないこと、そして、破り捨てられていないことを感謝した。こんなことで喜んで良いのか分からないけれど。でも、その手紙の相手が、もしかしたら……と思って、あけたくない気はもの凄くあって。

 私は、フィーバス卿から手紙を受け取り、レターナイフでスッとあけた。見たくないし、何が書いてあるだろうと、嫌なドキドキが加速する。こんな、脅迫状みたいな手紙受け取ったことがない。いや、アルベドからはあるけど、いい人だって分かった今は、お遊びみたいなものだったと気づいたし。

 フィーバス卿も中身が気になるようで、その場を動かなかった。




「あの、お父様は、この手紙が誰から来たものか知っているんですか?えっと、知ってて、嫌がっているんですよね」

「ああ……」

「あの、教えていただけませんか?」




と、私はわざとらしく聞く。知っているけど、知ってたらまた何か言われそうで怖かったから。フィーバス卿の眉間には深い皺が刻まれて、いいたくないというのがひしひしと伝わってくる。まあ、闇魔法の家門が、光魔法の、それもフィーバス卿のもとに……(正式には私だけど)届くなんて珍しいことだろうから。




「ギフト伯爵」

「ギフト伯爵……」

「なんで、お前にあのネチっこくてウザったらしい、伯爵家が……まさか、縁談じゃないだろうな」

「だ、だから何でそれに繋げるんですか!?さすがにないですって!?」




 フィーバス卿の周りが冷たくなったので、怒っているんだなと瞬時に察する。フィーバス卿は、怒ると熱くじゃなくて、冷たくなるから。まあ、そんなことはどうでもよくて、やっぱりこの手紙の差出人は、ギフト伯爵だったのかと。




(ラアル・ギフト……でも、彼奴が、この時点で私のことを知っているっておかしくない?)




 ラアル・ギフトはヘウンデウン教の幹部にして、毒魔法の使い手。災厄が過ぎ去った後、色々あって戦うことになった、混沌と、エトワール・ヴィアラッテアの信者……そんな彼が、何故私の元に手紙を送ってきたのか。私の存在なんて知るはずもないし、彼が記憶を持って遡っていたとしても、私の存在に気付くはずがないのに。

 だから、違和感というか、一つ、もしかして……というのは、浮かんできた。でも、それが本当だったとして、分かっててこんな真似を?




「どうした。ステラ」

「いえ……何で、私に、そんな伯爵がって思ったんです」

「俺も、理解できない。お前を正式に養子に迎えたというのは、社交界で広まっているらしいが、闇魔法の家門がわざわざ……何か裏があるかも知れないな」

「裏……」

「その手紙には、魔力を感じなかった。だから、渡しても大丈夫だと思ったんだ。何かあれば、俺がまず気づいて、処分しているだろう」

「手紙に何かしかけられたこととかあるんですか!?」




 どういうことだろう。手紙に魔法を仕込むって、そこまでして相手を苦しめたいのかと。闇魔法の貴族、ふくめ魔道士が信用ないのはそう言うところだろうと私は絶句した。まあ、フィーバス卿は魔力感知にも優れているだろうし、気づいてどうにかしてくれるんだけど、問題は、この差出人が、本当に人間だった場合の話だ。




「じゃ、じゃあ、あけます。読みますからね」




 私は、封筒から真っ黒い紙を取りだし、そこに書かれていた白いインクで書かれた文章を読み上げた。





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